平成26年度採択研究開発課題

臨床腫瘍特異的なシングルドメイン抗体機能複合体の取得技術に関する研究

研究開発代表者:石川 俊平

東京医科歯科大学 難治疾患研究所 教授(採択~2018年10月)
東京大学 大学院医学系研究科 教授(2018年11月~)

石川 俊平(東京医科歯科大学)

近年がん免疫療法の有効性が着目されてきており、潜在的にがん免疫が生体内でおこっていることが分かってきています。 免疫療法にはワクチンや、養子免疫療法を含む細胞免疫療法、免疫チェックポイントの抗体阻害剤などがあります。 しかしながらその効果は限定的であり、内在性のがん獲得免疫の全体像やがん抗原は明らかにされていません。 リンパ球は抗原受容体遺伝子の体細胞組み換えにより個々の細胞内に固有の抗原受容体配列を持っています。 我々はがんに浸潤するリンパ球の抗原受容体可変部のシーケンシングを行う技術を開発しており、がん組織のゲノムシーケンシングにより腫瘍特異的な抗原受容体可変領域の配列の探索を行っています。 そのなかで、がん組織には正常組織とは異なった抗原受容体のレパートリーが存在することが分かってきました。 本研究では、機能ゲノミクススクリーニング技術を使って、がん特異的抗原受容体配列のなかから抗腫瘍活性を持つものを探し出す予定です。 またそのような抗原受容体ドメインを組み合わせることにより相乗的な機能・効果を持つものを選び出し、機能複合体としてのPOC研究の取得を行います。 近年のゲノムシーケンシングの著しい発達に伴って、主要ながん種における高頻度なドライバー遺伝子変異の全容は解明されてきました。 しかし、がんに対する知見は著しく進歩した一方で、現在の創薬技術で狙うことのできるdruggableな標的は多くはなく、同じ標的分子に対して多くの医薬品が作られているのが現状です。 一方でがん抗原に関しては未知の部分が多く、糖鎖抗原などはがんのゲノムシーケンシングでは特定することが難しいものもあります。 本研究ではゲノムシーケンシングを核とした新技術を計画中の複数の段階で取り入れ、機能性抗原受容体配列の取得及び、それらが認識する新規の癌抗原の同定をも行っていきます。 評価は臨床腫瘍の特徴を正確に反映したモデルで行うことも必要になります。 研究のなかで臨床腫瘍の性質を良く保った動物評価系の構築も行う予定であり、そのような系を用いて抗腫瘍活性の評価を行っていきます。 抗原受容体の機能複合体はそれ単独にして投与する形態も可能であるし、あるいは細胞表面に提示させて免疫細胞療法として使うなど多くの応用の可能性が考えられます。 日本において保健衛生上大きな影響を持つ胃癌、肺癌、肝癌を中心に解析を行い、新規のメカニズムによる革新的バイオ医薬品の開発を目指します。

<図1> 研究室の集合写真

正面真ん中が研究代表者の石川

<図2> 研究計画の概要

(上段)腫瘍浸潤リンパ球のゲノムシーケンシングにより抗原受容体の配列解読を行い、腫瘍特異的な抗原受容体配列の特定を行います。 (下段)このようにして取得した腫瘍特異的抗原受容体をスクリーニングライブラリーとして機能ゲノミクススクリーニングを行い、抗腫瘍活性を持つ機能的抗原受容体を特定します。 さらには機能的抗原受容体を組み合わせることにより、より高機能の抗腫瘍活性を持った機能複合体を同定する技術を開発することが目標です。

<図3> 機能性ゲノムスクリーニング技術

抗腫瘍活性を持つ機能性抗原受容体を選び出す為の機能ゲノミクススクリーニングの概要を示します。 (上段)腫瘍特異的抗原受容体配列をもとにしてライブラリーを作成し、がん細胞や免疫細胞に導入します。 (下段)ライブラリーが導入された細胞をマウスに移植して、抗腫瘍活性を持つ細胞やその細胞数の変動を次世代シーケンサーを用いて配列解読します。バックグラウンドに比較して大きく変動する機能性抗原受容体の配列を特定します。