平成26年度採択研究開発課題

タンパク質翻訳を促進する新規ノンコーディングRNAを用いた革新的創薬プラットフォームの構築

研究開発代表者:カルニンチ・ピエロ

理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター 副センター長 機能性ゲノム解析部門 部門長

カルニンチ・ピエロ(理化学研究所)

SINEUPは、2012年(Nature. 491:454-7.2012)に発表された新しいノンコーディングRNAです。 任意の対象mRNAからのタンパク質翻訳を促進することができるツールとして使うことができるため、研究用試薬やタンパク質製造ツール、から核酸医薬まで幅広いアプリケーションに使用できます。 機能領域(ED: Effector Domain)と結合領域(BD: Binding Domain)の二つのドメインで構成されます。 EDは、タンパク質翻訳を促進する機能を持つドメインで、BDは、ターゲットmRNAに特異的に結合するように設計されます。

核酸医薬として近年注目を集めているものにRNAiがありますが、SINEUPは、RNAiとは対照的な働きをします。 RNAiは、ターゲットmRNAに結合し、分解を促進することで遺伝子の発現を抑制します。 一方で、SINEUPは、ターゲットmRNAからのタンパク質翻訳を促進する機能を持ちます。 RNAiは疾患の原因のタンパク質を阻害することで、症状を抑えることができる場合には、低分子、抗体医薬と同様に協力なツールとなります。 しかしながら、タンパク質の生産量が低いことによって生じる疾患には、原理的に対処できません。 SINEUPは、この未開拓領域にアプローチすることができます。

たとえばハプロ不全は、片方のアレルの遺伝子が何らかの原因で発現していない状態です。 結果として必要なタンパク質の量が足りない。 このことに起因する疾患も少なからずあります。 また、加齢によるタンパク質合成の低下による不調もあるでしょう。 SINEUPはこういった状態を改善する可能性を持っています。

RNAi関連市場は2015年には241億ドルに達するとの予測もあります。 しかしながら、主要な関連特許は海外勢に押さえられており、日本は知的財産や事業化の面で、後塵を拝しているのが実状です。 そのため、日本の製薬企業は、欧米の企業とのライセンス契約、あるいは共同研究契約を締結し、結果として巨額の資金が海外に流出しているのが現状です。 我々は、SINEUPをベースに「国産」の次世代バイオ医薬品の中核技術を構築することを目指しています。

SINEUPは、ターゲット特異的に設計する必要があります。 そこで現在、効率的なSINEUPの配列設計を行うためのプラットフォームの構築をしています。 様々な疾患に関わっている遺伝子にこのプラットフォームを適用し、SINEUPによる創薬の土台作りを行います。

<図1>

SINEUPは、機能領域(ED: Effector Domain)と結合領域(BD: Binding Domain)の二つのドメインで構成されます。EDは、タンパク質翻訳を促進する機能を持つドメインで、BDは、ターゲットmRNAに特異的に結合するように設計されます。