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2017年9月12日プレスリリース より悪性化した前立腺がんの診断、治療の新しい標的PSFの発見 ―悪玉男性ホルモン受容体V7をつくる司令塔をターゲットとした治療

地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

発表内容の概要

東京都健康長寿医療センター研究所の井上聡研究部長、高山賢一研究員は、従来治療が効かなくなったより悪性の前立腺がんへの新戦略として、悪玉男性ホルモン受容体V7(ヴイセブン)をつくる司令塔PSF(ピーエスエフ)とNONO(ノノ)をターゲットとした診断・治療を提唱しました。進行した難治性の前立腺がんでは、V7をはじめ異常なホルモン受容体が増加することが以前より注目されていましたが、今回、この悪性化の際にRNA結合タンパク質PSFとNONOが増加することによって、RNAの成熟とホルモン受容体の異常をきたすことを初めて明らかにしました。さらにこれらRNA結合タンパク質PSFとNONOが、がんの新しい診断、治療標的となりうることも証明しました。この研究成果は、前立腺がんの今後の治療法の開発や再発・難治化の病態解明に大きく貢献するものと期待されます。本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の「次世代がん医療創生研究事業(P-CREATE)」の支援を受けて行われたものであり、米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of USA(PNAS)」に掲載されるのに先立ち、9月11日の週にオンライン版に発表されます。

注釈

RNA:
リボ核酸の略。ゲノムの遺伝情報を細胞に伝令するための仲介役として働く。その働きには1993年にノーベル賞を受賞した発見であるスプライシングなどの成熟過程が重要である。
RNA結合タンパク質:
RNAと協調してRNAの成熟などの各種制御を担うタンパク質群。
V7:
男性ホルモン受容体タンパク質の変異体。通常の治療が効かなくなったがんで出現し、悪役として振舞う。ホルモンがなくても活性をもつため従来のホルモン療法ではコントロール不能である。
PSFとNONO:
RNA結合タンパク質群のメンバーで、RNAの成熟などに効果を発揮する。

研究目的

前立腺がんは欧米およびわが国において男性がかかるがん種として最も患者数が多く、健康長寿を損ねることで有名です。進行した前立腺がんにおいては男性ホルモン作用を抑えるホルモン療法を行いますが、治療を継続すると薬剤が効かなくなり、再発、難治化して死に至ることが大きな課題となっています。再発においては男性ホルモンシグナルが亢進し、その作用を担うホルモン受容体の異常な増加やV7等の変異が起こることが注目されていましたが、その異常発生の仕組みは不明でした(図1)。私たちはこれまでの前立腺がんとホルモンに関する研究の中で、がん細胞におけるRNA結合タンパク質PSFとNONOがその司令塔を担っているのではないかと考え、そこに着目しました。本研究では進行したがんの診断や治療の標的として、その可能性を示すとともにがんにおけるRNAの成熟を制御する仕組みの解明を目的として研究を行いました。

研究成果の概要

手術標本ならびに再発したがん組織のサンプルを利用しPSFやNONOが治療後の再発や生存率を予測する診断マーカーとなることを発見しました。また動物モデルにおいてPSFを抑制することによりホルモン療法の効かない難治性の前立腺がんに対して治療効果を示すことを明らかにしました(図2)。さらにPSFの細胞内での役割を深く解析した結果、PSFが司令塔役となり、RNAの成熟に重要なタンパク質群を制御することで異常なホルモン受容体のタンパク質産生やV7などの悪玉変異体の出現に至ることを解明しました(図3)。このように、本研究はRNAの成熟というプロセスを標的とした新しいがん診断・治療法の開発につながる発見となりました。

研究の意義

従来の前立腺がんの治療薬はホルモン受容体を抑える働きを利用しておりますが、ホルモン受容体の異常により薬剤への抵抗性を示すがんが出現するため十分ではありません。本研究によってPSFとNONOという新たな役者によりホルモン受容体の異常を引き起こし、前立腺がんがより悪性化される仕組みが解明されました。PSFはRNAと結合し、RNAの成熟をコントロールする要として効果を発揮するため、結合を阻害することでホルモン受容体の異常を抑えることが予想されます。機能を阻害する創薬候補も当研究グループにより開発が進められており、これはRNAの機能を標的とした、従来にない方面からの治療薬へのアプローチであり、前立腺がん治療のブレイクスルーとなる可能性が考えられます。

掲載情報

掲載誌:
米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of U. S. A.(PNAS)」
掲載論文の英文表題とその和訳:
Dysregulation of spliceosome gene expression in advanced prostate cancer by RNA-binding protein PSF(RNA結合タンパク質PSFを介した進行した前立腺がんにおけるスプライソゾーム遺伝子発現の異常な制御)
著者:
 高山賢一、鈴木貴、藤村哲也、山田雄太、高橋悟、本間之夫、鈴木穣、井上聡*  (*責任著者)

掲載資料

説明図・1枚目(説明は図中に記載)

図1. 前立腺がんにおける男性ホルモン受容体の役割

説明図・2枚目(説明は本文中に記載)

図2. 従来治療が効かない前立腺がんへのPSFをターゲットとした治療効果コントロール

説明図・3枚目(説明は本文中に記載)

図3. RNA結合タンパク質PSFとNONOの作用の仕組み

問い合わせ先

〒173-0015 東京都板橋区栄町35-2
地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 研究所
老化制御研究チーム 健康長寿ゲノム探索研究
井上聡・高山賢一
TEL:03-3964-3241 内線4314

AMED事業に関する問い合わせ先

〒100-0004 東京都千代田区大手町1-7-1
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
戦略推進部 がん研究課
TEL:03-6870-2221
E-mail:cancer“AT”amed.go.jp

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最終更新日 2017年9月12日

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