プレスリリース がん医療推進のための日本人がん患者由来PDXライブラリー整備を達成

令和2年10月20日プレスリリース

株式会社LSIメディエンス
国立研究開発法人国立がん研究センター
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

株式会社LSIメディエンス(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:渡部晴夫、本環境整備の代表機関、以下「LSIメディエンス」)、国立研究開発法人国立がん研究センター(所在地:東京都中央区、理事長:中釜斉、本環境整備の分担機関、以下「国立がん研究センター」)及び国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(所在地:大阪府茨木市、理事長:米田悦啓、本環境整備の分担機関、以下「医薬基盤・健康・栄養研究所」)は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構と2018年3月に委託環境整備契約を締結した医療研究開発革新基盤創成事業の環境整備課題「がん医療推進のための日本人がん患者由来PDXライブラリー整備事業」において、環境整備実施計画を上回る規模のPDXライブラリーを構築し、がん医療・医薬品開発に活用するための基盤整備を達成しました。

環境整備課題の実施内容

抗がん剤の開発は極めて難しく、臨床試験の開始から上市に至る成功率はわずか5%程度であると報告されています。その一因として、現在主流であるがん細胞株を使用した非臨床試験の臨床予測性が低いことが指摘されています。一方、PDX(Patient-Derived Xenograft)1)は、ヒトのがん組織を免疫不全マウスに移植した組織片で、非臨床試験の臨床予測性を高める画期的な創薬ツールとして注目され、欧米ではPDXライブラリーの産業利用が進んでいます。しかしながら、我が国では産業利用可能なPDXライブラリーが整備されておらず、国内製薬企業は欧米のPDXライブラリーに頼らざるを得ない状況にあります。我が国の創薬の成功確率を向上させ、画期的な新薬をスピーディーに創出するためには、国内で高い信頼性のもとに樹立され、厳しく品質管理されたPDX株が利用できる環境整備が求められています。

LSIメディエンス、国立がん研究センター及び医薬基盤・健康・栄養研究所は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)及び日本製薬工業協会及び患者団体の意見を踏まえて、日本人がん患者由来のPDXライブラリー(J-PDXライブラリー)を構築し、医薬品開発及びがん医療を推進するための基盤を整備しました。

得られた成果及びその意義

国立がん研究センターは、生命倫理・医事法の専門家が参画して患者同意取得からPDX作製に至る体制・規則を環境整備期間内で整備し、研究計画のIRB(Institutional Review Board)2)承認を得て産業利用が可能なJ-PDXライブラリーの作製を2018年8月より開始しました。本環境整備の終了時点(2020年5月末)で1,100名を超える患者同意を取得し、目標とした150株を大きく上回る300株を超える新規PDXの生着が達成されました(図1)。登録されたがん種は、大腸がん、肺がん、乳がんなどメジャーながんの他、肉腫など希少ながんも含め20種以上に及びます(図2)。

図1 国立がん研究センターにおけるJ-PDXライブラリーの登録推移
図2 登録がん種内訳

国立がん研究センター研究所で生着を確認したPDX(第1世代、TG1)はLSIメディエンスに送付され、GLP(Good Laboratory Practice)3)管理下にて信頼性保証試験に対応可能なJ-PDXとして品質管理・維持をされています(図3)。

図3 J-PDXライブラリー作製・創薬研究への応用

また、J-PDXの特徴は、①臓器横断的にPDXを樹立し、特に、希少がん(骨肉腫・横紋筋肉腫など)、アジアに多いがんに注力、②手術だけでなく薬剤耐性期の検体からもPDXを樹立、③治療歴を含む詳細な臨床情報を付帯したPDXであることが挙げられます。本環境整備で整備されたJ-PDXライブラリーを利用し、肺がん、大腸がん、乳がんなどのメジャーながんに加えて、治療選択肢が少ない希少がん、難治がん、小児がんにおける医薬品開発が促進されることが期待されます。

医薬基盤・健康・栄養研究所は、PDXの作製が困難ながん種に着目した基礎研究を実施し、独自開発した重度免疫不全マウス(Super-SCID)が市販の重度免疫不全マウスよりも乳がん、甲状腺がん等のPDX作製率向上に有用との結果を得ました。医薬基盤・健康・栄養研究所が本基礎研究で作製したPDX約20株はLSIメディエンス熊本研究所のPDXライブラリーに保存しました。また、現有のPDXライブラリー250株を公開し、PDXの創薬利用に係る運営規定を整備しました。

LSIメディエンスは、本環境整備の出口戦略として薬事承認基準に準拠したJ-PDXライブラリー事業(創薬支援事業)の整備を達成しました。具体的には、LSIメディエンス熊本研究所GLP施設において国立がん研究センター研究所からJ-PDX生着株を受け入れてライブラリーを整備し、PDXの解析及び医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「薬機法」)に準拠した高品質の薬理試験を製薬企業に提供するための専用施設・設備機器・専門要員を計画どおり整備しました。PDX事業に使用できるPDX株を拡充するための施策として、医薬基盤・健康・栄養研究所及び公益財団法人実験動物中央研究所(Central Institute for Experimental Animals、以下「CIEA」)が保有するPDXライブラリー(CIEA-PDX)の取り扱いを可能とし、約350株のJ-PDXライブラリーと合わせて約1,000株の日本人PDXライブラリーの創薬利用を達成しました。

本環境整備の成果として、PDXの産業利用の隘路であった倫理的・法的・社会的課題(ELSI:Ethical、Legal、Social Implications)が解決され、国内最大のがん研究所と2つの臨床研究中核病院(中央病院・東病院)を擁する国立がん研究センターとの密接な連携の下で、抗がん剤治療抵抗性、希少がん等の特長を有するJ-PDXライブラリーが整備され、LSIメディエンス熊本研究所においてPDXを使用した創薬支援の基盤が整備された意義は大きく、日本発の医薬品開発及びがんゲノム医療(精密医療)への貢献が期待されます(図4)。

図4 LSIメディエンス社が提供するPDXライブラリーを用いた試験サービス

今後の展開

本事業の成果を継続的に発展させてサステナブルな創薬支援事業として成長させるために、LSIメディエンスと国立がん研究センターは連携を継続し、J-PDXライブラリーの拡充とPDX株の付帯情報を整備してがん医療・創薬に貢献して参ります。

用語解説

1)PDX(Patient-Derived Xenograft)
患者由来の組織を免疫不全動物に移植した移植片。
2)IRB(Institutional Review Board)
ヒトを対象とする臨床試験(治験)及び研究の実施前に、計画の科学的・倫理的妥当性及び被験者の安全と権利の保護について審査する機関内審査委員会。
3)GLP(Good Laboratory Practice)
薬機法に基づいたGLP省令で定められている優良試験所規範(基準)。

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最終更新日 令和2年10月20日