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2017年8月11日プレスリリース ノックアウトマウスを短期間で作製する技術の開発 ―CRISPR/Casゲノム編集を応用した疾患モデルマウスの短期間作製法―

国立大学法人群馬大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

本研究成果のポイント

概要

創薬研究において創薬標的遺伝子のノックアウトマウス*1作製技術を用いた疾患モデル作出は必要不可欠です。しかしながら、ある機能を担う遺伝子が全身から除去されると、多くの場合、そのノックアウトマウスは生まれる前に死亡してしまいます。このため全身ではなく、対象とする臓器だけで標的の遺伝子がノックアウトされる、条件付きノックアウトマウス*2が用いられることとなります。また薬剤の効果や副作用が起こる臓器を特定するためにも、条件付きノックアウトマウスの作出は重要です。しかし従来の技術では条件付きノックアウトマウスの作出には数年間を要しました。近年CRISPR/Casゲノム編集*3技術が著しく発達したことから、ノックアウトマウス作製にも応用されましたが、期待された成果はなかなか得られていませんでした。

このたび、群馬大学生体調節研究所ゲノム科学リソース分野の畑田出穂教授、堀居拓郎助教らのグループは、迅速に、条件付きノックアウトマウスを作製できる方法を開発しました。これまでのCRISPR/Casゲノム編集技術を用いる方法は、1回で遺伝子を切断したために上手く行かなかったのですが、新方法では、2回に分けて切ることにより染色体欠失が起こらず効率よく、条件付きノックアウトマウスを作製することができるようになりました。

この新しい技術により、疾患モデル動物を用いた病態解明や創薬における標的妥当性評価などへの応用が大きく広がることが期待されます。

本成果は国際科学雑誌『Scientific Reports』(英国時間 8月11日10時:日本時間 8月11日18時)に掲載されます。

背景

疾患研究や創薬研究において疾患モデルマウスを作製することは重要です。しかしながら遺伝子ノックアウトマウスのおよそ60%が致死になることや、致死でない場合でも薬剤の効果や副作用が関与する臓器を特定するためには、条件付きノックアウトマウス作製が不可欠です。条件付きノックアウトマウスでは組織特異的に遺伝子をノックアウトできるため、胎生致死とならず、産まれてきた個体での遺伝子機能解析が可能となります。従来の条件付きノックアウトマウスの作製法としては、Cre/loxシステム*4が多用されます。すなわち、まずノックアウトしたい遺伝子のタンパク質をコードするエクソンの両端のイントロン部分にそれぞれloxという34塩基からなる配列を同方向に配置されるように挿入したマウス(Floxマウス*5)を作製します。このマウスではエクソンは破壊されていないため、遺伝子は正常に機能します。次に組織特異的にDNA組換え酵素Creを発現するマウス(Creマウス)と交配して仔を作製すれば、特定の組織でのみ挿入した2つのloxの間で組み換えがおこり遺伝子がノックアウトされた条件付きノックアウト動物を得ることができます。この方法において、lox配列をゲノムに挿入する際にCRISPR/Cas等のゲノム編集技術を利用します。従来のCRISPR/Casの利用方法ではノックイン*6の効率が低いことや2箇所にloxをノックインすることがさらに困難なことから受精卵からではなくES細胞とCRISPR/Casゲノム編集技術を組み合わせてFloxマウス(loxが2つ同じアレルに挿入されたマウス)が作製されています。この方法の場合ES細胞からマウス作製やCreマウスとの交配などが必要なことから条件付きノックアウトマウス作製には数年もの長い期間を要し、研究を進めるためのボトルネックとなっていました。

成果

そこで本研究ではこの問題点を解決するために、条件付きノックアウトマウスを1ヵ月で作製可能な方法を開発しました。まず我々はすでに報告のある受精卵のCRISPR/Casゲノム編集技術を用いた方法を追試しました。この方法ではエクソンの両端の2箇所にloxをいれるため2箇所をCRISPR/Casゲノム編集で切断し、おのおのに相補的な配列とlox配列を持ったオリゴDNAを用いて同時にノックインします。オリゴDNAを使う理由は長い2本鎖DNAを用いるのと比べて格段にノックイン効率が高いからです。しかしこの方法でマイクロインジェクションを受精卵におこなったところ実際にはほとんどFloxマウスは得られませんでした。この事実は研究者の間で一般に言われていることと合致します。そこでその原因を調べたところ、得られたマウスの多くでゲノムの近接2箇所を切られたことによる染色体欠失が起こっていることがわかりました(図1a)。そこで1ステップで2箇所に同時にloxを挿入するのではなく、1箇所ずつloxを2ステップに分けて挿入すれば欠失は避けられると考えました(図1b)。受精卵、2細胞期胚と2ステップに分けてインジェクションしたところ染色体欠失が減少しFloxマウスを得ることができるようになりました。しかしながら産まれてくる仔の数が少ないことが問題でした。この原因は、2回のインジェクションのダメージが生存率の低下を招いたと考察し、マイクロインジェクションよりダメージが少ないと考えられるエレクトロポーレーション法を用いて同様の実験をおこなったところ、生存率の上昇とFloxマウス作製効率の大幅な上昇が見られました。次に我々のFloxマウス作製効率が高いことから、Creマウスの受精卵への直接導入を試みました。この方法で、高効率的に、条件付きノックアウトマウスを作製できることが分かりました。すなわち交配の必要性が無くなったことにより、従来、数年かかった、条件付きノックアウトマウスを1ヵ月で作製できる事がわかりました(図2)。

説明図・1枚目(説明は本文中に記載)

図1 条件付きノックアウトマウス作製におけるCRISPR/Casゲノム編集技術を用いる従来法と新規法の比較

説明図・2枚目(説明は本文中に記載)

図2 Cre受精卵を用いた条件付きノックアウトマウスの直接作製

社会的意義とこれからの展望

本技術により、疾患モデル動物を用いた病態解明や標的妥当性評価などへの応用が大きく広がり研究が加速化されることが期待されます。

本研究は、文部科学省(2014年度)・日本医療研究開発機構(AMED)(2015年度以降)革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業「新規CRISPR-Cas9システムセットの開発とその医療応用」(研究代表者:濡木 理)等の一環で行われました。

発表雑誌

雑誌名:
「Scientific Reports」(英国時間 8月11日付:日本時間 8月11日)
論文タイトル:
Efficient generation of conditional knockout mice via sequential introduction of lox sites
著者:
Takuro Horii, Sumiyo Morita, Mika Kimura, Naomi Terawaki, Mihiro Shibutani and Izuho Hatada* *責任著者
DOI 番号:
10.1038/s41598-017-08496-8

用語解説

*1 ノックアウトマウス:
人為的に特定の遺伝子の機能を破壊されたマウス。正常個体と比較することで遺伝子の機能を明らかにすることができます。全身で遺伝子が破壊されるため、生まれるまでに死んでしまうこと(胎性致死)が遺伝子の数の6割でみられます。
*2 条件付きノックアウトマウス:
特定の遺伝子について、臓器や時期特異的に遺伝子の機能を破壊されたマウス。全身性のノックアウトマウスでは胎性致死となり形質解析できない場合に用いられます。
*3 CRISPR/Casゲノム編集:
ゲノム中の特定の遺伝子のみを切断する技術をゲノム編集といいます。特定の遺伝子を破壊したり改変したりすることができます。いくつかの方法がありますが、その中で2012年に開発されたCRISPR/Casゲノム編集法は、Cas9タンパク質が標的遺伝子の一部の配列を組み込んだガイドRNA(gRNA)と複合体を形成することで標的遺伝子を切断することができます。また、今回のように切断箇所に新たな配列を挿入することもできます。
*4 Cre/loxシステム:
条件付きノックアウトマウス作製に最も利用されているシステム。まず、欠損させたい遺伝子の両端にlox配列をもつ(Flox)マウスを作製します。次に、臓器や時期特異的な活性をもつプロモーターの制御下でDNA組換え酵素(Cre)を発現するトランスジェニックマウス(Creマウス)とFloxマウスを交配します。得られたCre/loxマウスではCreが発現する組織のみでエクソンの両側のloxの間で組換えが起こり遺伝子が破壊されます。
*5 Floxマウス:
欠損させたい遺伝子の両端にそれぞれ34塩基からなるlox配列が組み込まれたマウス。loxに挟まれた領域は、DNA組換え酵素(Cre)により組換えが起こり除去され、遺伝子が破壊されます。
*6 ノックイン:
生物の染色体の特定の遺伝子座にDNA配列を挿入する遺伝子工学的手法。

問い合わせ先

研究に関すること

群馬大学生体調節研究所 
生体情報ゲノムリソースセンター ゲノム科学リソース分野 
教授 畑田出穂
E-mail:hatada“AT”gunma-u.ac.jp

報道に関すること

群馬大学生体調節研究所
庶務係長 金子友和
TEL:027-220-8822 

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
経営企画部 企画・広報グループ
TEL:03-6870-2245

AMED 事業に関すること

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
創薬戦略部 医薬品研究課
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-7-1 読売新聞ビル
TEL:03-6870-2219 FAX:03-6870-2244
E-mail:kaku-bio27“AT”amed.go.jp

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最終更新日 2017年8月11日

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