プレスリリース 新しいデザインの小型抗体フォーマットを開発 ―創薬ターゲット蛋白質の結晶構造解析の促進に期待―
プレスリリース
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
研究成果のポイント
- 既存のフラグメント抗体の欠点を克服した小型フラグメント抗体フォーマットを開発した
- 抗体は医療や研究の様々な分野でツールとして利用されており、抗体を小型化したフラグメント抗体も様々なデザインのものが開発されているが、いずれも生産性、安定性などに問題を抱えていた
- 本研究で開発したフラグメント抗体は万能性に優れ、特に抗体を利用したX線結晶構造解析への応用が期待される
概要
大阪大学蛋白質研究所の高木淳一教授らの研究グループは、全く新しいデザインのフラグメント抗体※1のフォーマットを開発しました。
近年、バイオ医薬品として注目されている抗体分子は、研究用のツールとしても様々な分野で応用されています。その際、全長の抗体をそのまま使うだけでなく、用途によっては断片化して小さくした抗体(フラグメント抗体)が利用されることもあります。フラグメント抗体はいろいろなデザインのものが開発されていますが、従来のフラグメント抗体はいずれも生産性や安定性などに問題を抱えており、万能と呼べるフラグメント抗体のフォーマットはこれまで存在しませんでした。
今回、高木淳一教授らの研究グループは、全く新しいフラグメント抗体のフォーマットを開発し、これを“Fv-clasp”と名付けました。様々な生化学的な実験の結果、Fv-claspは従来のフラグメント抗体が持つほとんどの欠点を克服した優れた性質を有していることがわかりました。特に、Fv-claspは非常に結晶になりやすい性質を有しているため、創薬ターゲット蛋白質など医学的・生物学的に重要な蛋白質のX線結晶構造解析※2への応用において有用であると期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「Structure」に、9月15日(金)午前1時(日本時間)に公開されます。

研究の背景
研究の内容

X線結晶構造解析により決定したFv-claspの実際の立体構造
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本技術は和光純薬工業株式会社との共同で特許出願中であり、産業応用を目指した研究開発を継続中です。
特記事項
本研究成果は、2017年9月15日(金)午前1時(日本時間)に米国科学誌「Structure」(オンライン)に掲載されます。
- タイトル:
- “Fv-clasp: An artificially designed small antibody fragment with improved production compatibility, stability, and crystallizability”
- 著者名:
- Takao Arimori, Yu Kitago, Masataka Umitsu, Yuki Fujii, Ryoko Asaki, Keiko Tamura-Kawakami, and Junichi Takagi
なお、本研究成果は、日本医療研究開発機構(AMED)が実施する創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業の支援により得られました。
用語説明
- ※1 抗体、フラグメント抗体
- 抗体は、抗原と呼ばれる特定の分子に対して結合することができる蛋白質。50~77kDaの重鎖2本と約25kDaの軽鎖2本から構成され、Y字型の構造を有する。多様な抗原に結合できるように、VHとVLにより構成される可変領域に含まれる相補性決定領域に多様性を持つ。フラグメント抗体は、抗体分子を断片化し分子量を小さくしたもの。抗原結合能を持つ断片(Fab、scFvなど)と抗原結合能を持たない断片(Fcなど)に大別できる。
- ※2 X線結晶構造解析
- 蛋白質の立体構造を原子レベルで解明するための代表的な方法。目的蛋白質の結晶を作成し、その結晶にX線を照射して得られる画像を解析することで、蛋白質の立体構造情報が得られる。
- ※3 Fab
- 抗体をパパインのような蛋白質分解酵素で切断して得られる断片のうち、抗原結合能をもつものをFragment antibody binding、省略してFab断片とよぶ。これはY字型の抗体のもつ、2本の手に相当する部分である。
- ※4 一本鎖抗体(scFv)
- 抗体のなかで抗原結合能をもつ領域をFragment variable (Fv)と呼ぶが、この部分は重鎖と軽鎖の二つのサブユニットから構成される。遺伝子組換えでこの断片を生産する際に、これらを遺伝子工学的につないでひとつながりのポリペプチドにすることで、サブユニットの解離を抑制して機能をもつフラグメント抗体とすることが出来る。これを一本鎖抗体あるいはsingle chain Fv (scFv)と呼び、現在最も小型のフラグメント抗体として様々な用途に応用されている。
研究者のコメント
Fv-claspはどんな抗体にも適用でき、簡単に作れ、安定性が高い、まさに理想のフラグメント抗体であると言えます。また、熱安定性が高いことや、ヒトの蛋白質由来のSARAHドメインを利用していること(免疫原性が低いことが予想される)は、Fv-claspが抗体医薬のフォーマットとしても応用できる可能性を秘めていると思います。今後、あらゆる分野においてFv-claspがフラグメント抗体のフォーマットとして第一選択肢となり、幅広く社会に貢献できることを願っています。
本件に関する問い合わせ先
大阪大学 蛋白質研究所
教授 高木 淳一(たかぎ じゅんいち)
TEL:06-6879-8607 FAX:06-6879-8609
E-mail:takagi“AT”protein.osaka-u.ac.jp
日本医療研究開発機構(AMED)
創薬戦略部 医薬品研究課
TEL:03-6870-2219 FAX:03-6870-2244
E-mail:20-DDLSG-16“AT”amed.go.jp
※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。
関連リンク
掲載日 平成29年9月15日
最終更新日 平成29年9月15日