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2017年7月18日プレスリリース 生殖細胞の細胞内代謝の特徴と役割 ―生殖細胞の独特なエネルギー代謝変化の必須な機能―

国立大学法人東北大学加齢医学研究所
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

発表のポイント

  1. マウス胎仔生殖細胞では、多能性幹細胞や生殖巣体細胞と比較して、アミノ酸と核酸の合成経路が亢進していること、また解糖系1の抑制と酸化的リン酸化2の亢進が起こっていることを明らかにしました。 
  2. 酸化的リン酸化の阻害は、胎仔生殖細胞の形成と生存を顕著に抑制し、解糖系の阻害は、胎仔生殖細胞の多能性幹細胞への再プログラム化3を顕著に抑制し、また胎仔生殖細胞形成にも影響することを明らかにしました。
  3. 生殖細胞分化における代謝状態変化の役割と制御機構をさらに詳しく調べることにより、不妊や先天性異常の原因解明につながる可能性があります。

概要

東北大学加齢医学研究所医用細胞資源センターの松居靖久(まついやすひさ)教授と林陽平(はやしようへい)助教らの研究グループは、マウス胎仔生殖細胞の代謝状態が、多能性幹細胞や体細胞とは大きく異なることを見出し、さらにエネルギー代謝の特徴的な変化が生殖細胞の形成・生存と再プログラム化に影響を与えることを世界で初めて明らかにしました。本研究成果は、生殖細胞の形成・分化に、独特な代謝状態が関わっていることを示し、不妊や先天性異常の原因解明につながる可能性があります。

研究結果は、米国科学アカデミー紀要(Proceeding of the National Academy of Sciences of the United States of America) 電子版に掲載されます。

説明図

図.生殖細胞の分化と代謝状態の変化の関係

詳細な説明

細胞の代謝状態は、細胞機能の制御に重要と考えられますが、生殖細胞の代謝状態が分化の過程で、どのように変化し、それが生殖細胞の性質にどのような影響を与えるかは分かっていませんでした。わたしたちは、これらを次のような実験により明らかにしました。

まず生殖細胞特異的に緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するトランスジェニックマウス4を用い、GFP陽性の生殖細胞とGFP陰性の生殖巣体細胞を精製しました。次にそれらを使った網羅的な代謝化合物解析(メタボローム解析)、タンパク質解析(プロテオーム解析)を行い、生殖細胞では体細胞や多能性幹細胞(胚性幹細胞;ES細胞)と比較して、アミノ酸と核酸の合成経路が亢進していること、さらに解糖系の抑制と、ミトコンドリアで効率よくエネルギーを産生する酸化的リン酸化の亢進が起こっていることを見出しました。 

また様々な胎齢由来の胎仔生殖細胞のエネルギー代謝活性を測定し、胚発生の進行に伴う生殖細胞の分化過程で、解糖系活性の低下と、酸化的リン酸化活性の上昇が、逐次的に起こることがわかりました。さらに培養系に阻害剤を添加することで酸化的リン酸化を阻害すると、生殖細胞の形成と生存が顕著に抑制されることを明らかにしました。また同様に解糖系を阻害した場合は、胎仔生殖細胞の多能性幹細胞への再プログラム化が阻害され、また生殖細胞の形成も影響を受けることがわかりました。

これらの研究成果から、胎仔生殖細胞では核酸とタンパク質の生合成が亢進している可能性が示唆され、さらにミトコンドリアでの効率の良いエネルギー産生が生殖細胞の形成と維持に必須であることが明らかになり、こういった代謝の特徴が、次世代個体を担う精子・卵子に分化する上で重要な役割を果たしている可能性が示されました。今後、エネルギー代謝経路の変化に関わる遺伝子を同定し、その変異が引き起こす配偶子形成異常を調べることなどにより、生殖細胞における代謝異常と不妊や先天性異常との関連を解明することが期待できます。

本研究は、東北大学大学院医学系研究科、東北大学メディカルメガバンク機構、慶應義塾大学先端生命科学研究所(山形県鶴岡市)との共同研究で行われました。また本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「エピゲノム研究に基づく診断・治療に向けた新技術の開発」研究開発領域における研究開発課題「世代継承を担うエピゲノム制御の解明」、文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究「配偶子産生制御」、及び東北大学附置研究所若手アンサンブルプロジェクトの一環で行われました。なお、AMED-CRESTにおける本研究開発領域は、平成27年4月の日本医療研究開発機構の発足に伴い、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)より移管されたものです。

用語説明 

*1 解糖系:
細胞質でグルコースをピルビン酸に分解し、グルコースから少量だが迅速にエネルギー(ATP)を合成する代謝系。
*2 酸化的リン酸化:
ミトコンドリアにおいて、電子伝達系に共役して起こる一連のリン酸化によりエネルギーであるATPを大量に合成する代謝系。
*3 再プログラム化:
人為的操作により分化細胞に多能性を再獲得させること。初期化ともいう。
*4 トランスジェニックマウス:
外来性の遺伝子を発現するマウス。

発表論文

Yohei Hayashi, Kei Otsuka*, Masayuki Ebina*, Kaori Igarashi*, Asuka Takehara, Mitsuyo Matsumoto, Akio Kanai, Kazuhiko Igarashi, Tomoyoshi Soga, and Yasuhisa Matsui. (*equally contributed)

Distinct requirements for energy metabolism in mouse primordial germ cells and their reprogramming to embryonic germ cells. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.

お問い合わせ先

研究に関すること

東北大学加齢医学研究所
教授 松居靖久(まついやすひさ)
助教 林陽平(はやしようへい)
Tel:022-717-8571、022-717-8572
E-mail:yasuhisa.matsui.d3“at”tohoku.ac.jp

AMED事業に関すること

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
基盤研究事業部 研究企画課 
Tel:03-6870-2224 
Fax:03-6870-2243
E-mail:kenkyuk-ask“at”amed.go.jp

※Eメールは上記アドレス“at”の部分を@に変えてください。

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最終更新日 2017年7月18日

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