平成26年度採択研究開発課題

バイオ医薬品局所徐放のための展開型ナノシート創出技術開発

研究開発代表者:阿部 俊明

東北大学 大学院医学系研究科 教授

阿部 俊明(東北大学)

我々は、薬剤を局所で徐放したり細胞を局所へ送達する技術開発を行ってきました。 眼疾患の治療を目指して行われてきたものですが、眼疾患以外にも広くさまざまな疾患を対象にできる技術開発になります。 まず、眼疾患では薬剤治療が困難で失明疾患の常に上位を占めてきた網膜疾患治療をめざすことから開始しました。 他の神経組織と同じで網膜は一度障害されると再生は難しいため、変性に陥る前に薬物投与などで治療が必要とされます。 しかし眼の最深部にある網膜に薬を届けることは容易ではありません。 最近、眼内注射や眼内インプラントで直接薬剤投与を行う方法が報告され、網膜疾患を薬剤治療することが注目されています。 しかし、これらの方法は感染症などの副作用の危険性もあります。 そこで、我々は眼内ではなく眼外の強膜上にから薬剤を徐放する経強膜ドラッグデリバリーシステムを開発してきました。 我々が最近開発してきたデバイスを用いると、強膜から薬物を網膜へ持続的に長期間投与できるようになりました。 眼内投与に比較して安全な方法で、眼疾患以外にも応用可能です。 この低分子化合物薬剤をデバイスから徐放する技術は近いうちに治験が開始される予定です。 これらは東北大学大学院工学研究科バイオロボティクス専攻の西澤松彦教授、梶弘和准教授、東北大学医学系研究科眼科学教室の中澤徹教授との共同研究で行われてきました。

さらに、今回の革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業では、これまでの技術を利用して特定の組織や臓器に容易にバイオ医薬品を有効に送達する技術開発を行うことを目指しています。 このために、微細加工ナノシート作製とナノシート生体内局所展開技術開発を行い、まず眼球を標的にバイオ医薬品送達を目指します。 我々は、さまざまなスペースの形態に合わせて自由な展開ができる、生体分解性あるいは非分解性のナノ厚のシート作製技術開発を長年行ってきました。 宇宙構造物工学からのヒントで設計されたもので、針のような狭い空間を通過しても局所のスペースに応じた展開ができます。 狭い空間の代表として網膜下や結膜下腔がありますが、これらのスペースは網膜疾患治療に有望なスペースで、現在は硝子体手術でも無縫合手術が主流のように、注射針などを利用してバイオ医薬品徐放ナノシートの局所展開を縫合処置なしに行えることを目指します。 本来細胞移植用シートとして開発してきましたが、薬剤などの搭載が可能で、重ね合わせも自由にできれば、多剤徐放も可能です。 これまでの検討では、材料によっては分子非透過のものもあり、透過性のある材料との組み合わせで一方向性徐放も可能にします。 すでに動物実験で有効性が確認されたバイオ医薬品(抗体等)を搭載して効果を確認する予定です。 また柔軟性と密着性があり、他臓器への利用も考慮でき、さらに酸素濃度、活性酸素、pHなどの感知センサー機能も搭載しやすく、遺伝子搭載や標的蛋白分泌細胞培養も可能です。 針などの狭い空間を介して繰り返し投与できる局所展開型バイオ医薬品徐放の本技術は革新的な発展が期待できます。

この技術を早期に臨床応用するために、企業や団体との共同研究を希望します。

<図1>研究室あれこれ

1)動物飼育(ウサギ飼育)、2)手術顕微鏡、3)網膜電図(ERG)、4)網膜光干渉断層計(OCT)は動物飼育し、手術操作を含めた実験を行い、その評価機器に利用します。5)蛍光実体顕微鏡、6)微細加工機、7)スピンコーター、8)高速液体クロマトグラフィー、9)real-time PCR、10)蛍光顕微鏡薬剤徐放ナノシートの作製やその評価あるいは実際に動物実験後の評価に利用される検査機器の一部を示しました。

<図2>持続性ドラックデリバリーシステム(PCT/JP2010/63793)

眼内操作なしに経強膜から薬剤を持続徐放させます。 1)薬剤徐放はPEGDMとTEGDMという分子量のみが違うポリマーの組み合わせで厳密な薬剤徐放をし、分子非透過のTEGDMを利用することで一方向性の薬剤徐放ができるようになりました。 2)本デバイスの大きい特徴として膨張率の違うポリマーの組み合わせにより徐放を正確に制御できるようになったことがあげられます。Biomaterials 32, 1950 (2011), Acta Biomaterialia 10 680(2014)

<図3>高分子量(抗体等)の徐放検討

1)我々のこれまでの検討ではTEGDM/PEGDMの割合を変化させる医薬品包埋で、高分子徐放が十分に条件検討できます。 2)これまで複数の候補薬剤をリザーバータイプのデバイスから徐放させてきましたが、リザーバー内の薬剤はペレット化して包埋するため、複数の薬剤をそれぞれ独立させて徐放させることが可能になりました。 バイオ医薬品徐放でも同様の可能性に挑戦します。PLoS ONE 8, e58580 (2013)

<図4>ナノカーペット局所展開と細胞デリバリー(PCT/JP2014/67852)

我々は細胞移植の臨床研究結果を過去に報告しましたが、細胞機能を発揮するより確実な方法として、細胞シート移植を検討してきました。 1)ナノカーペットは局所のスペースに合わせた局所展開型を利用しており宇宙構造物工学からヒントを得ました。 2)細胞培養等が可能で、3)網膜下など狭い空間に局所の状況に合わせた細胞移植に有効になると考えられます。 Adv Mater 26、1699(2014)