平成27年度採択研究開発課題

バイオ医薬品のマルチモーダル化による可視化・定量技術開発

研究開発代表者:渡邊 恭良

理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター センター長 生命機能動的イメージング部門 部門長

渡邊 恭良

バイオ医薬品は、疾患ターゲットへの特異性が高いことから効果が劇的であり、患者負担の少ない医療を実現すると期待されています。 その実現には、バイオ医薬品が疾患部位に正しく集積し、機能を発揮していることを可視化し、高精度で定量することが重要です。 たとえば、PETイメージングは、それのみでは診断技術としては不完全であり、CT(コンピューター断層撮影)の画像と合わせることで、高感度な診断を可能としています。 このように複数の画像計測手法を組み合わせる方法を用いることにより、個別の手法では得られない有用な生体画像情報を引き出すことができるようになります。

本研究では、複数のモダリティ(検査技術)を用いて、生体内のバイオ医薬品の動態を観察する技術基盤を構築することで、診断精度の高い可視化・定量計測技術を開発します。 さらに、バイオ医薬品に対して、診断と治療の両者を担う複数の機能性分子を導入することで、診断と治療を同一薬剤で行うセラノスティックスの実現を目指します。

複数の機能性分子をバイオ医薬品に導入するためには、既存の化学技術では十分と言えません。 そこで、本研究では、必要に応じて、簡単に、確実に、迅速に、二つ以上の化学修飾を、同時に、バイオ医薬品の同一箇所に導入する技術を開発します。 これを達成するために、我々がこれまで開発してきた生体親和性の高い有機化学反応であるクリック反応をさらに発展させます。 具体的には、同一分子内に反応性の異なる複数のクリック反応部位を有する新規化合物であるマルチ・クリック・プラットフォーム化合物を開発します。 このプラットフォーム化合物を用いることで、バイオ医薬品に対して、複数の機能性分子を簡単に、確実に、迅速に導入する技術を開発します。

このプラットフォーム化合物に対して、治療用の薬剤を導入することで、バイオ医薬品の性能を飛躍的に向上させることが可能となると期待されます。 たとえば、最近では、乳がん細胞を標的とした抗体に抗がん剤を結合させた抗体薬物複合体(カドサイラ)が、手術不能または再発乳がん患者に対して効果が認められています。 このように、抗体薬物複合体は次世代の医薬品です。 本研究で開発する多重化学修飾技術は、この次世代医薬品に対して、抗がん剤だけでなく、イメージング用・治療用放射性核種や薬物動態改善のための親水性ポリマーなどの複数の機能性分子の導入を可能とします。

複数の機能性分子の導入には、マルチ・クリック・プラットフォーム化合物以外にも、クリック反応性部位を有する機能性分子を設計・合成する必要があります。 そこで現在、プラットフォーム化合物の改良に加え、機能性分子の設計・合成を進めています。 様々なバイオ医薬品に適用可能な技術基盤を構築し、グローバル競争に打ち勝つ日本独自技術の創出を目指します。

<図1>

バイオ医薬品と様々な機能性分子を、これまでとは異なる様式で簡便に複数連結する新規技術を普及させることで、イノベーションを創出し、新しい価値を生み出します。

<図2>

クリック反応では、アジド基とアルキン部位を持つ二つの化合物を環化付加反応により連結します。