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2016年10月21日プレスリリース 独自の数理モデルから、生きているDNAの構造情報の取得に成功

国立大学法人広島大学
国立遺伝学研究所
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

本研究成果のポイント

概要

広島大学大学院理学研究科・クロマチン動態数理研究拠点の新海創也特任助教らの研究グループは、ヒトの生細胞の核内クロマチン(注1)の動きを表現する数理モデルを考案しました。実際に、その動きを精密に観測したところ、遅くて異常な動きはクロマチンドメイン(注2)の構造に拘束された動きであることを突き止めました。また、生きている状態のクロマチンドメインの大きさとフラクタル次元(注3)といった構造情報を得ることに成功しました。

本研究成果は、「PLOS Computational Biology」オンライン版に10月20日(米国東部標準時間)に掲載されます。

掲載雑誌:PLOS Computational Biology外部サイトへ移動します
DOI番号:10.1371/journal.pcbi.1005136
論文題目:Dynamic Nucleosome Movement Provides Structural Information of Topological Chromatin Domains in Living Human Cells
著者:Soya Shinkai*, Tadasu Nozaki, Kazuhiro Maeshima and Yuichi Togashi *Corresponding author(責任著者)

背景

ヒトのDNAは全長2メートルもあり、それがわずか10マイクロメートル(1メートルの10万分の1の大きさ)の細胞核の中に階層的に格納されています。近年その格納のされ方に関して、ゲノムの空間的平均構造を明らかにした染色体構造捕獲法(注4)の技術のおかげで、遺伝子発現調節の基本構造単位となる数Mbサイズ(数百万のDNAの文字列)の領域(ドメイン)が注目を集めています。しかし、このドメインに関する知見は、細胞核のDNAを固定化して、数億個の細胞から回収されたDNA断片のデータから得られたものであり、生きている状態でのドメインの構造に関する情報はこれまで全く知られていませんでした。

一方、本研究グループの情報・システム研究機構国立遺伝学研究所の前島一博教授、野崎慎研究員らは、これまでに、生きている細胞の核内で、DNAを格納する微細構造であるヌクレオソーム(注5)の動きを精密に観測することに成功してきました。そして、その動きはブラウン運動のように、たくさんの分子の熱ゆらぎからの影響に支配されていることを見出してきました。しかし、その動きはブラウン運動よりもずっと遅くて異常な動きであり、それを説明するための理論はありませんでした。

研究成果の内容

本研究では、生細胞の核内ヌクレオソームの動きを説明するための数理モデルを考案し、その動態を表現する理論式を導出しました。この理論式には、クロマチンドメインの大きさや、疎密の度合いを表現するフラクタル次元といった、ドメインの構造を表すパラメータが含まれています。したがって、生きている細胞の中でのヌクレオソームの動きからクロマチンドメインの構造情報を理解できることが、理論的に明らかになりました。逆に言うと、これまで観測されていた遅くて異常な動きの原因は、クロマチンドメインの構造からの拘束によるものであることがわかりました。実際に、理論式と実験データを比較することによって、クロマチンドメインの大きさとフラクタル次元といった構造情報を得ることに成功しました。

今後の展開

ヒトの場合、それぞれのクロマチンドメインの中で遺伝子発現が制御されていると考えられています。そのため、本研究の数理モデルに基づいた解析を進めることで、さまざまなクロマチンドメイン内でのクロマチンの動きと対応する遺伝子発現調節機構の関係を解明する研究が大きく進展すると考えられます。今後は、染色体構造捕獲法のビッグデータと本研究の数理モデルとに基づいたクロマチン動態シミュレーションを展開することで、数理科学的アプローチによる遺伝子発現の予測や創薬への応用に役立つことが期待されます。

※用語解説

(注1)クロマチン
核内に存在するDNAとタンパク質からなる複合体。
(注2)クロマチンドメイン
遺伝子発現調節の基本構造単位となる数Mbサイズ(数百万のDNAの文字列)のクロマチン領域が核内で形成するかたまり(クラスター)。
(注3)フラクタル次元
海岸線や木の葉、雪の結晶のような複雑で自己相似的な形状は、しばしばフラクタル次元を用いて表現することができる。ここでは、数珠状のヌクレオソームファイバーからなるクロマチンドメインの疎密状態を特徴づける指標として用いている。
(注4)染色体構造捕獲法
核内で近接しているゲノム領域を特定する方法のことで、通称3C(Chromosome Conformation Capture)法と呼ばれる。この派生として4C、5C、Hi-Cといったものがある。
(注5)ヌクレオソーム
真核生物の核内クロマチンの基本構成単位であり、タンパク質(ヒストン)でできたコアにDNAが約2周分巻きついて構成されている。

研究支援

本研究の遂行にあたり、文部科学省・AMED 創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業生命動態システム科学推進拠点事業「核内クロマチン・ライブダイナミクスの数理研究拠点形成」(研究代表者:広島大学大学院理学研究科数理分子生命理学専攻 教授 楯 真一)、文部科学省・JSPS 科研費JP16H01408(新学術領域「染色体OS」), JP23115007, JP23115005(新学術領域「少数性生物学」), JP13J04821, JP16J07205の助成を受けました。

参考資料

説明図・1枚目(説明は下に記載)

説明図・2枚目(説明は下に記載)

説明図・3枚目(説明は下に記載)

(A)核内のDNAにつけた蛍光分子が自発的にランダムに光っている様子をとらえた顕微鏡画像(左)。最近の染色体構造捕獲法の知見を踏まえると、画像の輝点はクロマチンドメイン内の一つのヌクレオソームに対応すると考えられる(右)。0.05秒毎に画像を取得することで、その輝点が動いていることがわかった。しかしながら、クロマチンドメインの全貌はわからない。(B)約1秒間での典型的なヌクレオソームの軌道が5つ描かれている。100ナノメートルの領域をランダムに動く。(C)クロマチンドメインの疎密の度合いは1~3の間の値をもつフラクタル次元を使って特徴づけることができる。(D)核内ヌクレオソームの動きを説明する数式。

お問い合わせ

本研究成果に関するお問い合わせ先

大学院理学研究科・クロマチン動態数理研究拠点 特任助教 新海 創也
Tel:082-424-5529 FAX:082-424-5529
E-mail:soya“AT”hiroshima-u.ac.jp

AMED事業に関するお問い合わせ先

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)戦略推進部医薬品研究課
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-7-1
Tel:03-6870-2219
E-mail:20-DDLSG-16“AT”amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

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最終更新日 2016年10月21日

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