平成27年度採択研究開発課題

組織特異的送達能を有するコンジュゲートsiRNAの創成

研究開発代表者:上野 義仁

岐阜大学 大学院応用生物科学研究科 教授

上野 義仁

核酸医薬、特にsiRNA医薬は、その特異性と安全性の高さから次世代の抗がん剤候補として大きく期待されていますが、生体内での不安定性や、標的細胞、組織への効率的な送達が課題となり、未だ医薬品として世に出ているものはありません。 siRNA医薬の薬物送達システム (Drug Delivery System; DDS) の技術開発 には大きく分けて2通りの方法があります。 一つ目は、親油性のLipid Nanoparticle (LNP) にsiRNAを封入して希望する粒径の複合体を調製して利用する方法と、二つ目は、DDS機能を持つ官能基を化学的にsiRNA分子中に装着し、かつ血中安定性を強化したsiRNA−薬物送達分子コンジュゲートを化学合成して利用する方法です。 現在、siRNA医薬ではLNPを用いてsiRNA保護機能と送達機能を持たせるDDS技術の開発が先行して進められていますが、LNPを用いる送達法では製剤が肝臓にトラップされるなど問題点が多く、また、製剤化に於いても粒子径の均一化、安定性、矮小化の必要性が大きな課題となっています。

本プロジェクトでは、LNPフリーのsiRNA医薬の創出を目的とし、上記課題を克服する為に、岐阜大学が有する核酸化学と糖鎖化学の力を最大限に活用して、1)siRNAに新規化学修飾を施して生体内でも安定なsiRNAを創出し、2)がん細胞表面に過剰発現している受容体を標的とした化合物をパイロット分子として、上記安定化siRNAと組み合わせることによりシンプルで有効性と安全性に優れたsiRNA医薬の創出を行います。 本プロジェクトで開発される化学修飾siRNAは、ヌクレアーゼ耐性が強化された基本構造を持っているので、今後の研究により、付加するLigandを選択することにより特定組織中のがん細胞への選択的な送達が可能となり、様々ながんに対し有効で安全性の高い画期的な抗がん剤になることが期待されます。

分担機関である株式会社ジーンケア研究所は、ゲノム修復に関与するREDQL1とWRNの2種類のヘリカーゼが多くのがん細胞中で高発現し、siRNAでこの発現を抑制すると、チェックポイント機能を消失している悪性がん細胞が分裂死を起こし死滅すること、チェックポイント機能が堅固な正常細胞ではセルサイクルの進行は遅れるが分裂死が起こらないことを見出しています。 このため、副作用の少ない抗がん剤候補として有望なので、本プロジェクトでは、RECQL1-siRNAを含む癌細胞のゲノム修復関連遺伝子を標的とするsiRNAをリード医薬品候補として研究を進めます。

また、岐阜大学で独自に開発した高効率11C標識化技術により組織特異的リガンドを化学修飾したsiRNAを11C標識し、国立長寿医療研究センターの協力を得て、非侵襲的分子イメージング技術である陽電子放射断層画像撮影法(PET)により11C標識siRNAの組織選択性と体内動態を測定します。 このプロセスにより、化学修飾を凝らしたsiRNA医薬の組織選択能力や薬理学的キネティックスについて、非侵襲的に、かつ、リアルタイムでデータを集積できるはずであり、今後このような核酸医薬開発のための新規基盤技術を、実例を添えて開発できると考えています。

<図1>研究実地体制

3研究機関が協力して研究を実施します。

<図2>研究実施内容

本プロジェクトでは、化学修飾によりsiRNAにヌクレアーゼ耐性を付与し、がん細胞表面に過剰発現している受容体を標的とした化合物をパイロット分子としてsiRNAに結合させることによりがん指向性を付与したsiRNA医薬の創出を行います。