プレスリリース 体細胞遺伝子の抑制による生殖細胞形成の分子機構―HDAC3タンパク質による生殖細胞形成の制御―

平成30年9月5日プレスリリース

国立大学法人 東北大学加齢医学研究所
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構

発表のポイント

  • 生殖細胞が胚発生の初期段階で形成される際に必要なタンパク質として、ヒストン脱アセチル化酵素HDAC3を同定しました。
  • HDAC3は、形成期の生殖細胞において、体細胞で働く遺伝子の発現を阻害することがわかりました。
  • HDAC3が標的とする体細胞遺伝子には、生殖細胞形成に必要な遺伝子の発現を抑制する働きがあることがわかりました。

概要

東北大学加齢医学研究所医用細胞資源センターの松居靖久(まついやすひさ)教授と望月研太郎(もちづきけんたろう)助教(現・ブリティッシュコロンビア大学・研究員)は、林陽平(はやしようへい)助教、関中保(せきなかたもつ)特別研究員らとともに、マウス生殖細胞が胚発生の初期に形成される際に必要なタンパク質としてHDAC3を同定しました。さらにHDAC3は、生殖細胞形成に働くタンパク質BLIMP1と協調し、形成期の生殖細胞において体細胞遺伝子群の発現を抑制し、その制御下にある生殖細胞形成に必要とされる遺伝子の発現を保障していることを明らかにしました。本研究成果は、世代継承を担う生殖細胞の形成を制御する根本原理の一端の解明につながる可能性があります。研究結果は、Cell Reports電子版に掲載されます。


図 HDAC3の作用機構
HDAC3は、BLIMP1と協調してHoxa1などの体細胞遺伝子群の発現を抑制し、その制御下にある始原生殖細胞(PGC)形成に必要な遺伝子群(PGC遺伝子群)の発現を保障している。

詳細な説明

体を構成する体細胞と次世代を生み出すための生殖細胞は、役割が全く異なるにもかかわらず、元々は受精卵という1つの細胞に由来します。これまでに、マウスの生殖細胞は、胚発生過程の6.5日頃(6.5日胚)に未分化な生殖細胞である始原生殖細胞(PGC)として誘導されることがわかっていましたが、PGC形成がどのように制御されているのか、また、体細胞とPGCの遺伝子発現がどのように差別化されているのか、などの分子機構に関しては、よくわかっていませんでした。そこで、PGCの形成を制御する遺伝子を同定し、分子機構を解明することを目的に、候補遺伝子のスクリーニングを行いました。胚性幹細胞(ES細胞)*1からPGC様細胞 (PGC-like cell : PGCLC)*2を誘導する培養系で、200種類のヒストン*3修飾制御因子遺伝子のノックダウン(KD)をRNA干渉法*4により行い、KDによりPGCLC形成が阻害される遺伝子として、ヒストン脱アセチル化酵素遺伝子Hdac3を同定しました。ヒストンの脱アセチル化は、一般的に遺伝子発現を抑制することが知られており、HDAC3は本来PGCで発現するべきではない遺伝子群の発現を抑制することが予想されました。

そこで次に、HDAC3が制御する標的遺伝子を同定するために、Hdac3をKDしたPGCLCのトランスクリプトーム解析*5を行い、HDAC3が体細胞の初期分化に関わるHoxa1遺伝子などの体細胞遺伝子の発現を抑制することを見いだしました(図)。またHDAC3が、PGC形成に働く転写因子タンパク質BLIMP1と相互作用し、体細胞遺伝子の発現を直接抑制することがわかりました。さらに、それらの体細胞遺伝子は、PGC形成に必要な遺伝子(PGC遺伝子)の発現を直接抑制していることが明らかになりました。これらの結果から、PGC形成に必要な遺伝子の発現を阻害する働きがある体細胞遺伝子の発現を、HDAC3がBLIMP1と協調して発現抑制することにより、PGC形成が保障されていることが明らかになりました。

本研究は、東京農業大学(東京都)、九州大学(福岡市)、東北大学大学院医学系研究科との共同研究で行われました。また本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「エピゲノム研究に基づく診断・治療に向けた新技術の創出」研究開発領域における研究開発課題「世代継承を担うエピゲノム制御の解明」(研究開発代表者:松居靖久)ならびに文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究「配偶子産生制御」の一環で行われました。なお、AMED-CRESTにおける本研究開発領域は、平成27年4月の日本医療研究開発機構の発足に伴い、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)より移管されたものです。

用語説明

*1 胚性幹細胞(ES細胞):
生殖細胞を含む体を構成するすべての細胞に分化できる細胞。
*2 PGC様細胞 (PGC-like cell : PGCLC):
培養下でES細胞に特定のタンパク質を作用させて、人工的に誘導した始原生殖細胞。
*3 ヒストン:
DNAに結合しているタンパク質で、アセチル化やメチル化などにより遺伝子の働きを調節する。
*4 RNA干渉法:
狙った遺伝子と相補的な配列を持つ2本鎖RNAにより、その遺伝子の発現を抑制する手法。
*5 トランスクリプトーム解析:
細胞での遺伝子の発現状態を網羅的に調べる解析手法。

発表論文

Kentaro Mochizuki*, Yohei Hayashi*, Tamotsu Sekinaka*, Kei Otsuka, Yumi Ito-Matsuoka, Hisato Kobayashi, Shinya Oki, Asuka Takehara, Tomohiro Kono, Noriko Osumi and Yasuhisa Matsui (*equally contributed)
Repression of somatic genes by selective recruitment of HDAC3 by BLIMP1 is essential for mouse primordial germ cell fate determination. Cell Reports

問い合わせ先

研究に関すること

東北大学加齢医学研究所
教授 松居 靖久(まつい やすひさ)
電話番号:022-717-8571、022-717-8572
E-mail:yasuhisa.matsui.d3"AT"tohoku.ac.jp

AMEDの事業に関すること

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
基盤研究事業部 研究企画課
Tel:03-6870-2224
Fax:03-6870-2246
E-mail:kenkyuk-ask"AT"amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

最終更新日 平成30年9月5日