プレスリリース iPS細胞由来の移植細胞中に残存する未分化iPS細胞検出法の高感度化に成功

平成31年3月11日プレスリリース

国立医薬品食品衛生研究所
日本医療研究開発機構

国立医薬品食品衛生研究所 再生・細胞医療製品部 河野健室長、佐藤陽治部長らの研究グループは、大阪大学大学院薬学研究科 水口裕之教授及び藤田医科大学医学部 松山晃文教授との共同研究により、選択的に未分化なiPS細胞を濃縮することができるウイルスベクター(ウイルスの感染機構を利用した遺伝子の運搬体)を開発し、これを利用することで、iPS細胞由来の移植細胞中に残存する未分化iPS細胞検出法の高感度化に成功しました。iPS細胞由来移植細胞には残存未分化iPS細胞による腫瘍形成のリスクが存在しますが、本研究で開発したウイルスベクターを利用することで、従来法より約30倍の移植細胞数に対しても残存iPS細胞の否定が可能となりました。本ベクターは、iPS細胞由来移植細胞製品の製造工程管理において、未分化iPS細胞の混在量を評価する様々な試験法に応用可能であり、製品の品質・安全性の確保に資することが期待されます。

本研究成果は、英国科学雑誌“Scientific Reports”に2019年3月6日10時(日本時間3月6日19時)に掲載されました。

1.研究の背景

ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞はさまざまな細胞に分化できる能力を持つため、再生・細胞医療用の細胞原料として期待されています。しかし、多能性幹細胞は未分化のまま免疫不全動物等に移植すると奇形腫を形成する造腫瘍性があるため、ES細胞やiPS細胞を原料に製造される製品は、未分化iPS細胞の混在量を評価する必要があります。世界初のiPS細胞由来移植細胞の臨床研究では、我々が開発した多能性幹細胞特有の遺伝子発現(→用語解説参照)を測定する方法により、iPS細胞由来網膜色素上皮細胞に未分化なiPS細胞が残存していないことを確認しました。我々はこの他にも重度免疫不全マウスを利用した方法など、幾つかの未分化iPS細胞を検出する方法を開発していますが、これらの方法には検出限界の壁(105分の1)が存在しました。網膜や角膜再生など移植する細胞数が少ない製品では、この検出感度で十分ですが、107-109個の細胞が必要となる脊髄損傷や心不全治療では、既存の方法の検出限界を超えた新たな残存ES/iPS細胞の試験法が望まれていました。

2.研究の概要と成果

未分化なES細胞やiPS細胞の中では、外来遺伝子の発現に用いられるCMVプロモーター(→用語解説参照)が機能しないという特徴があります。従って、CMVプロモーター下流に自殺遺伝子を持つベクター(→用語解説参照)を作製すれば、分化した細胞では自殺遺伝子が働き細胞を殺傷しますが、未分化なiPS細胞では働かず、結果として選択的に未分化なiPS細胞を濃縮することができるのではないかと考えました(図1)。


図1 本研究の概要図
1x107個の目的細胞(宝石)中の1個のiPS細胞(爆弾)は検出できないが、選択的細胞傷害性ウイルスベクターによってiPS細胞を選択的に濃縮することで検出可能にする。

本研究ではCMVプロモーター制御下でiCaspase9という薬剤応答性自殺遺伝子を発現するアデノウイルス及びアデノ随伴ウイルスベクターを作製し、選択的細胞傷害性ウイルスベクターとしました。このウイルスベクターは分化細胞のモデルとして用いた心筋細胞を殺傷することができましたが、iPS細胞に対しては殺傷効果がなく、期待通りの選択的な細胞傷害性を有していました(図2)。次にiPS細胞由来心筋細胞を用いて検討したところ、選択的細胞傷害性ウイルスベクターはこれに対しても殺傷効果を示しました。また、生き残った細胞は多能性幹細胞に特徴的な遺伝子の発現が高くなっていました。以上の結果から、開発した選択的細胞傷害性ウイルスベクターはiPS細胞由来移植細胞の残存iPS細胞を選択的に濃縮することで、既存の試験法の検出感度を上げることができる有力なツールになり得ると考えられました。


図2 選択的細胞傷害性ウイルスベクターによるiPS細胞の濃縮
心筋細胞にiPS細胞を混入させた細胞に選択的細胞傷害性ウイルスベクターを感染させた。薬剤添加により自殺遺伝子を活性化することで、選択的にiPS細胞を濃縮した。緑:TRA-1-60、多能性幹細胞(iPS細胞)表面マーカー

3.研究の意義と展望

本手法を利用することにより、少なくとも心筋細胞においては従来法の約30倍の細胞数に対しても残存iPS細胞の否定が可能となりました。現在、iPS細胞由来の神経細胞、心筋細胞、間葉系幹細胞などが臨床利用されようとしていますが、本手法はこのような移植細胞数が多い製品の未分化iPS細胞の混在量の評価に有用であると考えられます。今後は、ウイルスベクターの感染力の上昇や感染による非特異的な細胞毒性の軽減等の改良を行うことによりiPS細胞濃縮能の向上を目指し、より多くの移植細胞に対しても残存iPS細胞の混在量を評価できるよう研究を進めていきます。

4.特記事項

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の医薬品等規制調和・評価研究事業における研究課題「再生医療等製品の原料等となる細胞等の品質及び安全性の評価に関する研究」(研究代表者:佐藤陽治 国立医薬品食品衛生研究所 再生・細胞医療製品部長)の一環として行われました。

用語解説

遺伝子発現
DNAに書き込まれた遺伝情報がRNAへ転写されること。
プロモーター
遺伝子(DNA)の上流にあり、RNA合成を触媒する酵素が結合し、DNAからRNAへの転写が開始されるDNA上の領域。CMVプロモーターはサイトメガロウイルス(CMV)由来のプロモーターで、遺伝子治療などで用いられる外来遺伝子の発現に広く用いられている。
ベクター
外来遺伝子を細胞に導入するときに使われる運搬体。ウイルスベクターは、ウイルスが持つ病原性に関する遺伝子を取り除き、目的遺伝子を組み込んだベクターのことで、ウイルスの感染機構を利用して目的遺伝子を細胞に導入する。アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、センダイウイルスなどが応用されている。

論文情報

タイトル(訳):
Development of selective cytotoxic viral vectors for concentration of undifferentiated cells in cardiomyocytes derived from human induced pluripotent stem cells
(選択的細胞傷害性ウイルスベクターを利用した未分化iPS細胞の高感度検出法の開発)
著者:
河野 健、澤田 留美、黒田 拓也、安田 智、松山 さと子、松山 晃文、水口 裕之、佐藤 陽治
雑誌名:
Scientific Reports

お問い合わせ先

本研究成果に関するお問い合わせ先

国立医薬品食品衛生研究所
再生・細胞医療製品部
部長 佐藤 陽治
Tel:044-270-6525
E-mail:yoji"AT"nihs.go.jp

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創薬戦略部
医薬品等規制科学課
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E-mail:kiseikagaku"AT"amed.go.jp

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最終更新日 平成31年3月11日