お知らせ

2017年2月24日プレスリリース iPS細胞から血液脳関門モデルの作製に成功

京都大学iPS細胞研究所(CiRA)
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

ポイント

1.要旨

山水康平特定拠点助教(京都大学CiRA増殖分化機構研究部門)、山下潤教授(京都大学CiRA同部門)らの研究グループは、ヒトiPS細胞から血液脳関門のモデルを作製することに初めて成功しました。

血液脳関門を構成する、血管内皮細胞・周皮細胞・ニューロン・アストロサイトという4種の細胞をヒトiPS細胞からそれぞれ分化誘導し、共培養しました。すると、血管内皮細胞は、脳血管内皮細胞に特徴的な栄養輸送体や排泄輸送体を強く発現し、また、互いに密着結合(注6)することで強いバリア機能を示しました。このように血管内皮細胞が脳血管内皮細胞の特性を獲得するためのメカニズムを調べてみると、ニューロンにおけるDll1遺伝子の発現によりNotchシグナル伝達系(注5)が活性化されることが必須であることが分かりました。iPS細胞から作製した脳血管内皮細胞を、iPS細胞由来アストロサイトと共培養することで、体内の血液脳関門と同様の薬物の透過性を示す血液脳関門モデルを作製することに成功しました。今後、このモデルを用いることで、血液脳関門の機能やアルツハイマー病などの神経変性疾患と脳血管の関連についてのさらなる理解や薬の開発に役立つことが期待されます。

この研究成果は2017年2月23日(米国東部時間)に米国科学誌「Stem Cell Reports」でオンライン公開されました。

2.研究の背景

血液脳関門は、脳に特異的な血管内皮細胞(脳血管内皮細胞)が、周皮細胞・ニューロン・アストロサイトに囲まれた構造をしており、脳血管内皮細胞どうしが密着結合することで、分子が中枢神経系に拡散するのを制限するバリア機能を果たしています。また、脳血管内皮細胞は、糖やアミノ酸などの栄養分を細胞膜へ透過させるための輸送体に富んでおり、栄養分が効率的に血液から脳に取り込めるようになっています。また、物質を排出するための輸送体も多く存在し、それにより毒素や病原体が脳に入るのを阻止し、脳を守る役割も果たしています。一方で、そのバリア機能により中枢神経系疾患をターゲットとした治療候補薬も脳内に到達することが難しいために、開発を断念せざるを得ないことが多く、創薬において大きな課題となっています。また、脳血液関門の障害がアルツハイマー病やパーキンソン病を含む神経変性疾患(注7)と関連していることが知られています。それらの病気のメカニズムの解明や創薬研究に向けて、血液脳関門のモデルの作製が求められていました。

これまで動物由来の血液脳関門モデルが作製されていますが、ヒトの血液脳関門の特性や機能とは異なります。そこで、ヒト血液脳関門モデルの作製を目指して、がんやてんかんの患者さんの脳から毛細血管を単離したり、不死化した毛細血管を使ったりするなどの試みがありましたが、十分な量や機能を示し、再現性の高い血液脳関門モデルの作製に至っていませんでした。

3.研究結果

1.ヒトiPS細胞から血液脳関門を構成する4種類の細胞を作製した

グループはまず、ヒトiPS細胞から、血液脳関門を構成する血管内皮細胞と周皮細胞の作製に取り組みました。iPS細胞から分化12日目には、同じ細胞集団から91%の血管内皮細胞と9%の周皮細胞が得られました。分離した血管内皮細胞は血管様構造を構築するという機能を確認することができました。

説明図・1枚目(説明は図の下に記載)
図1. iPS細胞から分化した血管内皮細胞(分化9日後)

青色:細胞核、緑色:血管内皮細胞、赤:血管内皮細胞
スケールバー:200µm

続いてiPS細胞から血液脳関門を構成する他の細胞である、ニューロンとアストロサイトを作製しました。iPS細胞から神経前駆細胞の過程を経て、まず一部がニューロンへと分化し、その後培養条件を変えることで、さらに一部がアストロサイトへと分化しました。

2.血管内皮細胞が、血液脳関門に特異的な脳血管内皮細胞となるためのメカニズムを解明した

血管内皮細胞と周皮細胞の分化系において分化7日目の細胞群に、分化90~120日後のニューロンとアストロサイトを混合し、共培養しました。

説明図・2枚目(説明は図の下に記載)
図2. iPS細胞から脳血管内皮細胞を作製する流れ

iPS細胞から血管内皮細胞・周皮細胞・ニューロン・アストロサイトの
4種類の細胞へと分化し、共培養することで脳血管内皮細胞を作製した。

5日後に単離した血管内皮細胞を調べてみると、通常の血管内皮細胞と比較して、6種類の栄養輸送体や排泄輸送体を含む、血液脳関門に特異的な輸送体や受容体が高く発現していることが分かりました。この結果より、血管内皮細胞が血液脳関門を構成するような脳血管内皮細胞の特徴を獲得するには、ニューロンやアストロサイトとの間での相互作用が必須であることが示唆されました。

血管内皮細胞が脳血管内皮細胞の特徴を獲得するメカニズムを調べるため、ニューロン・アストロサイトと共培養した血管内皮細胞において、DAPTという薬剤でNotchシグナル伝達系を阻害しました。すると、血液脳関門の特異的な輸送体の発現が阻害されるなど、Notchシグナル伝達系が脳血管内皮細胞の特徴を獲得する上で関与していることが示唆されました。

さらに、どの細胞がNotchシグナル分子を活性化しているかを調べるため、ニューロンに高く発現していて、Notchシグナル分子の1つであるDll1タンパクをつくるDll1遺伝子に着目しました。分化120日目のニューロンとアストロサイトにおいて、siRNA(注8)を作用させてDll1遺伝子の発現をノックダウン(注9)した後、血管内皮細胞と周皮細胞を合わせて共培養したところ、血液脳関門に特異的な輸送体の発現が阻害されました。このことより、ニューロンにおけるDll1遺伝子の発現がNotchシグナル伝達系を活性化することが、脳血管内皮細胞を作製する上で必須であることが示されました。

3.ヒトiPS細胞から血液脳関門モデルを作製した

次にグループは、血液脳関門モデルの構築を試みました。まず、iPS細胞から分化誘導し、共培養した4種の細胞から脳血管内皮細胞を純化し、培養皿に播種し、7日間培養しました。すると、作製した脳血管内皮細胞では経内皮電気抵抗(注10)が高く、密着結合が形成されていることが分かりました。また、アストロサイトと共培養することで、経内皮電気抵抗が劇的に高くなり、より強固な密着結合が形成されていました。

説明図・3枚目(説明は図の中に記載)
図3.血液脳関門モデル作製における培養方法
培養皿の頂端側にiPS細胞由来脳血管内皮細胞を播種し、
基底側に播種したiPS細胞由来アストロサイトと共培養した。

電子顕微鏡でも脳血管内皮細胞間での密着結合が確認され、そのバリア機能により分子の透過性が低下していることが実験から分かりました。

説明図・4枚目(説明は図の下に記載)図4.iPS細胞由来脳血管内皮細胞の電子顕微鏡像
iPS細胞由来アストロサイトと24時間共培養したiPS細胞由来脳血管内皮細胞。
右図は左図中点線部分の拡大図。スケールバー:(左)2µm、(右)750nm

これらの結果から、ヒトiPS細胞由来の脳血管内皮細胞を用いて、強いバリア機能を持つ血液脳関門のモデルを作製できたといえます。

4.iPS細胞由来血液脳関門モデルで薬物の透過性を検証した

作製したiPS細胞由来血液脳関門モデルが、体内の血液脳関門と同様の物質の透過性を示すかを調べました。具体的には、血液脳関門での透過性が既知である医療で使用されている10の薬物の低分子を対象に、作製したモデルを用いてスクリーニングを行いました。すると、カフェインやプロプラノロールのように血液脳関門を透過し中枢神経系へと運ばれる分子は、血液脳関門モデルにおいても高い透過性を示し、スルピリドやエピナスチンといった血液脳関門を透過しにくい分子は、同様に本モデルを用いた場合でも低い透過性を示しました。

これらの結果から、iPS細胞由来血液脳関門モデルは、薬の開発において、その血液脳関門を透過できるかを予測するのに有用であると考えられます。

4.まとめ

本研究ではヒトiPS細胞から血液脳関門を構成する血管内皮細胞・周皮細胞・ニューロン・アストロサイトへと分化誘導し、それらを共培養することで、血管内皮細胞が血液脳関門に特有の脳血管内皮細胞の特徴を獲得するメカニズムを解明しました。また、作製した脳血管内皮細胞を用いて、体内の血液脳関門と同様のバリア機能を有する血液脳関門モデルの作製に成功しました。今回作製したモデルは、今後、血液脳関門の形成や機能についてのさらなる研究や治療薬候補の開発段階でのスクリーニングに貢献できると考えられます。また、中枢神経系疾患の患者さん由来iPS細胞から血液脳関門モデルを作製することで、血管障害がそれらの疾患にどのように寄与しているかを調べることにもつながると期待されます。

5.論文名と著者

論文名
“In vitro modeling of blood-brain barrier with human iPS cell-derived endothelial cells, pericytes, neurons, and astrocytes via Notch signaling”
ジャーナル名
Stem Cell Reports
著者
Kohei Yamamizu1, *, Mio Iwasaki1, Hitomi Takakubo1, Takumi Sakamoto2, Takeshi Ikuno1, Mami Miyoshi1, Takayuki Kondo1, Yoichi Nakao2, Masato Nakagawa1, Haruhisa Inoue1, and Jun K. Yamashita1
著者の所属機関
  1. 京都大学iPS細胞研究所
  2. 早稲田大学先進理工学部
*責任著者

6.本研究への支援

本研究は、下記機関より資金的支援を受けて実施されました。

7.用語説明

(注1)血管内皮細胞
血管の内皮を構成する細胞。
(注2)周皮細胞
毛細血管において、血管内皮細胞の外側で血管壁を取り巻くように存在している細胞。血液脳関門においては、バリア機能の維持に寄与しているといわれる。
(注3)アストロサイト
中枢神経系は、神経細胞と、神経細胞の周囲環境恒常性維持に働くグリア細胞とで構成される。グリア細胞の一種で、脳内の存在数が最も多い細胞種であるアストロサイトは、神経細胞の機能調節、栄養補給、毒性物質の処理、中枢神経免疫など、多面的な役割を果たすことが知られている。
(注4)血液脳関門
脳に特異的な血管内皮細胞(脳血管内皮細胞)が、周皮細胞・ニューロン・アストロサイトに囲まれた構造をしている、脳毛細血管。物質が血中から脳内へ入るのを制限している。脳血管内皮細胞どうしが密着結合することでバリア機能を果たし、高水溶性の物質や大きな分子は透過しにくい。しかし、脳血管内皮細胞には多くの輸送体が発現しており、栄養分などは選択的に透過され、毒物や薬物などは排泄輸送体により血中に戻され、脳内には移行しにくくすることで、脳を守っている。
(注5)Notchシグナル伝達系
多くの多細胞生物で共通に持っている、発生過程や幹細胞における細胞運命決定を調節する細胞間シグナル伝達経路。特に神経や心臓、内分泌腺の発生などにおいて、細胞運命の決定に関わる多様な調節に関わっている。
(注6)密着結合
細胞間結合の一種。血液脳関門においては、血管内皮細胞間の密着結合により、脳内に血液が浸潤するのを妨げるバリア構造ができる。
(注7)神経変性疾患
脳や脊髄といった中枢神経にある特定の神経細胞が徐々に障害を受けて死んでしまう疾患。
(注8)siRNA (small interfering RNA)
21~23塩基対からなる低分子二本鎖RNAで、細胞内に導入する事で遺伝子発現を抑制する。
(注9)ノックダウン
人為的に標的遺伝子の発現レベルを抑制すること。
(注10)経内皮電気抵抗
培養した細胞同士が形成するバリア機能を評価する方法。値が大きくなると、バリア機能が高いことを示す。

お問い合わせ先

内容に関するお問い合わせ

京都大学iPS細胞研究所(CiRA)
国際広報室
〒606-8507
京都府京都市左京区聖護院川原町53
TEL:075-366-7005
FAX:075-366-7185
E-mail:media“AT”cira.kyoto-u.ac.jp

AMED事業に関するお問い合わせ

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
戦略推進部 再生医療研究課
〒100-0004 東京都千代田区大手町一丁目7番1号
TEL:03-6870-2220
FAX:03-6870-2242
E-mail:saisei“AT”amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

関連リンク

 

< 戻る

最終更新日 2017年2月24日

知的財産

研究公正

公募情報