再生医療研究課 再生医療研究における倫理的課題

平成31年2月20日

1.再生医療において倫理を考える意味とは

iPS細胞やES細胞などをはじめとした、加工した細胞を元に治療を行う医療を再生医療といいます。再生医療は、加工する細胞の元となる細胞が多様であり、様々な方法で多数の疾患へ応用できる可能性があるという特徴があります。そのため、倫理的な課題が生じうる場面も一様ではありません。

例えば、細胞の種類一つをとっても、その由来により異なる倫理的な課題が考えられます。ES細胞は、ヒトの胚を利用して作成する必要がありますが、日本では「胚は人の生命の萌芽である」と位置づけられ、胚を滅失することの是非が問われました(ヒト胚の取扱に関する基本的考え方[2004年])。また、死亡胎児組織を利用した再生医療も可能であることから、提供する女性からのインフォームド・コンセントのあり方や死亡した胎児の尊厳等の問題が検討されてきました。さらにiPS細胞では、キメラ動物や生殖細胞作成といった利用方法に関する倫理的懸念があり、関連する指針があります(特定胚の取扱いに関する指針[2009年、2018年12月現在改正中]、ヒトiPS細胞又はヒト組織幹細胞からの生殖細胞の作成を行う研究 に関する指針[2010年])。

また、再生医療の研究で利用する細胞の管理についても倫理的な課題があります。例えば、患者さんや健康な方から頂いた細胞からiPS細胞やES細胞などを作製・複製・保管し、医学研究や治療方法の開発に役立てるように運用する研究基盤として、細胞バンクがあります。細胞を提供した方々に迷惑がかからないよう、個人情報を厳格に管理して運用する必要があるほか、どのような用途に用いるべきか、どのような審査を行うべきかを考慮しながら、利活用を促進する必要があります。

さらに、基礎研究や動物での検証を経て、はじめて人を対象として実施される臨床試験の段階では、参加者の権利と福利を保護するための取組みが重要になります。具体的には、研究の参加者を公正かつ適切に選択する方法、参加者に過大なリスクや負担をかけすぎないこと、参加者が治療としての効果を期待しすぎないようにすることなどを考えながら、臨床試験の計画を立てていく必要があります。

このような諸課題の検討を行い、再生医療をより安全かつ適切に促進していくために、我々課題Dは、顕在化している倫理的な課題だけでなく、埋もれている倫理的な課題も掘り起こしながら、その解決に向けて、研究者や患者さんとともに検討を重ねています。

2.倫理チーム(課題D)の取り組み

われわれのチームは、社会学者、倫理学者、公衆衛生学者、医師、看護師、臨床試験の専門家など多様なバックグラウンドを持つメンバーで再生医療における倫理的課題の検討に取り組んでいます。

再生医療に関わる研究者に対して倫理コンサルテーションを行うと共に(倫理支援)、倫理審査委員会への研修や再生医療に関する一般の方々への知識の普及のための啓発(倫理教育)にも取り組んでいます。さらに、再生医療の倫理的課題を解決するために必要な調査研究に日々取り組んでいます。

StemCell&Ethicロゴ

活動の例

  • 倫理支援=研究者と協議しながら、倫理コンサルテーションを提供しています。具体的には、倫理面からの研究参加者選定に関わる検討、研究結果の返却についての検討、倫理に関わる規制との適合性の検討を研究者とともに考えながら進めるほか、よりよいインフォームド・コンセントの実現のために、説明同意文書のモデル文書や説明補助資料を作成し、広く公開しています。
  • 倫理教育=再生医療の審査委員会向け研修会や、患者・市民参画活動(患者・市民と再生医療に関わる倫理的問題を一緒に検討する会の開催)を実施しています。
  • 調査研究=課題Dの活動を通じて得られた成果の論文をご紹介します。

Inoue Y, Shineha R, Yashiro Y. Current Public Support for Human-Animal Chimera Research in Japan Is Limited, Despite High Levels of Scientific Approval. Cell Stem Cell. 2016;19(2):152-3.
※クリックすると外部サイト「Cell Stem Cell」に移動します。

Kusunose M, Inoue Y, Kamisato A, Muto K. A Preliminary Study Exploring Japanese Public Attitudes Toward the Creation and Utilization of Human-Animal Chimeras: a New Perspective on Animals Containing “Human Material” (ACHM). Asian Bioethics Review. 2017;9(3):211-228.
※クリックすると外部サイト「Springer Link」に移動します。

Takashima K, Inoue Y, Tashiro S, Muto K. Lessons for reviewing clinical trials using induced pluripotent stem cells: examining the case of a first-in-human trial for age-related macular degeneration. Regenerative Medicine. 2018;13(2):125-30.
※クリックすると外部サイト「Future Medicine」に移動します。

3. 各種参考資料

臨床試験・治験を実施する研究者向け

再生医療臨床研究における感染症検査結果の取扱いに関する方針策定のためのガイドライン

本ガイドラインは、再生医療研究において、細胞由来者の適格性判断のために実施する感染症検査において陽性反応が得られた場合の結果の取扱いに関する基本的な考え方を示したものです。補論では、代表的な5つの感染症を取りあげ、具体的な返却の必要性についても例示しています。

再生医療臨床研究における感染症検査結果の取扱いに関する方針策定のためのガイドライン(PDF)
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疾患特異的 iPS 細胞の利活用促進・難病研究加速プログラム_説明文書ひな形

本文書は、再生医療実現拠点ネットワークプログラムで実施されている、iPS細胞の作製ならびにiPS細胞を使用した創薬・疾患研究に関する説明同意文書のひな形です。本文書は、細胞やゲノムデータの解析、カルテ情報を用いた研究における説明の特徴を考慮した内容となっています。

疾患特異的 iPS 細胞の利活用促進・難病研究加速プログラム_説明文書ひな形(PDF)
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特定認定委員会、倫理審査委員会向け

特定認定再生医療等委員会倫理審査フローシート

本シートは「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」の下で、研究として実施される第一種又は第二種再生医療等に対して特定認定再生医療等委員会が行う審査の際のチェックポイントを整理したものです。実際の審査の際以外にも委員教育の場面でも使用して頂けます。

特定認定再生医療等委員会倫理審査フローシート(PDF)
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研究対象者・患者向け

説明補助パンフレット「難病などの研究におけるiPS細胞の活用に関するご案内」

患者さんや健常人ボランティアの方に向けて、iPS細胞を用いた疾患の解明や検査・治療法の開発を目指す研究に細胞の提供を検討して頂く場合を想定して、一目で内容が分かりやすいようなレイアウトを目指して作成しました。
印刷してご利用される場合は、A2サイズ、横向き、両面印刷(短辺とじ)で印刷してください。


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絵本「病気を治す方法や新しいお薬を探すお手伝いのお願い」(web閲覧用)
幼児用


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絵本「病気を治す方法や新しいお薬を探すお手伝いのお願い」(web閲覧用)
低学年用


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漫画「病気を治す方法や新しいお薬を探すお手伝いのお願い」(web閲覧用)
高学年用


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小児を対象とする研究の場合、保護者へのインフォームド・コンセント取得だけでなく、研究対象者となるお子さん本人へのインフォームド・アセントの重要性が述べられています。この絵本は、幼児、小学校低学年、小学校高学年を対象に、iPS細胞研究への参加協力のお願いに関する説明補助資料として作成されました。研究対象となる実際のお子さんの理解能力に応じて、適宜ご利用ください。

臨床研究に関するe-learning

再生医療研究のインフォームド・コンセント

本e-learningは、人を対象とする医学系研究に携わるすべての方を対象に、インフォームド・コンセントの重要な要素について学ぶことを目的として作成されました。再生医療を題材として使用していますが、ここで述べられている内容は、他の研究のインフォームド・コンセントにおいても共通する要素が含まれています。そのため、本講座は、再生医療に限らず、実践的インフォームド・コンセントの教材として広くご活用頂くことができます。


※画像をクリックすると外部サイト「ICRweb 再生医療研究のIC」に移動します。

最終更新日 平成31年2月26日