平成26年度採択研究開発課題

新規CRISPR-Cas9システムセットの開発とその医療応用

研究開発代表者:濡木 理

東京大学 大学院理学系研究科 教授

濡木 理(東京大学)

我々の研究室では、細胞膜を介した物質輸送機構解明、非翻訳RNAによる遺伝子発現制御機構解明、慢性炎症による疾病の発症機構解明の3プロジェクトに関して、これらの生命現象に重要な生体高分子(蛋白質・核酸)の立体構造をX線結晶構造解析により決定し、解明した構造から得られる知見を実証するために、in vitroおよびvivoでの機能解析を行っています。 本革新的バイオ事業では、RNAに依存したゲノムDNAの切断に働くCRISPR-Cas9に焦点を当てて、分子構造から医療応用までを目指します。 CRISPR-Cas9システムは、ゲノム編集に革新をもたらし、既に創薬研究においても広く使用され始めていますが、この技術を医療に応用するためには幾つかの問題があります。 具体的には、現在のCRISPR-Cas9システムは、ゲノム切断部位の数塩基下流に2-5塩基からなるPAM配列がなければなりません。 この制約をなくすために、様々なPAM配列を認識するCas9複合体の結晶構造を決定し、PAM配列の特異的な認識機構を理解し、これに基づき多数のPAM認識モジュールを揃えた改変CRISPR-Cas9システムセットを開発します(国立大学法人東京大学)。 また、改変CRISPR-Cas9システムの医療応用を目的として、セミインタクト細胞リシール技術を利用し、リコンビナントCas9タンパク質/ガイド鎖RNA複合体を細胞内に導入することより、細胞を使った簡便かつ安全で汎用性の高い改変CRISPR-Cas9システムセットの評価系を構築するとともに、導入したCRISPR-Cas9による組換え部位を次世代シークエンサー等により同定し、相同組換えを受ける領域の長さ(コンバージョン長)の解析、ターゲット・オフターゲット部位の検証などを行います。 また、同法による複数の特定遺伝子座の同時可視化法を構築・利用し、CRISPR-Cas9システムの課題となっているターゲット・オフターゲットの定量的評価法を開発します(国立大学法人東京大学)。 また、既に構築しているマウス受精卵を用いたゲノム編集による遺伝子ノックアウトマウス等の作出頻度・ゲノム編集効率に係るin vivo評価系を用いて、新たに開発する改変CRISPR-Cas9システムを最適化します(国立大学法人群馬大学)。 これらの技術を統合して医療応用が可能なレベルにまでオフターゲットのリスクを低減させる技術として完成させます。 さらに、これまでに蓄積したDNA相同組換えの開始機構制御に関する知見を活かし、セミインタクト細胞リシール技術を用いて、造血幹細胞等の内在性相同組換え活性を制御し、CRISPR-Cas9の課題である低頻度の相同配列置換効率を克服する新技術の開発を行い(国立大学法人東京大学)、ヒト遺伝病モデルブタ(具体的には、X-SCIDブタ等)を用いたゲノム矯正造血幹細胞移植治療法を確立します(学校法人自治医科大学)。

図1

<図1>

ニューロサイエンスのブレークスルーとなった光遺伝学ツール、チャネルロドプシンの立体構造。我々の研究室で、世界に先駆けて解明しました。

図2

<図2>

次世代ゲノム編集ツールである、Cas9とガイドRNA、ターゲットDNAの複合体の結晶構造。我々の研究室で、世界に先駆けて解明しました。

図3

<図3>

生体分子の結晶化の様子。

図4

<図4>

X線結晶構造解析の様子。