お知らせ

2017年10月13日研究開発成果 世界初、ダイレクトリプログラミングによるマウス及びヒト腸前駆細胞の作製―腸疾患の病態解析や再生医療への応用が期待される画期的な成果―

国立大学法人九州大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

九州大学生体防御医学研究所の鈴木淳史教授と大学院医学系学府博士課程4年の三浦静の研究グループは、世界で初めて、マウスの皮膚やヒトの血管の細胞に4つの転写因子(Hnf4α、Foxa3、Gata6、Cdx2)を導入することで、直接、胎児性の腸前駆細胞へ変化させること(ダイレクトリプログラミング)に成功しました(図1)。

食物の消化や吸収を担う小腸や大腸は、胎児期の腸管を形成する腸前駆細胞が成体型の腸幹細胞へと成長することで形成されます。本研究で誘導に成功した胎児性の腸前駆細胞は、培養下で三次元組織構造体(オルガノイド)を形成して増殖し、成体型の腸幹細胞が作るオルガノイドへと成長します(図2)。得られた成体型の腸幹細胞は、腸上皮組織を構成するすべての細胞へ分化する能力(多分化能)と長期間自己と同じ細胞を作り続ける能力(自己複製能)を有します。また、誘導した胎児性の腸前駆細胞や成体型の腸幹細胞が作るオルガノイドを大腸炎モデルマウスに移植すると、長期間、腸上皮組織を再構築することが可能です。

腸上皮オルガノイドは、生体外で腸上皮組織を維持・培養できることから、基礎研究だけでなく、移植医療や創薬研究への応用も期待されています。しかしながら、材料となる腸の組織を生体から生きたまま取り出すことは患者さんへの負担が大きく、また、多能性幹細胞から分化誘導する場合も複雑な方法が必要です。ダイレクトリプログラミングの手法によって作製される腸前駆細胞を用いることで、これら既存の方法に対し、より簡便かつ効率的に腸上皮オルガノイドを取得できるようになると考えられます。今後、作製した腸上皮オルガノイドを用いた腸疾患の病態解析や再生医療、創薬研究への展開が期待されます。

本研究成果は、2017年9月22日(金)午前1時(日本時間)に米国科学雑誌『Cell Stem Cell』オンライン版で発表されました。

図1

図1:本研究成果の概略図

図2

図2:皮膚由来(A)と腸由来(B)の腸上皮オルガノイド

背景

食物の消化や吸収を担う小腸や大腸は、胎児期の腸管を形成する腸前駆細胞が成体型の腸幹細胞へと成長することで形成されます。近年の研究により、これら胎児性の腸前駆細胞や成体型の腸幹細胞の培養系が確立され、三次元培養下において、それらは生体内の腸上皮組織を模倣した三次元組織構造体(オルガノイド)を形成することができます。腸上皮オルガノイドは、生体外で腸上皮組織を維持・培養できることから、基礎研究だけでなく、移植医療や創薬研究での利用も期待されています。しかしながら、材料となる腸の組織を生体から生きたまま取り出すことは患者さんへの負担が大きく、また、多能性幹細胞から分化誘導する場合も複雑な方法が必要です。そのため、腸上皮オルガノイドを医療や創薬に応用するためには、腸上皮オルガノイドの新たな供給源の確保が望まれます。

さまざまな器官や組織を構成する細胞の運命はそれらが形作られる発生過程で決定(プログラミング)し、一度決定した細胞運命は二度と変更されることはありません。しかしながら、細胞運命の再編成(リプログラミング)に関する近年の目覚ましい研究の進展によって、細胞の遺伝子発現や周辺環境に人為的操作を加えることで、その細胞の分化状態を強制的に変更して全く別の性質をもった細胞を生み出せることが明らかになりました。この現象は、細胞運命の直接的なリプログラミングということから「ダイレクトリプログラミング」とも呼ばれ、将来の革新的医療を担う新しい技術として世界中で注目されています。

そこで本研究では、細胞の運命を人為的に直接変化させる技術である「ダイレクトリプログラミング」の手法を用いて、胎児性の腸前駆細胞や成体型の腸幹細胞、並びにそれらが作る腸上皮オルガノイドを別の細胞から作製できないかと考えました。

内容

研究グループは、過去に行った研究の中で、ダイレクトリプログラミングの手法により、マウスの皮膚の細胞から肝細胞を作製することに成功しています(Sekiya and Suzuki, Nature, 2011)。そこで本研究では、この知見を活用しながら、胎児性の腸前駆細胞を作製すべく研究を進めました。その結果、マウスの皮膚やヒトの血管の細胞に4つの転写因子(Hnf4α、Foxa3、Gata6、Cdx2)を導入することで、これらの細胞を、直接、腸前駆細胞へ変化させることに成功しました(図1)。

本研究で誘導に成功した胎児性の腸前駆細胞は、三次元培養下で腸上皮オルガノイドを形成して増殖し、成体型の腸幹細胞が作る腸上皮オルガノイドへと成長します(図2、3)。得られた成体型の腸幹細胞は、腸上皮組織を構成するすべての細胞へ分化する能力(多分化能)(図4)と長期間自己と同じ細胞を作り続ける能力(自己複製能)(図5)を有します。また、誘導した胎児性の腸前駆細胞や成体型の腸幹細胞が作る腸上皮オルガノイドを大腸炎モデルマウスに移植すると、長期間、腸上皮組織を再構築することが可能です(図6)。以上の結果から、誘導した胎児性の腸前駆細胞や成体型の腸幹細胞は、生体の腸上皮組織を形成する腸前駆細胞や腸幹細胞と同様の性質を有することが明らかとなりました。

図3

図3:ダイレクトリプログラミングによってマウスの皮膚細胞から作製された胎児性の腸上皮オルガノイドは、マウス胎児腸組織由来のオルガノイドと同様に、三次元培養下で球形のオルガノイドを形成して増殖し、成体型の腸幹細胞が作る腸上皮オルガノイドへと成長します。皮膚由来並びに腸組織由来のオルガノイドは、判別がつかないほどよく似ています。

図4

図4:ダイレクトリプログラミングによってマウスの皮膚細胞から作製された成体型の腸上皮オルガノイドでは、成体マウス腸組織由来のオルガノイドと同様に、腸幹細胞が腸上皮組織を構成する4つの細胞に分化します。

図5

図5:ダイレクトリプログラミングによってマウスの皮膚細胞から作製された成体型の腸上皮オルガノイドは、成体マウス腸組織由来のオルガノイドと同様に、腸幹細胞の自己複製能によって6ヶ月以上の継代培養が可能です。

図6
図6:誘導腸上皮オルガノイドの移植による大腸上皮組織の再生

(A)ダイレクトリプログラミングによって作製された胎児性のマウス腸上皮オルガノイドは、大腸炎モデルマウスに移植後、大腸上皮組織を再生します。図中、茶色に染色された細胞が移植細胞由来の細胞です。
(B)ダイレクトリプログラミングによって作製された胎児性のヒト腸上皮オルガノイドは、大腸炎モデルマウスに移植後、大腸上皮組織を再生します。図中、黄色に染色された細胞が移植細胞由来の細胞です。

今後の展開

ダイレクトリプログラミングの手法によって作製される腸前駆細胞を用いることで、既存の方法に対し、より簡便かつ効率的に腸上皮オルガノイドを取得できるようになると考えられます。今後、作製した腸上皮オルガノイドを用いた腸疾患の病態解析や再生医療、創薬研究への展開が期待されます。

論文

著者:
Shizuka Miura and Atsushi Suzuki
題名:
Generation of Mouse and Human Organoid-Forming Intestinal Progenitor Cells by Direct Lineage Reprogramming
掲載誌:
Cell Stem Cell

本研究について

本研究は、文部科学省科学研究費補助金(23112002, 25713014, 16H01850, FDG6J02459)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「エピゲノム研究に基づく診断・治療へ向けた新技術の創出」研究開発領域(※)における研究開発課題「肝細胞誘導におけるダイレクトリプログラミング機構の解明とその応用」(研究開発代表者:鈴木淳史)、及びAMED「難治性疾患実用化研究事業」における研究開発課題「腸幹細胞直接誘導法を利用した難治性腸疾患病態モデルの構築」(研究開発代表者:鈴木淳史)の一環で行われました。

(※)本研究開発領域は、平成27年4月の日本医療研究開発機構の発足に伴い、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)より移管されたものです。

お問い合わせ先

内容に関するお問合せ

九州大学生体防御医学研究所 器官発生再生学分野
教授 鈴木 淳史
TEL:092-642-6449 FAX: 092-642-6444
E-mail:suzukicks”AT”bioreg.kyushu-u.ac.jp

事業に関するお問合せ

国立研究開発法人日本医療研究開発機構

AMED-CRESTについて
基盤研究事業部研究企画課
TEL:03-6870-2224 FAX:03-6870-2243
E-mail:kenkyuk-ask“AT”amed.go.jp

難治性疾患実用化研究事業について
戦略推進部難病研究課
TEL:03-6870-2223 FAX:03-6870-2243
E-mail:nambyo-info “AT”amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

関連リンク

< 戻る

最終更新日 2017年10月13日

知的財産

研究公正

公募情報