平成26年度採択研究開発課題

RNAi型医薬品を標的組織ならびに多能性幹細胞で持続的に発現させるウイルスベクター技術の開発

研究開発代表者:朝長 啓造

京都大学 ウイルス研究所 教授

朝長 啓造(京都大学)

疾患に関連する遺伝子を特異的に制御できる遺伝子サイレンシング技術「RNA干渉(RNAi)」は、次世代の治療法として先進国で開発競争にしのぎが削られています。 しかしながら、小さくて取扱いの難しい低分子RNAを生体局所に効率的に輸送するとともに、持続的に作用させる技術が大きな障壁となり、実用化は遅々として進んでおらず、開発を縮小あるいは断念する企業も出てきています。

本研究課題は特許技術であるボルナウイルスを利用したベクターシステムを用いて、これら低分子RNA治療に係る既存の問題を解決し、標的臓器あるいは標的細胞へのRNAi型医薬品の安全な輸送ならびに、適切なタイミングで持続的に発現させる要素技術の開発を行うことを目的としています。

ボルナウイルスはRNA型のウイルスであり、標的細胞の核内で持続的に複製を行う、他のRNAウイルスにはないユニークな性質を持ちます。そのため、低分子RNAの発現に最適なプラットフォームとなりえます。 私達はこれまでにボルナウイルスベクターを用いて、神経細胞をはじめ多くの組織を標的とし、長期間安定的に遺伝子導入をおこなうことに成功しました。またiPS細胞や間葉系幹細胞へも遺伝子導入が可能であり、ベクター導入細胞が分化能を失わないことを明らかにしました。

本研究課題は以下の6つの研究計画を柱とし、RNAi型医薬品のためのボルナウイルスベクターの実用化を目指します。

  1. 機能性の低分子RNAを細胞内で安定的に発現できるボルナウイルスベクターのプラットフォームの確立
  2. ボルナウイルスベクターの精製効率を向上させる技術革新
  3. 生体への安全性を確保するためのボルナウイルスベクターの毒性低減と副作用の排除
  4. モデル動物を用いた標的組織における低分子RNA持続発現系の確立
  5. iPS細胞へのボルナウイルスベクターの感染と分化誘導
  6. ベクターの低分子RNA発現オン/オフシステムの構築

本研究課題の特色は、ユニークなRNAウイルスであるボルナウイルスを用いて低分子RNA発現技術を確立する点あり、同様の研究は他には見られません。私達は世界でもトップレベルのボルナウイルス研究をおこなっており、本研究課題の基礎となる技術と知見は独自の成果です。 本研究課題は、私達がこれまでにおこなってきたボルナウイルス研究ならびにボルナウイルスベクター開発を格段に発展させるものです。本研究による成果は、細胞や生体への低分子RNA適用技術のブレークスルーとなり、また神経変性疾患やガンなどの難治性疾患に広く適用できる技術基盤を提供できると考えます。 さらに、iPS細胞への適応も可能であることから、再生医療や加齢医学にも大きく貢献することが期待されます。

<図1>本研究課題の達成目標

RNAi型医薬品のためのボルナウイルスベクターの実用化を目指し、標的組織でRNAi型医薬品(低分子RNA)を持続発現するウイルスベクターの確立とボルナウイルスベクターを用いたiPS細胞での遺伝子治療法の確立をおこなう。 目標の達成評価は各々、プラットフォーム技術の確立とベクターの技術革新およびiPS細胞への適用方法の最適化そして低分子RNA発現タイミングの制御を指標におこなう。

<図2>分子生物学実験室

基礎的な分子生物学の実験をほぼひと通りおこなうことが可能な設備において研究をおこなっている。

<図3>P2実験室

安全キャビネットを使用し組換えウイルス等を用いた実験をおこなっている。