感染症研究課 エイズ対策実用化研究事業における平成29年度課題評価結果について

平成30年8月
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
戦略推進部感染症研究課

平成29年度「エイズ対策実用化研究事業」の事後評価結果を公表します。

事後評価

1.事後評価の趣旨

事後評価は、研究開発の実施状況、研究開発成果等を明らかにし、今後の研究開発成果等の展開及び事業運営の改善に資することを目的として実施します。

エイズ対策実用化研究事業(以下、本研究事業)では、評価委員会を以下の日程で開催し、本研究事業における事後評価の評価項目に沿って、書面審査及び対面審査にて事後評価を実施しました。

2.事後評価委員会

開催日:平成30年2月3日

3.事後評価対象課題

開始年度 終了年度 研究開発代表者名 所属機関名 研究開発課題名
27 29 俣野 哲朗 国立感染症研究所 HIV感染防御ワクチン開発に関する研究
27 29 滝口 雅文 熊本大学 エイズ治療を目指したHIV免疫の研究
27 29 小柳 義夫 京都大学 HIV-1治癒法構築戦略
27 29 岩谷 靖雅 国立病院機構
名古屋医療センター
新規抗HIV治療開発にむけたシード化合物の創製および薬剤耐性機序の解明研究
27 29 立川 愛 国立感染症研究所 HIV感染症治癒を目指したiPS細胞由来T細胞による新規免疫細胞療法に関する研究
27 29 大森 司 自治医科大学 血友病とその治療に伴う種々の合併症克服に関する研究
27 29 白阪 琢磨 国立病院機構
大阪医療センター
服薬アドヒアランス向上に関する研究
27 29 足立 昭夫 徳島大学 感染動態・病態の連関解明に向けたHIV/AIDSの実証的研究
27 29 照屋 勝治 国立国際医療研究センター ART早期化と長期化に伴う日和見感染症への対処に関する研究
(順不同)

4.事後評価委員

氏名 所属・役職
味澤 篤 財団法人東京都保健医療公社 豊島病院 副院長
今村 知明 奈良県立医科大学 公衆衛生学講座 教授
神奈木 真理 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 免疫治療学分野 教授
佐多 徹太郎 国立感染症研究所 名誉所員
中島 典子 国立感染症研究所 感染病理部第3室 室長
馬場 昌範 鹿児島大学難治ウイルス病態制御研究センター 教授
福武 勝幸 東京医科大学医学部医学科 臨床検査医学分野 主任教授
山本 直樹 東京医科歯科大学 名誉教授
横幕 能行 国立病院機構名古屋医療センター エイズ総合診療部 部長
(五十音順、敬称略、平成30年2月3日現在)

5.評価項目

  1. 研究開発達成状況について
  2. 研究開発成果について
  3. 実施体制
  4. 今後の見通し
  5. HIV/エイズ対策の推進
  6. 研究を終了するにあたり確認すべき事項

6.総評

本研究事業はHIV感染症の予防、診断、治療に係る技術の向上、HIV/エイズ治療を行う上で必要な医薬品、医療機器の開発につながる、基盤技術の開発も含めた基礎・臨床研究を推進することを目標としています。

本研究事業事後評価に際して、平成29年度における研究成果について以下のように分類(新規ワクチン・治療薬開発に関する研究、医薬品シーズ探索に関する研究、HIV感染の機構解明に関する研究、HIV関連病態の解明と治療法開発に関する研究)し、特に顕著な成果について記載致します。

新規ワクチン・治療薬開発に関する研究

  • HIV Env三量体改変抗原の発現SeVベクターとHIV Env三量体改変抗原を搭載した非感染性粒子を用いたHIVワクチン開発を進め、動物実験で抗Env抗体誘導能を明らかにし、交差性の高い抗体誘導の可能性を示した。また、感染急性期抗体受動免疫が機能的T細胞誘導に結びつくことを見出し、抗体がHIV感染防御だけでなく複製制御にも貢献しうることを示した。
  • iPS細胞技術により再生したT細胞による新規免疫細胞療法の開発を行い、高品質なiPS細胞由来HIV特異的T細胞の大量調製に成功した。またアカゲザル細胞でのiPS由来T細胞の作製、移植実験系を構築、サルへの自家移植実験を実施し、サルエイズモデルでの本治療戦略の有効性検証に向けた基盤整備に資する研究データを蓄積した

医薬品シーズ探索に関する研究

  • 新規の作用機序をもつ抗HIV阻害剤につながるシード化合物として、新規のVif 阻害低分子化合物群、および比活性が高いHIV-1 RNaseH阻害シード化合物群をそれぞれ見いだした。さらに、阻害剤と標的分子の構造決定および既存薬剤の新規薬剤耐性機序を明らかにし、今後の理論的薬物設計あるいは改善策につながる学術的知見を得た。

HIV感染の機構解明に関する研究

  • 免疫を使ったHIV-1の完治療法の確立を目指した研究を行った結果、HIV-1増殖をコントロールする10種類のCTLが、流行している大多数の変異ウイルスを認識できることを明らかにし、完治療法用のT細胞として有効であることを明らかにした。また、サルの感染モデル、治療モデルを確立し、有効と思われる治療用アジュバンドを選択した。さらに新たなHIV-1宿主細胞として、fibrocyteでのHIV-1潜伏感染を明らかにした。
  • 感染動物並びに培養細胞モデルでの解析実験から、HIVリザーバ細胞の網羅的RNAプロファイリング及びHIV遺伝子発現誘導小化合物のスクリーニングを行った結果、リザーバ細胞特異的な分子の同定とそれに対する治癒法の確立に資するデータを蓄積した。
  • モデル実験系、検体解析及びラボ実験からなる個体レベルのHIV-1実証研究を実施した。HIV-1急性感染期の動物モデル(アカゲザル)を構築するとともに、Vif発現調節領域SA1D2proxとNefの個体内機能を明らかにした。さらに、新規抗HIV-1細胞因子MARCH8を同定し、その作用機序を明らかにした。

HIV関連病態の解明と治療法開発に関する研究

  • HIV感染症患者と他の慢性疾患患者で服薬アドヒアランスに影響を与える因子について検討を行い、服薬アドヒアランスに関する決定木を推定しフローチャートを作成した。通院HIV陽性患者の調査から、服薬アドヒアランス不良な例の背景などの因子解析、さらには受診中断例の検討を行った。定期受診に関係するカテゴリー、サブカテゴリーを抽出し、さらに施設を拡げてアンケート調査を実施した。これらの研究成果を踏まえて、医師・薬剤師がその場で容易に患者の服薬状況を把握し、適格なアドバイスができるよう服薬支援ツールの機能向上を行った。
  • 日本のHIV関連日和見合併症・悪性腫瘍の疫学データを収集解析しWeb公開した。特定のMRSAクローンの性交渉による水平伝播、miRNAを用いたPML診断法、病理検体からの網羅的病原微生物検出法、QFT残血清を用いた新しい結核診断、免疫再構築症候群発症機構の解明、早期診断におけるクリオグロブリン血症の意義を明らかにした。
  • 血友病研究において、血友病B遺伝子治療の研究では、CRISPR/Cas9とアデノ随伴ウイルス(AAV) ベクターを利用し、生後の血友病Bマウス(第Ⅸ因子欠損)の異常遺伝子の修復に成功し、AAVベクターの発現が減少しても、ゲノム編集の効果が長期間持続することを明らかにした。国内初の血友病患者前向きコホート調査により、インヒビター発生の機序を遺伝子、環境要因からリスクを明らかとし、QOL調査から血友病患者の身体機能、望まれる製剤、医療制度の利用状況を明らかとした。さらに、保因者、血友病家族のためのe-ラーニングを開発し、準備性に応じた支援を行った。

事後評価委員会では、研究課題について計画通りの進捗と評価され、さらに一部の研究課題については計画を超えた進捗があり我が国の健康医療の発展に大きな貢献が期待できる成果と評価されました。

HIV療法の進歩により、HIV感染者の予後は向上されましたが、未だ根治療法は完成しておらず、抗HIV薬の長期服用が必要であり、薬剤耐性ウイルスの出現、副作用、QOLの向上などが重要な課題として残っています。
本研究成果は、これら課題の克服に向けた新しい抗HIV薬、ワクチン等の創出、HIV関連疾患における課題克服に資するものであり、本事業では今後もHIV治療薬・治療法の開発・実用化に向けてさらなる基盤・臨床研究を推進します。

最終更新日 平成30年8月14日