平成26年度採択研究開発課題

多機能複合分子標的物質の作製による細胞運命操作技術の開発

研究開発代表者:岡崎 拓

徳島大学 疾患プロテオゲノム研究センター 教授

岡﨑 拓(徳島大学)

生命科学研究の発展により、特定の分子を標的としたバイオ医薬品の開発が可能となりました。 細胞表面分子は、細胞間の情報授受の担い手であること、薬剤の送達が比較的容易なこと等から、バイオ医薬品の格好の標的であり、既に多くの医薬品が開発されてきました。 現在、標的分子の機能を阻害する抗体や、標的分子を発現する細胞に目印をつける抗体の開発が世界中で精力的に進められていますが、標的分子(特に抑制性分子)の機能を賦活化させる生体分子や、複数の分子の機能のバランスを変化させる生体分子の開発は、以前より期待されているものの、あまり進んではいません。

細胞表面分子に対する生体分子は、標的分子を発現する細胞の機能を変化させる、あるいは他の細胞から受ける影響への感受性を変化させることにより効果を発揮します。 より多くの分子の機能を同時あるいは段階的に制御することにより、より多様かつ詳細に、注目する細胞の機能や感受性を操作することが可能となれば、様々な疾患に対する根治療法の開発につながると期待されます。 また、標的疾患を完全に克服するためには、細胞の機能を操作した後、長期的にその状態を保つ方法、あるいは速やかに解除する方法を開発することも必要となります。

本研究では、複数の細胞表面分子の機能のバランスを変化させることにより、細胞の機能を自在に操作するための基盤技術を開発することを目的とします。

PD-1は1992年に京都大学の本庶佑博士らによって単離同定された遺伝子であり、I型の膜タンパク質をコードします。 研究代表者らは本庶博士らと共に、PD-1リガンド(PD-L1とPD-L2)の同定、シグナル伝達機構の解析、PD-1欠損マウスに発症する自己免疫疾患の解析等により、PD-1が自己に対する不適切な免疫応答を抑制し、自己免疫疾患の発症を制御する抑制性免疫補助受容体であることを明らかにしてきました。 また、PD-1が感染免疫応答や腫瘍免疫応答を抑制すること、及びPD-1を阻害することにより抗腫瘍免疫応答を増強し、腫瘍を排除し得ることを明らかとしてきました。 腫瘍免疫については、その後、分担機関である小野薬品工業株式会社の主導で行われた臨床治験が極めて良好な結果を示したことから、様々な分野において大きな関心を集めています。 また、2014年7月に根治切除不能な悪性黒色腫に対して製造販売承認を、世界に先駆けて受け、国内での使用が開始されています。

PD-1欠損マウスは、自己免疫寛容の破綻により自己免疫疾患を自然発症するが、自己免疫疾患の標的臓器や病態がマウスの遺伝子背景により大きく変化することから、PD-1は状況に応じて多様な分子と協調的に働くと考えられます。 研究代表者らは、自己免疫寛容の成立・維持において、PD-1と協調的に働く分子の探索を試みて来ましたが、最近、LAG-3という別の抑制性免疫補助受容体がPD-1と補完的に働くことを見出しました。

本研究では、PD-1やLAG-3をはじめとした免疫関連分子を標的とし、それらの機能を同時あるいは段階的に制御することにより、リンパ球の機能を自在に操作する方法を開発することを通して、各種基盤技術を開発することを目的とします。 代表機関である徳島大学において各種免疫関連分子の操作によるリンパ球機能制御法の基盤を開発し、分担機関である小野薬品工業株式会社(代表者:柴山史朗主席)において、生体内で使用可能な剤形へと発展させることを試みます。

<図1>

代表機関である徳島大学疾患プロテオゲノム研究センター(左)において各種免疫関連分子の操作によるリンパ球機能制御法の基盤を開発し、分担機関である小野薬品工業株式会社筑波研究所(右)において、生体内で使用可能な剤形へと発展させることを試みます。

<図2>

徳島大学疾患プロテオゲノム研究センターゲノム機能研究分野のメンバー。

<図3>

同一の抗原に対する応答であっても、Tリンパ球は毎回同じように活性化するのではなく、状況に応じて応答しないことがあります。 また、不応答状態に陥る場合、免疫記憶を担う場合、アポトーシスにより死滅する場合、免疫抑制能を獲得する場合など様々ですが、その決定に免疫補助受容体が極めて重要な役割を果たすことが明らかとなってきています。 Tリンパ球の応答性、特性、強度、安定性等を自在に制御することができれば、様々な疾患の治療に応用できると期待されます。

<図4>

Tリンパ球の運命決定を制御する免疫補助受容体には、抑制性のものと興奮性のものがあります。 興奮性の免疫補助受容体は、T細胞活性化のライセンシング、活性化の補助、活性化の促進等に関与します。 抑制性の免疫補助受容体は、T細胞の異常な活性化を抑制します。 異常な活性化には、自己に対する免疫応答、過剰な感染免疫応答、遷延する感染免疫応答等が含まれます。