平成26年度採択研究開発課題

ヒトIgG特異的修飾技術による多様な機能性抗体医薬の創出

研究開発代表者:伊東 祐二

鹿児島大学 大学院理工学研究科 教授

伊東 祐二(鹿児島大学)

この十数年の抗体医薬の隆盛によって、様々な疾患に対する抗体治療薬が開発されています。 しかし、多くの抗体医薬の標的抗原は、細胞外の可溶性因子や細胞表面の膜結合型受容体に限定されており、その作用発現機構としてもリガンド分子の受容体への結合阻害やADCC(抗体依存性細胞障害活性)、CDC(補体依存性細胞障害活性)等のエフェクター機能が主なものです。 近年、新たな展開が見られたものとして、Fabやナノボディ、BiTE(Bispecific T Cell–Engaging Antibody)等の低分子抗体医薬、あるいは完全抗体を用いた抗体薬物複合体:ADC(Antibody-Drug Conjugate)が挙げられますが、更なる抗体によるバイオ医薬品の展開においては、エフェクター機能の高機能化・多様化と抗体治療の対象となる新規疾患分子の発掘と適用の拡大が必然と考えます。

本プロジェクトでは、迅速かつ高い反応収率で、ヒトIgGを特異的に修飾可能な新規ペプチド試薬を技術の中心として用い、任意のエフェクター分子を抗体に担持させることで、高度で多様な機能を持った一連の抗体医薬の創出を狙います。 この中には、従来、抗体医薬の対象とされてこなかった細胞内や脳内の疾患関連分子に対する抗体医薬の開発も含まれています。

本プロジェクトは、鹿児島大学の伊東研究チーム(課題代表者:伊東祐二 教授)を中心に、東京薬科大学(分担代表者:林良雄 教授)と、理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター(分担代表者:金山洋介 研究員)、協和発酵キリン株式会社(分担代表者:高橋信明 主任研究員)の研究チームを加えて行われます。 課題代表者の伊東チームは、ファージディスプレイ技術による標的分子に特異的なペプチドや抗体のデザインを行った実績を持ち、本プロジェクトでも、この技術を使い、細胞内や脳を標的化が可能な、新たなエフェクター機能を有する分子(ペプチド・抗体)の開発を行います。 東京薬科大学の林研究チームは、ペプチドケミストリーに基づいた抗癌剤の開発およびペプチドミメティックスに特化した分子修飾技術を有しており、ADCを中心に抗体の高機能化に向けた新しい化学修飾システムの確立を行います。 平成27年度から加わった理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センターの金山研究チームは、作製した抗体のin vivoイメージングへの応用に特化した研究を推進します。 協和発酵キリン株式会社の高橋研究チームは、抗体医薬の開発企業としての立場から、開発した抗体の細胞、in vivoでの有効性評価を担当すると共に、従来の抗体医薬では適用外とされてきた疾患分野での新規抗体開発を行います。 これらのチームが連携することで、従来にない新しい型の抗体開発の基盤技術と一連の多様な高度化機能抗体の開拓を目指します。

現在の抗体医薬の市場は、一部の日本発の抗体医薬はあるものの、多くは海外企業に席巻されている状態です。 この状況を打破するためには、“産学官”が一体となり、“学”からは、新しい技術・コンセプトによる医薬品候補を創出し、“官”がそれを育み、“産”が形にしていく、そのような日本型の新技術創成サイクルの成功例として、このプロジェクトを是非達成したいと思っています。

<図1>本プロジェクトの研究概要

<図1>本プロジェクトの研究概要

IgG修飾技術を中心に、5つの分野における新規の抗体医薬の開発技術を構築する

<図2>研究プロジェクトのメンバー

<図2>研究プロジェクトのメンバー

左から林良雄教授(分担代表者、東京薬科大学)、伊東教授(課題代表者、鹿児島大学)、高橋信明主任研究員(分担代表者、協和発酵キリン株式会社)