お知らせ

2016年3月23日プレスリリース 視線パターンで思春期・青年期の自閉スペクトラム症を高率で見分けることが可能に

国立大学法人福井大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

研究成果のポイント

臨床場面でも簡便に実施できる視線計測装置Gazefinder®で、自閉スペクトラム症(ASD)のある思春期・青年期男性の視線計測を実施したところ、健康な同年齢集団(定型発達群)と比較して、特有の社会的情報(人の顔における目など)への注視パターンを示すことを明らかにしました。臨床場面で簡便に実施できる機器を用いたASD特有の視線パターンの報告は初めてです。今後、様々な年齢層や対象児者に対しての検証を重ねていくことで、社会性の特徴の把握やASDの診断の補助ツールとしてGazefinder®が広く使用されるなど、ASDの臨床に非常に大きな影響を与えうる研究であると考えています。

本研究は、日本医療研究開発機構「脳科学研究戦略推進プログラム」(平成27年度に文部科学省より移管)の事業の一環として行われ、大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学 連合小児発達学研究科の共同研究として、福井大学子どものこころの発達研究センター 小坂浩隆 特命教授、医学部精神医学領域 藤岡徹 学術研究員、連合小児発達学研究科科長 片山泰一 教授、浜松校 土屋賢治 准教授を中心に行われました。

今回の研究成果は、英国科学雑誌「Molecular Autism」(3月23日付)電子版に掲載されます。

研究の背景と経緯

自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder: ASD)の診断基準の1つである社会性の困難の中に、アイコンタクトの異常(視線が合わない)が含まれています。診察場面では、この診断基準は医療者によって主観的に判断がなされてきました。一方で、社会的情報(人、特に人の顔の目、点がまとまって動いて人の動きに見えるバイオロジカルモーションなど)が提示された時に、ASD児者は特有の注視パターンを示すことがこれまでに多くの研究で報告されています。しかし、これまでの研究で使用された機器は、実際の臨床場面で使用するには設備や準備の関係で難しいという問題点がありました。そこで、この問題点を解決するために、大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学 連合小児発達学研究科が中心となって、幼児期の社会性を客観的に測定することを目的としてGazefinder®が開発されました。このGazefinder®は社会的な情報を含む映像が流れるモニターと視線を検出するカメラが一体化した視線計測装置で、難しい準備が必要なく実施ができ、対象児者はモニターに流れる映像を約2分間眺めているだけで簡単に計測できるという特徴があります。結果は自動的に算出され、実施後すぐに結果を確認することができます。しかし、Gazefinder®は幼児用に作られた経緯があるため、他の年齢層においても社会性を測定するのに有用かどうかの確認はなされていませんでした。そこで、思春期・青年期においても、Gazefinder®は社会性を客観的に測定するのに有用かどうか、またGazefinder®の結果からASD群と定型発達(健康成人)群をどれだけ正確に弁別することができるかを確認することを目的として本研究を実施しました。

研究の内容

知的障害を伴わない思春期・青年期ASD男性群(ASD群)26名(年齢16歳~40歳)と同年齢の定型発達男性群(定型発達群)35名(年齢20歳~41歳)にGazefinder®による測定を実施しました。分析の結果、ASD群で特有の社会的情報への注視パターンが認められました。この結果から、社会性の一部分であるアイコンタクトの異常など独特の注視パターンを客観的に測定する方法として、Gazefinder®が有効であるといえます。また、その注視パターンを利用して判別分析を行うと、感度81%(ASD群の81%を正しくASDと判別)、特異度80%(定型発達群の80%を正しく定型発達と判別)といった高率で判別ができました。これからの結果から、Gazefinder®は思春期・青年期の男性におけるASDの診断補助機器の1つとして有用であると考えられます。

今後の展開

Gazefinder®の幼児期のお子さんへの有用性は、一部の自治体での健診等で確認されつつあります。しかし、その有用性を確固たるものにするためには、年齢層を細かく分けて、その年齢層ごとに多くのお子さんに協力していただいて結果をまとめる必要があると考えています。そのため、現在は幼児期~学童期~思春期のお子さんを対象に全国で大規模にGazefinder®の検証を実施しています。

波及効果

本研究の成果は、これまで医療専門家の主観的な判断に頼ってきたASDの診断に客観的な指標を加えることができる点で、ASDの診療に大きな影響を及ぼすと考えられます。また、乳幼児健診などで社会性の評価のためにGazefinder®を既に導入している地域もありますが、多くの自治体で広く使用していただけるのではないかと考えています。

ただし、Gazefinder®で測定できることは、あくまでもASDの特徴である社会性の障害の一部に過ぎません。つまり、Gazefinder®の結果だけでASDの診断ができるわけでもありませんし、実施した方の社会性の全てが分かるわけでもありません。ASDの診断に熟練した専門家の判断の補助として有用な機器であると考えられます。また、乳幼児健診などでGazefinder®を使用する際は、Gazefinder®の結果から、ASD様の気になるお子さんの経過をフォローできるような体制作りも一緒に行っていく必要があると考えています。

用語解説

(注1)自閉スペクトラム症(ASD)
「精神障害の診断と統計マニュアル」(DSM)(注3)の第5版において、ASDは、下記の2つの特徴で定義されます。DSMの第4版では「自閉性障害(自閉症)」、「アスペルガー障害」、「特定不能の広汎性発達障害」と呼ばれていたものが、若干の診断基準変更とともに「自閉スペクトラム症」に統合されました。

なお、自閉スペクトラム症は、注意欠陥多動症などとともに「発達障害」として分類されます。

「社会的コミュニケーションおよび社会的相互作用の障害」
視線が合わない、独り遊びが多い、友人関係が作れない、他者の表情や気持ちが理解できない、他者への共感が乏しい、言葉の発達に遅れがある、会話が続かない、冗談や嫌味が通じない、など。
「限定した興味と反復行動ならびに感覚異常」
興味範囲が狭い、特殊な才能をもつことがある、意味のない習慣に執着、環境変化に順応できない、常同的で反復的な言語の使用、常同的で反復的な衒奇的運動、感覚刺激への過敏または鈍麻、限定された感覚への探究心、など。

これらの特徴は、強弱こそありますが、誰しもが持っているものです。つまり、これらの特徴は「障害があるか、ないか」という二分法的なものではなく、傾向が強い方からほとんどない方までの連続体(スペクトラム)となっています。ASDの診断は、上述した特徴が比較的強く、その特徴ゆえに日常生活に困難が生じている場合になされます。つまり、ASDと診断された方の中でも自閉スペクトラムの傾向が弱い方もいれば、ASDと診断されていない方でも自閉スペクトラムの傾向が強い方もいるという考え方です。

(注2)Gazefinder®
幼児の社会性を客観的に測定することを目的として、大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学 連合小児発達学研究科と株式会社JVCケンウッドが共同で開発したモニターとカメラが一体化した視線計測器です。難しい準備を必要とせず、約2分間の映像を眺めてもらうだけで、社会的情報への注視が客観的な数値として測定できます。結果は自動的に算出されるので、実施後すぐに確認できます。

説明図・1枚目
図1 Gazefinder®の小児への実施の様子(母が児を抱っこして検査実施)

説明図・2枚目
図2 Gazefinder®の提示画像の例
① 顔刺激、②バイオロジカルモーション(生物的な動き)、③人と幾何学模様(同サイズ提示)、
④人と幾何学模様(小窓提示提示)などの映像を提示。

公式のホームページも御参照ください。

(注3)「精神障害の診断と統計マニュアル」(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:DSM)
アメリカ精神医学会によって出版され、精神障害の分類のための共通言語と標準的な基準を提示するものです。2013年に第5版が出版され、診断名やその基準に変更が見られました。

論文タイトル

Gazefinder® as a clinical supplementary tool for discriminating between autism spectrum disorder and typical development in male adolescents and adults.
(日本語タイトル:「視線計測装置Gazefinder®の思春期・青年期男性における自閉スペクトラム症判別機器としての有効性検証」)

著者

Toru Fujioka, Keisuke Inohara, Yuko Okamoto, Yasuhiro Masuya, Makoto Ishitobi, Daisuke N. Saito, Minyoung Jung, Sumiyoshi Arai, Yukiko Matsumura, Takashi X. Fujisawa, Kosuke Narita, Katsuaki Suzuki, Kenji J. Tsuchiya, Norio Mori, Taiichi Katayama, Makoto Sato, Toshio Munesue, Hidehiko Okazawa, Akemi Tomoda, Yuji Wada, Hirotaka Kosaka

発表雑誌

「Molecular Autism」(電子版:2016年3月23日に掲載予定)

お問い合わせ先

研究に関すること

小坂 浩隆(こさか ひろたか)
国立大学法人福井大学 子どものこころの発達研究センター
〒910-1193 吉田郡永平寺町松岡下合月23-3
TEL:0776-61-8804(子どものこころの発達研究センター)
E-mail:hirotaka“AT”u-fukui.ac.jp    

事業に関すること

国立研究開発法人日本医療研究開発機構 戦略推進部脳と心の研究課
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-7-1
TEL:03-6870-2222
E-mail:brain-pm“AT”amed.go.jp

報道に関すること

国立大学法人福井大学 総合戦略部門 広報室
前川 奈々江(まえがわ ななえ)
〒910-8507 福井市文京3-9-1
TEL:0776-27-9733
E-mail:sskoho-k“AT”ad.u-fukui.ac.jp

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最終更新日 2016年3月23日

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