2018年03月15日ニュース
国立大学法人東京医科歯科大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科脳神経病態学分野(神経内科)の横田隆徳教授と桑原宏哉特任助教の研究グループは、東京大学大学院薬学系研究科分子薬物動態学教室の楠原洋之教授らと共同で、血液脳関門の機能を分子レベルで制御するバイオテクノロジーを開発しました。この研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業「第3世代ヘテロ核酸の開発」などの支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Scientific Reports(サイエンティフィック・レポーツ)に、2018年3月12日午前10時(英国時間)にオンライン版で発表されました。
血液脳関門は、循環血液と脳の境界部に存在し、脳の働きを維持するのに重要な役割を果たすとともに、脳の疾患においては通常の機能を損なうことが知られています。血液脳関門は認知症などの様々な脳疾患で治療標的となる場所であり、生体内においてその機能を分子レベルで制御するバイオテクノロジーは医療や創薬の発展に必要ですが、実際に活用されているものは存在しません。特定の分子の発現を抑制する核酸の技術は、医薬品としての臨床応用が盛んに進められており、その中でもアンチセンス核酸は最も開発が進んでいます。研究グループは、アンチセンス核酸よりもはるかに高い効果を示し、既存のアンチセンス核酸の作用を汎用的かつ大幅に向上できるヘテロ2本鎖核酸を開発し(2015年8月11日にプレスリリース)、本学発のバイオベンチャーである「レナセラピューティクス株式会社」は、ヘテロ2本鎖核酸の事業化に積極的に取り組んでいます(2015年8月7日にプレスリリース)。本研究では、このヘテロ2本鎖核酸をマウスの静脈内に投与することで、生体内における血液脳関門の機能を分子レベルで制御することを試みました。
ヘテロ2本鎖核酸は、DNA鎖を主鎖として、これと相補的となるRNAとの2本鎖から成る人工機能核酸です。まず、血液脳関門の中核を成す脳血管内皮細胞に発現する分子(トランスポーター)を標的として、デリバリー素子としてのビタミンEを相補RNA鎖に結合した、ヘテロ2本鎖核酸をデザインしました。蛍光色素で標識したヘテロ2本鎖核酸をマウスの静脈内に投与すると、脳血管内皮細胞に効率的に到達することが分かりました(前ページ図)。次に、ヘテロ核酸を投与した後のマウス脳血管内皮細胞の標的分子の発現量を調べたところ、メッセンジャーRNA(mRNA)レベルと蛋白レベルの双方において低下していることが判明しました。また、生体マウスの血液脳関門において、標的分子であるトランスポーターの排出輸送機能が抑制されていることも実証されました。さらに、ヘテロ2本鎖核酸を1週間おきに4回反復して投与したところ、標的分子の発現量はmRNAレベルで約76%、蛋白レベルで約89%もの顕著な低下をもたらすとともに、標的分子であるトランスポーターの排出輸送機能の抑制を増強させることにも成功しました(下図)。
ヘテロ2本鎖核酸は、アルツハイマー病などの認知症および多発性硬化症をはじめとした神経難病に対して、血液脳関門の機能制御を狙った新規の分子標的治療として臨床応用されることが期待されます。また、ヘテロ2本鎖核酸を活用することは、血液脳関門の機能に関連した様々な脳疾患の病態解明に役立つだけでなく、生体内の血液脳関門に発現する分子の生理機能を深く知ることにも貢献できると思われます。
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
脳神経病態学分野(神経内科)
桑原 宏哉(クワハラ ヒロヤ)
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日本医療研究開発機構 創薬戦略部 医薬品研究課
革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業担当
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