平成26年度採択研究開発課題

バイオ医薬品評価のための新世代ヒト化マウスの開発

研究開発代表者:石川 文彦

理化学研究所 統合生命医科学研究センター ヒト疾患モデル研究グループ グループディレクター・主任研究員

石川 文彦(理化学研究所)

バイオ医薬品と言われる抗体医薬・ペプチド・アジュバントは、さまざまな疾患において、次世代の医療を切り拓く可能性に期待が寄せられています。生体のシステムの中でも、血液・免疫系に作用するバイオ医薬品は、治療効果と副作用が、ヒトと実験動物であるマウスにおいて、必ずしも同様に見られるわけではありません。 すなわち、マウスの細胞や分子に対する評価だけでなく、ヒトの細胞や分子に対する検証を行うことで、より効率で安全性の高い開発と臨床応用が実現すると考えられます。

このような背景から、私たちは、ヒトの血液・免疫システムをマウスに再現する「造血・免疫系ヒト化マウス(通称:ヒト化マウス)」を開発してきました。ヒトの免疫システムには、私たちの体を守るために、10種類以上にも及ぶ多様な細胞が存在します。 そのすべてを、私たちの一生にわたって作り続けることができるヒトの造血幹細胞を、ヒト細胞を拒絶することのできない免疫不全マウスの生直後に移植することで、ヒト化マウスは作られます。

今回、バイオ医薬品の創薬のために、さらに優れたヒト化マウスを開発することを目的とします。従来のヒト化マウスでは、血液の幹細胞からマウスの体内で作られたヒト免疫細胞がヒトの病気を認識して、駆逐するということが困難とされてきました。 特に、ヒトの免疫細胞の中で、ヒト樹状細胞・T細胞・B細胞という3つの細胞が相互に作用して、病気の原因となる細胞を認識したり、排除したりできるような新世代ヒト化マウスを作ることが、ヒトの免疫システムに作用するバイオ医薬品の開発に役立つと考えられます。

この新世代ヒト化マウスを用いて、抗体医薬がヒトの白血病やヒトの免疫システムにどのように作用するか、がん・白血病抗原に対する免疫応答をどのように惹起できるかについて評価します。 このような評価が可能となれば、企業から創り出される新規バイオ医薬品の、前臨床段階で用いるアッセイ系として位置づけられ、創薬を加速することに役立つと期待されます。

<図1> 免疫系ヒト化マウスの作製

臍帯血から、すべての血液・免疫細胞を作る造血幹細胞を取り出します。造血幹細胞は、臍帯血のなかに、1%にも満たない割合でしか存在しません。取り出したヒト造血幹細胞は、生まれて数日以内の免疫不全マウスに輸注します。 通常のマウスでは、ヒト細胞が非自己と認識され、拒絶されますが、免疫不全マウスの中で、ヒト造血幹細胞は、骨髄・脾臓・胸腺などを利用しながら、さまざまな免疫細胞へと分化し、機能的に成熟していきます。

<図2>

免疫能力のよわいマウスを用いた実験ですから、特殊な管理が必要です。私達は、ヒト化マウス研究を行うため、ビニールアイソレーターとバイオバブルという二つの設備を用いています。 これらの設備内で、移植前の免疫不全マウスも移植して幹細胞がヒト免疫システムを作っていくヒト化マウスが、安全に飼育されます。

<図3>

正常なヒトの血液・免疫システムを再現するヒト化マウスを作製するため、ヒト造血幹細胞を清潔な状態で、かつ、高い純度で取り出すことが必要です。私達は、毎回の実験において、ソーターを用いて、これらの条件を満たしています。 そのことで、免疫不全状態のマウスの中で、確かに、ヒトの造血幹細胞からヒト免疫システムが出来上がります。