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2017年8月3日プレスリリース 胆道がんで世界横断的・最大の分子統合解析実施―ゲノム・分子異常解明が大きく前進、ゲノム医療促進を期待―

国立研究開発法人国立がん研究センター
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

研究のポイント


国立研究開発法人 国立がん研究センター(理事長:中釜斉、所在地:東京都中央区)は、国際共同がんゲノムプロジェクト「国際がんゲノムコンソーシアム」(International Cancer Genome Consortium:ICGC外部サイトへ移動します )において、シンガポールのグループと共同で、世界10カ国(日本・シンガポール・タイ・中国・台湾・韓国・ルーマニア・イタリア・フランス・ブラジル)から世界最大の総計489症例の胆道がん症例について分子データ(ゲノム・エピゲノム・発現データ)を集積し、統合的解析を行いました。

その結果、新規のものも含め胆道がんにおけるゲノム異常を網羅的に同定し、また得られた分子データを基に検討を行い、生命予後と有意に相関する4つの分子タイプグループに分類できること、さらに各タイプに特徴的な治療標的分子を発見しました。これによりグループごとに治療法を最適化していくことが必要であることが示唆されました。また、これまで明らかとなっていなかった胆道がん発症の分子メカニズムについて、2つの発症メカニズムを同定しました。

本研究成果により、胆道がんのゲノム・分子異常の解明が大きく前進し、遅れていた胆道がんのゲノム医療の促進に貢献すると考えます。

本研究は、国立がん研究センター 研究所 がんゲノミクス研究分野(分野長 柴田 龍弘)が参画ししている「国際がんゲノムコンソーシアム」の活動の一環で、日本医療研究開発機構(AMED)革新的がん医療実用化研究事業、次世代がん医療創生研究事業(P-CREATE)の支援を受け行ったもので、研究成果は国際科学誌「Cancer Discovery」での掲載に先駆けオンライン版で公開されました。

研究背景

胆道がん(肝内および肝外胆管がん、胆のうがんの総称)は、日本をはじめアジアに多いがんで、膵がんに次いで予後が不良(5年生存率は20%以下)な難治がんです。胆道がんは、胆石や胆嚢・胆管炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、原発性硬化性胆管炎、膵胆管合流異常症などの胆道系疾患にかかったことがある場合や、日本ではほとんどみられませんが海外においては肝吸虫という寄生虫の感染により胆道がんのリスクが上昇することが知られています。しかし、こうした因子がどのようにがんを発症するのかに関する分子メカニズムは明らかになっていません。

がんはゲノム異常の蓄積によって発症・進展していく「遺伝子(ゲノム)の病気」であり、治療・診断・予防を考える上で個々のがんで起こっている遺伝子異常や分子異常の全体像を把握することは極めて重要です。とりわけEGFR遺伝子変異・ALK融合遺伝子等といったがん発症の原因となるドライバー遺伝子異常を標的とした分子標的治療薬ががんの治療において有効であることが実証され、治療方針の決定にがんゲノム情報を活用した新しい医療体系である「ゲノム医療」ががん領域でも始まりつつあります。更に現在非常に注目されている免疫チェックポイント阻害剤による治療においても、ゲノム変異情報は欠かせません。

しかし、胆道がんでは未だ分子標的治療薬が承認されておらず、その克服に向け、基礎研究並びに臨床開発研究が強く求められています。

国際がんゲノムコンソーシアムについて

国際共同がんゲノムプロジェクト「国際がんゲノムコンソーシアム」(International Cancer Genome Consortium:ICGC外部サイトへ移動します )は、世界各国を通じて臨床的に重要ながんを選定し、国際協力で包括的かつ高解像度のゲノム解析を行い、がんのゲノム異常の包括的カタログを作成し、網羅的がんゲノム情報を研究者間で共有および無償で公開することでがんの研究および治療を推進することを目的に2008年に発足しました。現在、17か国が参画し73のがん種についての大規模ゲノム研究プロジェクトが精力的に遂行されています。

国立がん研究センターは日本の代表研究機関として肝臓がん・胆道がん・胃がんの解析を担当し、胆道がんについては2015年に日本人症例の解析結果を報告しました。また胆道がんは、シンガポールも担当しており、今回両国の国際共同研究によって、世界最大の胆道がんに関する分子解析データを発表しました。

2015年1月29日
2015年8月11日

研究概要

国際がんゲノムコンソーシアムにおいて、胆道がんの解析を担当している日本並びにシンガポールの共同研究として、世界10カ国(日本・シンガポール・タイ・中国・台湾・韓国・ルーマニア・イタリア・フランス・ブラジル)から収集された世界最大の胆道がん総計489症例について、ゲノム・エピゲノム・遺伝子発現に関する包括的なシークエンス解析を行いました。

得られた分子データを基に、生命予後と有意に相関する新たな4つの胆道がん分子タイプを同定し(図1参照)、更に新規も含め各タイプに特徴的な治療標的分子を発見しました。

説明図1枚目(説明は図の下に記載)

図1 胆道がんにおける分子タイプとその特徴。赤は治療標的を示す。

各グループは、臨床的な背景(グループ1は肝吸虫感染が多い)や治療標的となる分子(グループ1はHER2増幅、グループ2はWNT経路活性化、グループ3は免疫チェックポイント遺伝子(PD-1, PD-L2)の発現増加、グループ4はIDH1変異やFGFR2融合遺伝子がそれぞれ有意に多い)について特徴的な違いが見られました。

研究成果

1.世界最大の胆道がんコホートを対象とした統合的分子解析による新たな治療標的の発見

489症例の分子異常データから、32個のドライバー遺伝子を同定しました。この中には、これまで報告のない新たなドライバー遺伝子(ASA1, STK11, SF3B1)や、キナーゼ(ERBB2, FGFR, BRAF)を中心とした治療標的となりうる分子も多数含まれていました(図2)。

有望な治療標的の一つであるFGFRについては新規の融合パートナーを含め7種類の融合遺伝子を発見しました(図3)。
説明図・2枚目(説明は本文中に記載)

図2 今回の解析で同定された胆道がんにおけるドライバー遺伝子

 説明図・3枚目(説明は本文中に記載)

図3 胆道がんで同定されたFGFR2, FGFR3融合遺伝子

2.予後と相関し、治療標的層別化に有用な胆道がん分子タイプの同定

図1にも示したように、分子異常を統合的に解析した結果、胆道がんは大きく4つのグループに分類できることが判明しました。また、各グループに、それぞれ特徴的な治療標的となりうる分子異常が見られ、こうしたグループごとに治療法を最適化していく必要があることが示唆されました。

更にこの分類は、生命予後とも相関し、グループ4(図4赤線)に含まれる症例は他のグループと比較して予後が比較的良好であるあることが明らかになりました(図4)。

説明図・4枚目(説明は本文中に記載)

図4 各グループの生命予後曲線

3.胆道がんの発症分子メカニズムの同定

今回の解析により、胆道がんの発症経路には複数の道筋があることが明らかになりました(図5)。グループ1の症例は、肝吸虫感染を契機とした慢性炎症を背景としたメチル化異常によって、遺伝子変異が誘発され、がんが発生するという経路が示唆されました。一方、グループ4の症例は、最初に重要なドライバー遺伝子に異常が起こり、その結果として特徴的なメチル化異常を併発しながらがんが発生するという経路が考えられました。

説明図・5枚目(説明は本文中に記載)

図5 胆道がんにおける2つの発症経路

今後の展望

1.治療薬開発に向けた臨床試験

今回同定された胆道がんにおける治療標的に関して、今後、臨床試験による開発を進むことが期待されます。既に、当センターにおいてもIDH阻害剤や免疫チェックポイント阻害剤については、胆道がんを含めた症例を対象とした臨床試験が開始されています。

2.個別化に向けたゲノム医療

臨床試験と平行して、各治療薬で効果が期待できる症例を遺伝子や分子異常の違いによって層別化することが必要と考えられます。本研究で、胆道がんにおけるドライバー遺伝子が詳細に解明されたことで、胆道がんについても重要な遺伝子について異常の有無を検索し、最適な治療法を選択する「ゲノム医療」が進むことが期待されます。

3.発がん要因の探索と予防

疫学的な研究から胆道がんの原因はいくつか報告されていますが、そういった因子がどのような分子メカニズムを介して胆道がんの発症に至るのか明らかではありませんでした。本研究成果により、胆道がんの発生には分子異常で特徴づけられるグループと関連した少なくとも2つ以上の経路があることが推測されました。今後残りのグループにおける発症メカニズムの解明に加え、各分子経路の阻害によって胆道がんの発生を減らす、あるいは予防する研究が進められることが期待されます。

発表論文

雑誌名:
Cancer Discovery
タイトル:
Whole-Genome and Epigenomic Landscapes of Etiologically Distinct Subtypes of Cholangiocarcinoma
著者:
Apinya Jusakul, Ioana Cutcutache, Chern Han Yong, Jing Quan Lim, Mi Ni Huang, Nisha Padmanabhan, Sarinya Kongpetch, Vishwa Nellore, Alvin Wei Tian Ng, Ley Moy Ng, Su Pin Choo, Swe Swe Myint, Weng Khong Lim, Cedric Chuan Young Ng, Choon Kiat Ong, Vikneswari Rajasegaran, Stefanus Lie, Alvin Lim Soon Tiong, Lim Tse Hui, Jing Tan, Sanjanaa Nagarajan, Max Loh Jia Liang, John R McPherson, Narong Khuntikeo, Vajaraphongsa Bhudhisawasdi, Puangrat Yongvanit, Sopit Wongkham, Yasushi Totoki, Hiromi Nakamura, Yasuhito Arai, Satoshi Yamasaki, Pierce Kah-Hoe Chow, Alexander Chung, London Lucien Ooi, Kiat Hon Lim, Simona Dima, Dan G Duda, Irinel Popescu, Philippe Broet, Sen-Yung Hsieh, Ming-Chin Yu, Aldo Scarpa, Jiaming Lai, Di-xian Luo, André Lopes Carvalho, André Luiz Vettore, Hyungjin Rhee, Young Nyun Park, Ludmil B. Alexandrov, Raluca Gordan, Steven G Rozen, Tatsuhiro Shibata, Chawalit Pairojkul, Bin Tean Teh, Patrick Tan
DOI:
10.1158/2159-8290.CD-17-0368

研究費

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
  • 革新的がん医療実用化研究事業
    「国際連携を基盤とした日本人難治固形がんゲノム統合解析による新たな治療標的の同定と予防戦略への展開研究」
  • 次世代がん医療創生研究事業(P-CREATE)
    「微小環境多様性に連動する難治がんの分子遺伝学的多様性創成機構の解明と新たながん治療法・予測医療技術の開発」

解説

*肝吸虫の感染について
肝吸虫は、人や動物に寄生する寄生虫で、人へは淡水魚の生食習慣により感染します。日本ではほとんど見られませんが、タイ北東部などで発生する肝内胆管がんは肝吸虫の持続感染が発生要因として知られています。

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最終更新日 2017年8月3日

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