平成26年度採択研究開発課題

毒性ゼロに向けた革新的核酸医薬プラットフォーム構築
-デュアル修飾型人工核酸の創製・探索・評価-

研究開発代表者:小比賀 聡

大阪大学 大学院薬学研究科 教授

小比賀 聡(大阪大学)

核酸医薬は従来型の医薬品とは異なり、特定の遺伝子の発現を細胞内で抑制できることから、これまでは治療困難であった疾患に対する革新的な医薬品の創出につながることが期待されています。 核酸医薬の創出には、化学修飾を施した人工核酸の利用が不可欠とされています。 これまで、「用いるオリゴヌクレオチドの生体内での安定性(酵素分解に対する耐性)の向上」、及び「標的mRNAとの結合親和性の増強」が極めて重要であると考えられ、それらを満たす人工核酸の開発が進められてきました。 核酸の構造は塩基部、リン酸ジエステル部および糖部に大別することができ(図1)、それぞれに対して様々な化学修飾が検討されてきた結果、上述の要件を満たす人工核酸がいくつか見出されています。 一方で、ヒト臨床試験を見据え核酸創薬研究がますます進展するにつれ、解決すべき新たな問題が顕在化してきました。 核酸創薬の実用化に必要な技術として、「人工オリゴヌクレオチドの有効なデリバリー技術」、「医薬候補となる配列の効率的なスクリーニング法」、「人工オリゴヌクレオチドが潜在的に有する毒性を回避する技術」があげられますが、このうち「デリバリー技術」に関しては、核酸医薬そのものの高機能化・実用化研究の進展に呼応する形で今まさに発展を遂げつつあります。 これに対して、「スクリーニング技術」については確立された手法は存在せず、未だ研究者の経験則や計算科学に頼った配列探索が展開されています。 また、「人工オリゴヌクレオチドの毒性回避技術」に至っては、一部を除いてその毒性発現メカニズムさえまだ十分に理解されていないのが現状です。 我が国の核酸創薬の技術レベルを一段と引き上げ、国際競争力を強化するためには、現在まで世界を牽引し続けてきた「核酸化学」の力量を最大限に活用しつつ、「医薬候補となる配列の効率的なスクリーニング法」、及び、「人工オリゴヌクレオチドが潜在的に有する毒性を回避する技術」の早期の確立が必要であると言えます。

本研究課題では、「毒性ゼロに向けた革新的核酸医薬プラットフォーム」の構築を目指し、塩基部と糖部の双方に化学修飾を施したデュアル修飾型人工核酸の開発を行います(図2)。 核酸化学に立脚した革新的な人工核酸技術 (大阪大学)を中核としつつ、膨大な医薬候補配列から有望なシーズを超効率的に選び出すスクリーニング技術(医薬基盤・健康・栄養研究所)、核酸医薬の安全性を高い信頼性で担保する毒性評価技術(大阪大学)を併せて開発していきます。 これら3つの基盤技術の構築を進めることで、我々は今後の核酸医薬開発における世界的なデファクトスタンダードとなり得る革新的な核酸医薬品創出基盤技術の開発を目指します(図3)。

<図1>核酸の構造

核酸は、塩基部、リン酸ジエステル部、糖部からなり、それぞれに対して化学修飾が施されます。

<図2>デュアル修飾型人工核酸

本研究では、核酸の塩基部並びに糖部に修飾を施したデュアル修飾型人工核酸を開発し、毒性ゼロに向けた革新的核酸医薬プラットフォームを構築します。

<図3>研究実施体制

強力な連携体制の下、3つの基盤技術を構築し、世界的なデファクトスタンダードとなり得る革新的な核酸医薬品創出基盤技術の開発を目指します。