プレスリリース “切らない組織診断”でリアルタイムにがんを診断―最新のイメージングで低侵襲、迅速に大腸がんを診断する方法を開発―
プレスリリース
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
研究成果のポイント
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生体組織の深部を切除することなく可視化することにより、リアルタイムで定量的にがんを診断できる画期的な診断技術を開発
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多光子励起イメージング技術を用いることで、従来の診断法よりも低侵襲で迅速かつ定量的にがんの診断を行うことが可能
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本技術を内視鏡など既存の医療機器へ応用することによって、低侵襲で迅速ながん診断の実現や、早期がんの診断精度の向上に期待
概要
大阪大学 大学院医学系研究科の松井崇浩 特任助教(常勤) 、石井優 教授(免疫細胞生物学)、森正樹 教授(消化器外科学)らの研究グループは、固定、染色などの工程を行わずに、生きた組織のまま大腸の深部まで迅速に観察でき、大腸がんをリアルタイムに診断できる方法を開発しました。
従来のがん診断には、病変部から組織を切り取ったのちに多くの処理工程を経てガラス標本を作製してから、顕微鏡を用いた観察により診断を行っていますが、組織採取に侵襲的な処置が必須であり、また検査を受けてから診断されるまでに時間がかかることが課題となっています。
今回、石井教授らの研究グループは、最新の生体可視化システムである多光子励起イメージング技術※1を用いることにより、固定、染色など従来の処理工程を行うことなく、生きた組織のまま迅速にヒト大腸組織の深部が観察できる方法を開発することに成功しました(図1)。この方法を用いることにより、正常の大腸組織や大腸がんの組織を、従来の診断方法よりも低侵襲的、迅速、そして定量的に診断することが可能となります。今後、今回用いた技術を内視鏡などの医療機器へ応用することによって、患者さんの負担が少なく、迅速ながん診断が行えると考えられ、また早期がんの診断や内視鏡治療の分野などにも今回の開発手法が精度向上に大きく貢献することが期待されます。

研究の背景
本研究の成果

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
特記事項
本研究成果は、7月31日(月)18時(日本時間)に英国のオンライン科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されます。
- 【タイトル】
- “Non-labeling multiphoton excitation microscopy as a novel diagnostic tool for discriminating normal tissue and colorectal cancer lesions”
- 【著者名】
- 松井崇浩1, 水野紘樹1, 數藤孝雄1, 菊田順一1, 原口直紹2, 池田純一郎3, 水島恒和2,4, 山本浩文2, 森井英一3, 森正樹2, 石井優1
- 大阪大学 大学院医学系研究科 免疫細胞生物学
- 大阪大学 大学院医学系研究科 消化器外科学
- 大阪大学 大学院医学系研究科 病態病理学
- 大阪大学 大学院医学系研究科 炎症性腸疾患治療学
なお、本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業「低侵襲がん診療装置研究開発プロジェクト」(研究開発代表者:株式会社ニコン 清田泰次郎)の一環として行われました。また公益財団法人上原記念生命科学財団の援助を受けて行われました。
用語説明
- ※1 多光子励起イメージング
- 蛍光イメージングの一種。通常の蛍光顕微鏡では1つの光子を用いて物質を励起させ蛍光を生じさせているが、多光子励起イメージングでは組織透過性の高い近赤外領域の光子を2つ以上用いて励起させ、可視光領域に波長遷移することを利用している。
- ※2 自家蛍光
- 細胞内に存在するミトコンドリアやリソソームなどの構造物が光を吸収した際に起こる光の自然放出のこと。
- ※3 第二高調波発生
- 非線形光学現象の1つで、光が非線形光学結晶やコラーゲン線維と相互作用することで、励起光の2倍の周波数の光を発生させる現象のこと。
本件に関する問い合わせ先
研究に関すること
石井 優(いしい まさる)
大阪大学 大学院医学系研究科 免疫細胞生物学 教授
TEL:06-6879-3880 FAX:06-6879-3889
E-mail:mishii“AT”icb.med.osaka-u.ac.jp
松井 崇浩(まつい たかひろ)
大阪大学 大学院医学系研究科 免疫細胞生物学 特任助教(常勤)
TEL:06-6879-3881 FAX:06-6879-3889
E-mail:matsuit“AT”icb.med.osaka-u.ac.jp
報道に関すること
大阪大学 大学院医学系研究科 広報室
TEL:06-6879-3388 FAX:06-6879-3399
E-mail:kouhousitsu“AT”office.med.osaka-u.ac.jp
AMED事業に関すること
日本医療研究開発機構 産学連携部 医療機器研究課
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-7-1
TEL:03-6870-2213 FAX:03-6870-2242
E-mail:iryokiki“AT”amed.go.jp
※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。
関連リンク
掲載日 平成29年8月1日
最終更新日 平成29年8月1日