研究開発企画課 性差を考慮した研究開発の推進

1997年から2000年の間に健康に有害と判定され、米国市場から撤退した10品目の医薬品のうち8品目で、男性に比べ女性に対する有害事象発生率が有意に高いことが報告されました(US GAO,2001)。医療分野の研究開発において、全ての国民がその成果と恩恵を享受できるようにするため、基礎研究の段階から性差を考慮することや開発プロセスで性差分析を組み込むことの重要性の認識が、近年あらためて高まっています。
AMEDが支援する研究開発においても、性差を考慮した研究開発の推進が期待されており、AMED公募要領(令和7年度~)においては、共通の新規項目として「性差を考慮した研究開発の推進」に関する記載を行っています。本ページでは、性差を考慮した研究開発の実施にあたり参考となる情報をご紹介します。

関連資料

性差を考慮した研究開発に関する政府、省庁、機関の主要政策タイムライン

各国で、性差の考慮した研究開発に資するポリシーやFAプログラムの実装が進んでいる。


日本の政策・取組み

府省庁等 関連文書 概要(抜粋)
内閣府 第5次男女共同参画基本計画(第4分野 科学技術・学術における男女共同参画の推進)(2020年12月25日 ) 2. 男女共同参画と性差の視点を踏まえた研究の促進
(2)具体的な取組
① 体格や身体の構造と機能の違いなど、性差等を考慮した研究・技術開発を実施し、より有効な研究成果を生み出し、その研究成果を社会の向上に役立てる。【内閣府、文部科学省、厚生労働省、関係府省】
内閣府 第6期科学技術・イノベーション基本計画
(2021年3月26日)
(1)多様で卓越した研究を⽣み出す環境の再構築
(b) あるべき姿とその実現に向けた⽅向性
研究のダイバーシティの確保やジェンダード・イノベーション創出に向け、指導的立場も含め女性研究者の更なる活躍を進めるとともに、自然科学系の博士後期課程への女性の進学率が低い状況を打破することで、我が国における潜在的な知の担い手を増やしていく。
内閣府 男女共同参画白書 令和4年版(第4分野 科学技術・学術における男女共同参画の推進)
(2024年12月28日一部変更閣議決定)
2.男女共同参画と性差の視点を踏まえた研究の推進
① 体格や身体の構造と機能の違いなど、性差等を考慮した研究・技術開発の実施が促進されるよう、競争的研究費に関する関係府省申合せを踏ま
えた取組を推進している。【内閣府、こども家庭庁、文部科学省、厚生労働省、関係省庁】
内閣府 女性活躍・男女共同参画の重点方針 2024(女性版骨太の方針 2024)
(2024年6月11日)
Ⅳ 女性活躍・男女共同参画の取組の一層の加速化
女性と男性では、体格や身体の構造・機能の違い、加齢に伴う変化の違いなどの性差があり、表面的には男女に中立的な施策であっても、実際には一方の性の視点のみに立脚しており、もう一方の性には必ずしも適切に当てはまらないものとなっており、効果を十全に発揮できない場合があることについて、近年、新たな知見が蓄積されつつあり、性差の視点を踏まえてイノベーションを創出する「ジェンダード・イノベーション」も広がりを見せている。
内閣府  男女共同参画や人材育成の視点に立った競争的研究費制度の整備に係る共通指針について
(競争的研究費に関する関係府省連絡会申し合わせ)(2023年2月8日)
2.男女共同参画や人材育成等の視点に配慮した主な取組
関係府省及び配分機関は各事業の性格等を考慮し、以下の項目について対応していくこととする。
(1)男女共同参画や性差の視点を踏まえた研究の促進
① 体格や身体の構造と機能の違いなど、性差を考慮しないまま研究開発を実施することで、その成果を社会実装する段階で社会に不適切な影響が及ぶ恐れのある研究開発については、性差を考慮して実施すべき旨を公募要領に記載すること。
内閣府 医療分野研究開発推進計画(2025年2月18日) 3.1 世界最高水準の医療の提供に資する医療分野の研究開発 
(3) 8つの統合プロジェクト  ⑤ データ利活用・ライフコースプロジェクト
・ 生殖・妊娠期から老年期までのライフコース視点や性差に基づく健康課題対策に資する研究開発
(4) 疾患領域に関連した研究開発 (ライフコース)
・ 成育、小児・周産期、女性を中心に、将来世代への影響も考慮した負担の少ない不妊治療、胎児治療及び周産期合併症に対する治療を含む周産期及び小児の医薬品等の開発、こども及び妊産婦のメンタルヘルスの改善に向けた研究開発を推進する。また、性差や女性ホルモン等の影響による健康課題への対策等に資する研究、医療データを活用した女性特有の疾病等の予防及び治療に資するエビデンス創出と新たな介入方法の開発に取り組む。
(5) 全8統合プロジェクトに共通する取組  ⑤ その他の取組事項
・ 成果の社会実装段階で、体格や身体の構造と機能の違いなど性差による不適切な影響が及ぶ恐れが生じないよう、ジェンダード・イノベーションの概念を取り入れ、計画段階から研究開発のプロセスに性差分析を組み込む等の対応を行う。
日本学術会議 見解「性差研究に基づく科学技術・イノベーションの推進」(2022年11月10日) 3.見解等の内容
(1)性差を考慮した研究開発の推進
 科学研究において、人間や生物が関わるあらゆる分野で性差を重要因子と捉えて研究を進めることが必要である。
日本循環器
学会
循環器領域における性差医療に関するガイドライン(2010年) Ⅰ.序文
1.ガイドラインの作成にあたって
現在までのエビデンスをもとに循環器分野における性差をまとめ、提示する背景には、ガイドラインが作成されることにより、この分野における研究が加速されることを狙っている。通常のガイドラインは既に多くの臨床知見と疫学研究が出揃ってきている、またはきつつある段階で、日常診療の標準化を目標としたマニュアル的な要素が強いものであるが、今回のガイドラインは性差医学(Gender-based Biology)の誕生そのものが 1995年と極めて新しい学問分野であるため、今後の循環器分野における基礎・臨床研究への新しい視点を提供するという側面が強い。

海外の取組み

助成機関 ポリシー・ガイドライン等 概要
NIH
(米)
Sex and Gender-NIH 米国国立衛生研究所(NIH; National Institutes of Health)では、SexとGenderに関する様々な規則やガイドラインを整備しており、「sexは、細胞から脊椎動物、人に至るまで、biological variantである」との明確な方針(2016)のもと、基礎研究・臨床研究で、研究デザイン・データ収集・分析、報告において、生物学的変数としての性(Sex)を考慮することを求めている。また、NIH活性化法において、すべての臨床研究の検体もしくは被験者に女性とマイノリティを含むこと、コストを理由にこれらを排除してはならないことを定めている。
 
 
NIH Policy and Guidelines on the Inclusion of Women and Minorities as Subjects in Clinical Research-NIH
How to Apply . Application Guide-NIH
EU・EC
(欧)
Gender equality in research and innovation-EC ・欧州連合(EU; European Union)が2012年にHorizon2020にてSex/Gender分析を求めることを開始した。その後のHorizon Europeでは、さらに強制力を持たせるために、提案書へのSex/Gender分析に係る内容の記載を必須要件とした。
・欧州委員会(EC; European Commission)は ”Gendered Innovation2”で、科学、技術、医学、およびその他の分野での研究や開発において、性別の要因を考慮して 公平かつ包括的な結果を得るための方法やガイドラインを提供している。特に、研究やイノベーションが異なる性別の 利用者や影響を適切に考慮することが求められており、その指針を示している。なお“Gendered Innovation2”はHorizon Europeの中に組み込まれていると記載があることから、EUの研究開発の指針であると言える。
 
Gendered innovations 2
How inclusive analysis contributes to research and innovation : policy review-EU
UKRI-MRC
(英)
Sex in experimental design-MRC-UKRI イギリス医学研究審議会(UKRI-MRC; UK Research and Innovation- Medical Research Council)では、2022年、動物及びヒトの組織と細胞を使用する実験では、両方の性を被験体として用いる方針を、2023年には人間、動物を問わず、全ての研究において、Sex、Gender、年齢、民族、社会・経済的位置を考慮した設計にしなければならならないとの方針を打ち出す。
 
 
MRC policies, guidance and data-UKRI
Guidance for applicants-UKRI
CIHR
(加)
Sex and Gender in Health Research-CIHR カナダ衛生研究所(CIHR; Canadial Institutes of Health Research)は、2021年、研究助成の申請者に対し、研究プロセスにSexとGenderを組み込むことを求める方針を打ち出した。SexとGenderに基づく分析(SGBA)について定義している。
Health Portfolio Sex- and Gender-Based Analysis Plus Policy:  Advancing Equity, Diversity and InclusionCIHR
NHMRC
(豪)
Gender Equity-NHMRC 国立保険医療研究評議会(NHMRC;National Health and Medical Research Council)では、体系だったGender Equity Strategyを策定している。

‘Sex and Gender Equity in Research – SAGER – guidelines’(SAGERガイドライン)

SAGERガイドラインとは

  • 研究デザイン、データ収集・分析および解釈において、性と性別への配慮と報告を実施するための包括的な手順を示している。
  • 著者が原稿を準備する際の指針として設計されている。
  • 2016年に「Sex and Gender Equity in Research: SAGERガイドライン」として公開された。

 -Sex and Gender Equity in Research: rationale for the SAGER guidelines and recommended use
 -SEX AND GENDER EQUITY IN RESEARCH

  • Spring Nature社、Elsevier社などは、ジャーナルの編集方針や審査における手続きなどにおいてSAGERガイドラインへの準拠(セックス/ジェンダー分析実施の義務化)を明示している。
 -Sex and gender in science,How to navigate a challenging area of research to the benefit of all-Nature
 -Research preparation Sex and Gender Equity in Research (SAGER) Guidelines-Elsevier
 -Sex, Gender, and/or Intersectional Analysis Policies of Peer-Reviewed Journals

SAGERフローチャート(編集者による投稿原稿の一次審査の指針



 

SAGERガイドライン

■一般原則
  • 著者は、SEXとジェンダーの用語を混合しないよう、慎重に使うべきである。
  • 研究対象がSEXによって区別ができる場合、たとえそれが当初予期されなかったとしても、研究結果に性差があることを明らかにできるような方法で研究を計画・実施すべきである。
  • 対象者が(社会的・文化的状況によって形成された)ジェンダーによっても区別できる場合は、追加的にジェンダーについても、同様に調査を実施すべきである。

■各セクションごとの推奨事項

タイトル・要約:研究対象が一方のSEXだけの場合、または研究結果が一方のSEXまたはジェンダーにのみ適用される場合、タイトルと要旨には、動物またはそれらに由来する細胞や組織、その他の材料、およびヒト参加者のSEXおよびジェンダーを明記しなければならない。

イントロダクション・導入:著者は、関連する場合には、性差(SEXおよび/またはジェンダー)が期待されるかについて報告すべきである。

手法:著者は、研究デザインにおいてSEX/ジェンダーがどのように考慮されたか、著者が男性および女性の研究参加者の適切な代表性を確保したか、男性または女性の参加者を除外した理由の正当化、または考慮されなかった理由の説明について報告すべきである。

結果:必要な場合、SEX/ジェンダーによって分析されたデータが提示されるべきである。結果に関係なく、SEXおよびジェンダーに基づく分析が報告されるべきである。臨床試験においては、離脱(withdrawals)や脱落(dropouts)に関するデータもSEXごとに報告されるべきである。

考察:研究結果や分析にSEX/ジェンダーが及ぼす潜在的な影響について議論すべきである。SEX/ジェンダー分析を行わなかった場合は、その根拠を示すべきである。著者はさらに、そのような分析の欠如が、結果の解釈に与える影響について議論すべきである。

Shirin Heidari et al. , Research Integrity and Peer(2016)

イベント

日本臨床試験学会第16回学術集会総会スポンサードシンポジウム
「性差を考慮した研究開発の推進~健康・医療分野における研究開発において、性差の視点を組み込む~」

  • 日本臨床試験学会第十六回学術集会総会スポンサードシンポジウム「性差を考慮した研究開発の推進 ~健康・医療分野における研究開発において、性差の視点を組み込む~」を、令和7年3月1日に開催致しました。​
  • スポンサードシンポジウムでの講演資料は、こちらからご覧になれます。

共催研修「性差を考慮した研究開発の推進~健康・医療分野における研究開発において、性差の視点を組み込む~」

  • 共催研修「性差を考慮した研究開発の推進~健康・医療分野における研究開発において、性差の視点を組み込む~」(国立研究開発法人日本医療研究開発機構、一般社団法人日本医学会連合、日本脳科学関連学会連合、生物科学学会連合共催)を、令和7年1月28日に開催しました。
  • 共催研修での講演等の動画は、AMEDのYouTubeチャンネルからご覧になれます。是非、ご覧下さい。

※ここにある「資料」は、動画内にて投影された資料と一部異なります。
​※「資料」について、著作権はすべて各講演者にあり、無断転載を禁じます。引用する場合は、必ず出典を明記するとともに、内容の全部又は一部について、講演者に無断で改変を行わないでください。

内容 登壇者 資料 動画
開催挨拶  三島 良直(AMED 理事長) リンク
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開催挨拶  門脇 孝(一般社団法人日本医学会連合 会長) リンク
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開催趣旨  平川 誠也(AMED 研究開発企画課 課長) ダウンロード リンク
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講演1 ジェンダード・イノベーションとは
~性差/交差性分析がもたらす科学技術の発展~
【演者】
 佐々木 成江(横浜国立大学 客員教授・学長特任補佐/東京大学 特任准教授)

【座長】
 磯 博康(一般社団法人日本医学会連合)
 岡野 栄之(日本脳科学関連学会連合)
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講演2 脳の性差とジェンダードイノベーション 【演者】
 大隅 典子(東北大学 副学長/付属図書館長/教授)

【座長】
 岡野 栄之(日本脳科学関連学会連合)
 塩澤 久美子(AMED 研究開発企画課 主幹)
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講演3 性差を考慮することの重要性:
性差医学・医療の立場から
【演者】
 片井 みゆき (日本性差医学・医療学会 理事長/
        政策研究大学院大学 保健管理センター所長・教授)

【座長】
 北川 雄光(一般社団法人日本医学会連合)
 塩澤 久美子(AMED 研究開発企画課 主幹)
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講演4 性差を考慮した研究開発に
求められるものと今後の課題
【演者】
 本間 さと(日本医学会連合 業務執行理事/
      慶愛会札幌花園病院 睡眠医療センター長)

【座長】
 北川 雄光(一般社団法人日本医学会連合)
 高橋 良輔(日本脳科学関連学会連合)
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講演⑤ 性差に配慮した研究開発の
世界の動向について
【演者】
 小泉 周(自然科学研究機構 特任教授)

【座長】
 高橋 良輔(日本脳科学関連学会連合)
 勝井 恵子(AMED 研究開発企画課 社会共創推進グループ長代理)
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パネル
ディス
カッション
性差を考慮した研究開発を
推進するにあたっての課題、
課題解決に必要なこと
【ファシリテーター】
 大隅 典子(東北大学 副学長/付属図書館長/教授)
 髙橋 雅英(日本医学会連合 副会長/藤田医科大学 国際再生医療センター長)

【ディスカッサント】
 片井 みゆき(日本性差医学・医療学会 理事長/
政策研究大学院大学 保健管理センター所長・教授)
 小泉 周(自然科学研究機構 特任教授)
 佐々木 成江(横浜国立大学 客員教授・学長特任補佐/東京大学 特任准教授)
 鶴見 晴子(AMED 研究開発企画課 調査役)
 本間 さと(日本医学会連合 業務執行理事/慶愛会札幌花園病院 睡眠医療センター長)
リンク
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閉会挨拶  髙橋 雅英(日本医学会連合 副会長/藤田医科大学 国際再生医療センター長) リンク
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お問い合わせ先

宛先 日本医療研究開発機構(AMED)研究開発戦略推進部 研究開発企画課
住所 〒100-0004東京都千代田区大手町1‐7‐1
E-Mail kaihatukikaku"AT"amed.go.jp
備考

※お問い合わせは必ずE-mailでお願い致します。(E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください)

掲載日 令和6年8月2日

最終更新日 令和7年3月25日