平成26年度採択研究開発課題

エクソソーム改変技術を用いた新規ドラッグデリバリーシステムの開発

研究開発代表者:吉岡 祐亮

国立がん研究センター研究所 治療開発グループ 分子細胞治療研究分野 研究員

吉岡 祐亮(国立がん研究センター)

現在、核酸医薬品や抗体医薬品などのバイオ医薬品開発分野が急成長を遂げており、精力的に研究が行われています。 しかし、これらバイオ医薬品は安全かつ特定の疾患組織や細胞に、高効率に送達(デリバリー)されて初めて効果を発揮します。 従って、バイオ医薬品開発の成功には、ドラッグデリバリーシステム(DDS)の確立が非常に重要です。 わたしたちは、エクソソーム (Exosome)と呼ばれる脂質二重膜を有する100 nmほどの大きさの粒子をDDSに応用することを試みています。 エクソソームは、血球細胞や上皮細胞、内皮細胞など、様々な細胞から分泌され、わたしたちの体液中を循環しています。 このエクソソームには、様々な物質が内包されており、近接する細胞や遠隔地に存在する細胞へ内包している物質を届ける役割があるとされています。 その小さなエクソソームの中には細胞に由来する酵素などのタンパク質や、mRNAや機能性小分子RNAであるmicroRNA(miRNA)などの核酸が内包されています。 見方を変えると、エクソソームは細胞から細胞へ物質を届けるための生体内に存在する天然のDDSとも言えます。 しかし、細胞がエクソソームにどのようにして各物質を詰め込んでいるのかということは、全容は解明されていませんし、また、どのような仕組みでエクソソームが細胞に取り込まれているのかも、解明されていません。 そのような現状ではありますが、エクソソームは特定の臓器や細胞に集積する傾向を示すという報告もあります。 よって、エクソソームをDDSとして利用するためには、エクソソームが細胞に取り込まれるメカニズムの解明を行うとともに、目的とするエクソソームを作製するためのハンドリング•加工技術の開発も必要となります。 エクソソームを介して核酸などを、特定の組織や細胞、疾患部位へ特異的に送達するために、エクソソーム膜に特定のタンパク質を付加させることや、膜タンパク質に糖鎖修飾を施すことを計画しています。 また、エクソソームの中に、バイオ医薬品を詰め込まないといけません。 現在、核酸医薬品としてmiRNAやsiRNAが注目されていますが、細胞が分泌したエクソソームを回収し、これら核酸を内包させる技術の開発、もしくは細胞に手を加えることで、細胞内で核酸をエクソソームに内包させ、分泌されたエクソソームを回収する技術開発を試みます。 わたしたちは、本研究によって、バイオ医薬品を安全かつ高効率に疾患部位まで運ぶ新たなシステムの開発を目指しています。

<図1>エクソソームの回収

写真は細胞の培養上清や、血液や尿などの体液からエクソソームを回収する作業風景。超遠心機を用いて、エクソソームをペレットダウンさせて回収します。

<図2>エクソソームの電子顕微鏡撮影像

前立腺がん細胞から分泌されたエクソソームを、位相差電子顕微鏡を用いて撮影。エクソソームは100 nm前後の大きさを示します。スケールバー: 100 nm

<図3>本研究の概要

細胞やエクソソームを加工、改変することで、バイオ医薬品を安全かつ高効率に疾患部位まで運ぶ新たなシステムの開発を行います。