平成27年度採択研究開発課題

全身・臓器丸ごとイメージング技術によるバイオ医薬品の時間的・空間的な体内動態可視化技術の開発

研究開発代表者:上田 泰己

東京大学 大学院医学系研究科 教授

上田 泰己

生体高分子から構成されるバイオ医薬品は、その化学的性質から様々な化学的標識が可能であるため、バイオ医薬品そのものに標識を導入することは可能である。 しかしながら、これまでにCTやMRI、PET、近赤外光イメージングなどの全身を包括的に観察する様々な技術が開発されてきたが、バイオ医薬品の体内動態を細胞レベルで包括的かつハイスループットに解析する技術基盤は未だに確立されていない。 上記の手法の根本的な課題として、1細胞解像度での撮像が原理的に困難であること、特定の細胞を標識する技術が不足しているため、観測されるシグナルがどのような細胞種に局在しているかを特定できないこと、が挙げられる。 我々は、これまでに固定組織を高度に透明化してインフォマティクス解析に資する全組織レベルの3D蛍光イメージングデータを取得し、異なるサンプル間の遺伝子発現を定量的に直接比較するための世界最先端のパイプラインであるCUBIC法の開発に成功している。

本手法は、1)世界最高性能の水溶性透明化試薬を用いて、2)マウス脳だけでなく、より大きな新世界ザル脳やマウス全身などのサンプルに対して高速に、かつ1細胞解像度で3Dイメージングを行い、3)シグナル比較を行うための情報科学的解析手法や、4)3D免疫染色や3D解剖学・病理学を通じた解析パイプラインからなる。 バイオ医薬品は生体高分子から構成されており、蛍光標識を導入できることに加えて、動物個体にパラホルムアルデヒドやホルマリンなどの固定操作を行うことで、近接するタンパク質に架橋することができるため、ある時間におけるバイオ医薬品の体内局在のスナップショットを取得することができる。 本研究では、バイオ医薬品の生体高分子としての性質を最大限に活用し、CUBIC法を用いることで全身丸ごと透明化・イメージング技術によるバイオ医薬品の体内局在解析パイプラインの開発に取り組む。 具体的には、体内に投与されたバイオ医薬品が、臓器内のどのような部位に局在しているかを明らかにするために、複数のバイオ医薬品を異なる波長で検出する手法、及びシグナルの解剖学的な空間情報を特定するための細胞核の対比染色系と組み合わせることで2色以上のシグナルを同時に取得可能な観察系を構築する。 また、様々な遺伝子に蛍光タンパク質がコードされたレポーターマウスや臓器のホールマウント免疫染色系を適用し、バイオ医薬品のシグナルと重ね合わせることで、バイオ医薬品が作用する細胞種の特定が可能な検出系を確立する。 更に、動物個体の時系列サンプリングを行うことで、バイオ医薬品が時間依存的にどのような体内局在変化を示すかを明らかにし、バイオ医薬品の体内動態を解析するための基盤を整える。 以上のようなバイオ医薬品の体内局在解析パイプラインを開発することで、世界標準となるバイオ医薬品可視化・測定技術を確立する。

<図1>

全身全細胞の網羅的な解析技術CUBIC (Susaki et al. Cell 2014; Tainaka et al. Cell 2014)。 従来報告されていた尿素に加え、新たにアミノアルコールが組織の透明化及び脱色に寄与することを発見した。 CUBICは臓器全体やマウス全身の高効率かつ高再現性の組織透明化を実現し、シート照明顕微鏡による高速3Dイメージング (マウス全脳1色1方向あたり30-60分) と画像解析による情報抽出を可能とした。

<図2>

分子生物学実験室の風景

<図3>

研究室メンバーの集合写真