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2017年7月20日プレスリリース 細菌感染症の診断に応用可能な迅速なゲノム解析システムの開発に成功―細菌種の同定時間を大幅削減。ポータブル化により災害現場や感染症多発地域での活用にも期待―

東海大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

東海大学(所在地:神奈川県伊勢原市下糟屋143、学長:山田 清志〔やまだ きよし〕)医学部基礎医学系 教授 今西 規〔いまにし ただし〕を中心とする研究グループは、ポータブル型のDNAシーケンサ「MinION」(Oxford Nanopore Technology社製)に応用可能なゲノム解析システムを開発し、16S rRNA遺伝子をPCR増幅して配列決定することにより、細菌感染症試料に対する細菌の同定を2時間以内で行うことが可能であることを示しました 。

従来から特定の細菌を検出するシステムはありましたが、このほど開発に成功した本システムは、ゲノム配列データベースに登録されている8万以上の細菌種・系統を特定できる能力を有している点が、従来のシステムとの大きな違いと言えます。

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の感染症研究国際展開戦略プログラム(J-GRID)等の支援により行われました。

なお、本研究成果は平成29年7月18日(火)午前10時(イギリス時間)、オンラインジャーナル『Scientific Reports』(DOI:10.1038/s41598-017-05772-5)に掲載されました。

本研究成果のポイント

研究の背景

細菌感染症は、現在もなお世界的に深刻な問題です。わが国においても、高齢化に伴い肺炎が死因の上位に位置し、細菌による食中毒も頻繁に発生しています。これらの疾患の原因となる細菌には、非常に多くの種類があります。

一方で、医療機関における細菌感染症の診断は、多くの場合に細菌培養法によって行われていますが、培養法による細菌種の判定には1日から2日を要し、さらには難培養性細菌の存在や培養条件の不適合などの要因が菌種同定をしばしば困難にします。そうした理由から、細菌感染症が疑われる患者には原因菌の特定を待たずに経験的に選択された抗菌薬を投与する場合が多く、これが有効な薬剤投与の遅れや薬剤耐性菌出現の促進をもたらしていると考えられています。

研究の概要

本研究では、ポータブル型のDNAシーケンサMinIONとラップトップ型PC2台で構成されるゲノム解析システムを作成しました(図1)。2台のPCには異なる役割を与えてあり、流れ作業で迅速に解析を行うように設計しました。具体的には、1台目のPCはMinIONの制御と、その出力データを2台目のPCへ連続的にコピーする作業を実行します。そして、2台目のPCでDNA配列の詳細な解析を実行します。

説明図・1枚目(説明は図の下に記載)

【図1】本研究で開発したポータブル型の細菌ゲノム解析システム。2台のラップトップ型PCと小型DNAシーケンサ「MinION」で構成される。

このシステムを用いて、複数の細菌の混合DNAに対して、どの程度正確に、またどの程度の時間で細菌の同定と組成の解析が可能であるかを調べました。その結果、DNA試料が準備された状態から始めて2時間以内に、DNA配列の読み取りとそこに含まれる主な細菌の同定を行えることがわかりました(図2)。また、実際に膿胸患者から得た胸水の検体を本システムで解析したところ、原因と考えられる嫌気性菌を迅速に検出することができました。一方、細菌の組成については、独自に開発したゲノムデータベース「GenomeSync」と一般的な相同性探索手法である「BLAST」を用いた方法によって高精度に推定できることが示唆されましたが、計算時間が大幅にかかるため、さらに改良の余地があることも課題として認識しました。

説明図・2枚目(説明は図の下に記載)

【図2】細菌種同定に要する時間の推定。Rapid 1D(5min)という方法を採用すると、PCR反応に約1時間と、その後シーケンスの実行に5分、その後PCでの解析を含めて、全体で2時間以内に判定結果を出すことができる。

今後の展開

現在、薬剤耐性菌の蔓延が世界的な問題になっています。本システムをさらに発展させ、プラスミド配列を含む全ゲノム配列を対象としたポータブルゲノム解析システムを開発することができれば、細菌感染症の原因菌を正確に知ることが可能となり、適切な抗菌薬の選択や薬剤耐性菌の出現の抑制につながると考えられます。また、将来的に本システムが医療機関に普及していけば、正確かつ迅速な細菌感染症の診断に大きく貢献すると考えられます。さらに、本システムはポータブル型のDNAシーケンサ「MinION」およびラップトップ型PC2台だけで解析できることから、持ち運びが容易であり、大規模災害の現場など十分な検査設備のない地域や、感染症の多い熱帯地域での活躍にも期待が持たれます。

発表論文

Satomi Mitsuhashi†, Kirill Kryukov†, So Nakagawa†, Junko S. Takeuchi, Yoshiki Shiraishi, Koichiro Asano, and Tadashi Imanishi* (2017) A portable system for rapid bacterial composition analysis using a nanopore-based sequencer and laptop computer. Scientific Reports doi:10.1038/s41598-017-05772-5.

†: equal contribution, *: corresponding author

研究予算

本研究は以下の研究予算の支援を受けて実施されました。

用語解説

▼DNAシーケンサ:
生物の遺伝情報を担うDNA(デオキシリボ核酸)の塩基配列を決定する装置
▼ナノポア:
ナノメートル(10億分の1メートル)サイズの微小な穴
▼MinION(みないおん):
Oxford Nanopore Technology社のDNAシーケンサの名称。ナノポアにDNA分子を通し、その際の電位変化に基づいて塩基配列を決定できる
▼細菌感染症:
細菌の感染によって引き起こされる感染症。黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌など、さまざまな菌が原因となる
▼薬剤耐性菌:
細菌感染症の治療に使われる抗菌薬に耐性を持つ細菌のこと。特に、複数の抗菌薬に対する耐性を持つ多剤耐性菌の出現は、世界的に深刻な問題となっている
▼相同性検索手法:
既知のDNA塩基配列に関するデータベースの中で、質問配列と一致する、または類似する塩基配列を検索するための計算手法。相同性検索の代表的なソフトウエアがBLASTである

お問い合わせ先

本件に関するお問い合わせ

東海大学医学部基礎医学系分子生命科学
担当:今西 規
TEL:0463-93-1121(代表)

事業に関するお問い合わせ

国立研究開発法人日本医療研究開発機構
戦略推進部 感染症研究課
TEL:03-6870-2225
E-mail:kansen“AT”amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

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最終更新日 2017年7月20日

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