成果情報 抗がん剤の機能を高める新しいドラッグデザイン―化学反応で標的タンパク質を高選択的に機能阻害―

平成31年2月6日成果情報

国立大学法人九州大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

九州大学薬学研究院の王子田彰夫教授、進藤直哉助教、小野眞弓教授、大戸茂弘教授、長崎国際大学薬学部の山口泰史教授、名古屋大学名トランスフォーマティブ生命分子研究所の桑田啓子助教、京都大学大学院工学研究科の浜地格教授らの研究グループは、化学反応でタンパク質の機能を阻害するコバレントドラッグ(共有結合阻害剤)の新しい分子デザインを見出し、これを応用して強い薬効と高い安全性を併せ持つ抗がん剤が開発できることを発見しました。

本研究の成果は、2019年1月14日午後4時(英国時間)に英国科学雑誌「Nature Chemical Biology」で公開されました。

研究の背景

低分子の薬剤は一般に、病気を引き起こす原因となるタンパク質の機能を阻害することで、その効き目を発揮します。化学反応によってタンパク質と結びつき、その機能を不可逆的に阻害するコバレントドラッグは、開発例は少ないものの、強力で持続する薬効を示すことから、近年、抗がん剤開発において大きな注目を集めています。その一方でコバレントドラッグは、標的以外のタンパク質と非特異的に反応することで副作用を起こす可能性が懸念されてきました。しかし近年では非特異的反応性を抑えた、より安全性の高いコバレントドラッグとしてTCI(targeted covalent inhibitor)の開発がさかんになってきており、複数の抗がん剤が開発され実際にがん治療に用いられています。これらのTCIは標的タンパク質に対する反応基としてマイケルアクセプター(α, β-不飽和カルボニル基)を有していますが、この反応基は薬剤分子の構造に依存して非特異反応を起こすことが明らかとなっています。このため、より安全性の高いTCI開発を開発するためには、非特異反応を起こしにくい新しい反応基の開発が重要です。


図1 コバレントドラッグの概要

研究の概要

本研究では、非特異反応によるコバレントドラッグ(TCI)の副作用を軽減できる新しい反応基としてCFA基(α-chlorofuluoroacetamide基)反応基を見出し、これを抗がん剤の開発に応用しました。CFA基を持つ抗がん剤は、既存のマイケルアクセプター型のコバレントドラッグよりも高選択的に標的タンパク質であるEGFR(上皮成長因子受容体)BTK(ブルートン型チロシンキナーゼ)と反応して、その機能を特異的に阻害します。また、開発したCFA型の薬剤NS-062は、マウスを用いた投与試験で肺がん治療薬であるアファチニブと同程度の強い薬効を発揮する一方で、より低い毒性を示しました。その他にも本研究グループは、CFA反応基が広い濃度範囲(0.1~10 μM)にわたって標的タンパク質に対する高い反応特異性を維持できること、非特異反応が可逆的であることなど、従来のマイケルアクセプターとは異なる優れた特性を持つことを見出しました。

図2 CFA基を有するプローブの生細胞でのタンパク質ラベル化特異性の評価。CFA型プローブは、広い濃度範囲(0.1~10 μM)において標的となるEGFR(150 kDa付近)と特異的に反応する。


図3 CFA型阻害剤NS-062とEGFRキナーゼドメイン複合体のX線結晶解析


図4 NS-062を腫瘍マウスに経口投与した際の腫瘍体積ならびにマウス体重変化

今後の展開

本研究により開発されたCFA反応基を用いるコバレントドラッグデザインは、今後、様々なタンパク質を標的とするTCI型のがん治療薬の開発に応用することが期待できます。また、がんのみでなく様々な疾患を治療できる新しいタイプのTCIの創出に応用することが期待できます。

本研究の成果は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)「グリーンファルマを基盤にした創薬オープンイノベーションの推進(研究代表者:大戸茂弘)」、日本学術振興会科研費新学術領域研究「分子夾雑の生命化学(領域代表者:浜地格)」(課題番号JP17H06349)などの支援を受けて実施されました。

掲載論文

雑誌名:
Nature Chemical Biology
論文名:
Selective and reversible modification of kinase cysteines with chlorofluoroacetamides
著者名:
Naoya Shindo, Hirokazu Fuchida, Mami Sato, Kosuke Watari, Tomohiro Shibata, Keiko Kuwata, Chizuru Miura, Kei Okamoto, Yuji Hatsuyama, Keisuke Tokunag1, Seiichi Sakamoto, Satoshi Morimoto, Yoshito Abe, Mitsunori Shiroishi, Jose M. M. Caaveiro, Tadashi Ueda, Tomonori Tamura, Naoya Matsunaga, Takaharu Nakao, Satoru Koyanagi, Shigehiro Ohdo, Yasuchika Yamaguchi, Itaru Hamachi, Mayumi Ono, Akio Ojida* (* 責任著者)
掲載日時:
2019年1月14日午後4時(英国時間)
DOI:
10.1038/s41589-018-0204-3

AMED事業

事業名:
創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(2017~2021年度(予定))
課題名:
グリーンファルマを基盤にした創薬オープンイノベーションの推進
代表機関:
九州大学

お問い合わせ

研究内容

九州大学薬学研究院 教授 王子田 彰夫
TEL:092-642-6596 FAX:092-642-6601
E-mail:ojida"AT"phar.kyushu-u.ac.jp

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最終更新日 平成31年2月6日