プレスリリース 「新たな研究手法開発によりがん抑制microRNA-34aの標的遺伝子を同定」―microRNA-34aによる乳がん抑制機能に重要な標的遺伝子を同定―

プレスリリース

国立大学法人東京医科歯科大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

ポイント

  • がんなどの疾患に関わるmicroRNAの新たな標的遺伝子の同定法を開発しました。
  • 本手法により、がん抑制microRNA-34aの標的遺伝子として、乳がん増悪化に関わるGFRA3を同定しました。

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科システム発生・再生医学分野の淺原弘嗣教授、伊藤義晃プロジェクト助教の研究グループは、国立成育医療研究センター、名古屋市立大学、インペリアル・カレッジ・ロンドン、カリフォルニア工科大学およびベックマン研究所との共同研究で、がんなど様々な疾患において重要な働きを担うmicroRNAの標的遺伝子を同定する新たな方法を開発し、がん抑制microRNA-34aの新たな標的遺伝子として、乳がんの増悪化に関わるGFRA3を同定しました。この研究は文部科学省科学研究費補助金、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「炎症の慢性化機構の解明と制御に向けた基盤技術の創出」研究開発領域(研究開発総括:宮坂昌之)における研究開発課題「RNA階層における炎症の時間軸制御機構の解明」(研究開発代表者:淺原弘嗣)ならびに米国国立衛生研究所(NIH,NIAMS)の支援のもとで行われました。なお、AMED-CRESTの研究開発領域は、平成27年4月の日本医療研究開発機構の発足に伴い、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)より移管されたものです。この研究成果は、国際科学誌Proceedings of the National Academy of Sciences USA(米国科学アカデミー紀要)に、2017年3月27日(米国時間)の週に発表されます(文献)。

研究の背景

microRNAは、標的となるmRNAの主に3’UTRに結合してその遺伝子を抑制する働きを持つ、タンパク質をコードしない小さなRNAで、がんを始めとした様々な疾患において重要な役割を持つことが知られています。microRNAの機能を明らかにする上でその標的遺伝子を同定することはもっとも重要と言えますが、従来の標的遺伝子探索方法では不十分な点がいくつかありました。通常、マイクロアレイやRNA-sequenceなど、mRNAの発現変化を網羅的に解析するトランスクリプトーム解析と、miRNAの配列情報からターゲットを予測するTargetScanなどの予測ツールを用いた解析を組み合わせてスクリーニングする方法が最も一般的ですが、miRNAはmRNAの不安定化だけでなく、翻訳抑制を介して標的遺伝子を抑制するため、タンパク質レベルではなくmRNAレベルでの発現変化を観察するトランスクリプトーム解析では、翻訳抑制される標的遺伝子を同定するには十分ではありません。またTargetScanなどの予測ツールは、ターゲットとなるmRNAの3’UTRのみの情報で予測する場合が多く、近年、コーディング領域や5’UTRを介したmiRNAの制御についても報告されてきていますが、そのような標的遺伝子を同定することができません。本研究では、5’UTR、コーディング領域、3’UTRを含む全長遺伝子配列をレポーターとして用いて、タンパク質レベルでの発現変化を測定できるルシフェラーゼアッセイをベースにした、短期間でかつ効率的にmicroRNAの標的遺伝子を同定する手法を開発しました。この手法を用いて、がんを抑制する機能を持っていることが分かっているものの、その詳細な機能は未知の部分が多かったmicroRNA-34a(miR-34a)の標的遺伝子の同定を試みました。

研究成果の概要

研究グループは、microRNAの標的遺伝子を同定する新しい手法(レポーターライブラリーシステム)を開発しました。本手法は、ホタルの発光を媒介する酵素遺伝子(ルシフェラーゼ)を用いたシステムで、約5000の全長遺伝子配列をルシフェラーゼ遺伝子の後ろ側にある3’非翻訳領域(3’UTR)に挿入した遺伝子ライブラリー(レポーターライブラリー)を作製し、標的遺伝子の配列を含んだルシフェラーゼ遺伝子では、microRNAによりルシフェラーゼ遺伝子が機能しなくなり、発光ができなくなるという現象を利用しました(図1)。
説明図・1枚目(説明は図の下に記載)【図1】レポーターライブラリーシステム

ルシフェラーゼ遺伝子の3’UTRに約5000遺伝子の全長cDNAが含まれるレポーターライブラリーとmicroRNAを細胞内に導入し、ルシフェラーゼ活性の低下の有無によりmicroRNAの標的遺伝子であるかを判定するシステムを開発した。

本手法を用いてがん抑制microRNAであるmiR-34aの標的遺伝子の探索を行いました。その結果、既に報告されている標的遺伝子に加え、新規な標的遺伝子として、GFRA3、FAM76A、REM2およびCARKLを同定しました(図2)。また、microRNAは主に標的遺伝子の3’UTRを介して制御すると言われていますが、GFRA3はタンパク質をコードしているコーディング領域(CDS)を介して直接制御されていることが明らかになりました(図3)。

説明図・2枚目【図2】レポーターライブラリーシステムによるmiR-34a標的遺伝子の同定
レポーターライブラリーシステムを用いてがん抑制microRNAであるmiR-34aの標的遺伝子のスクリーニングを行い、新規標的遺伝子の同定に成功した。
説明図・3枚目【図3】GFRA3は3’UTRを介して制御される

新たにmiR-34aの標的遺伝子として同定したGFRA3は、コーディング領域に標的配列があり、通常のGFRA3 (wt)ではmiR-34aによりその発現は抑制されるが(赤い四角で囲った部分)、その標的配列に変異を導入したGFRA3では (mut)、miR-34aによる抑制が見られない(青い四角で囲った部分)。

このGFRA3をMDA-MB-231という乳がん細胞においてノックダウンすると、MDA-MB-231細胞の増殖が抑制されました。またGFRA3の発現が高い乳がんを持つ患者は、GFRA3の発現が低い乳がんを持つ患者に比べて生存率が低いことが分かりました(図4)。これらの結果から、GFRA3は乳がん増悪化に関わる重要な遺伝子であることが明らかになりました。

説明図・4枚目(説明は図の下に記載)【図4】GFRA3は乳がんの増悪化因子である
(A)GFRA3の発現を抑制した乳がん細胞(MDA-MB-231)では、miR-34aを強制的に導入した細胞と同様に乳がん細胞の増殖が抑制され、がん細胞塊(コロニー)が減少する。(B)GFRA3の発現量が高い乳がん患者は、発現量が低い乳がん患者と比べて有意に生存率が減少する。

研究成果の意義

本研究において作製したレポーターライブラリーシステムにより、がん抑制microRNAであるmiR-34aの標的遺伝子を探索した結果、新しい標的遺伝子の同定に成功しました。同定した新たなmiR-34aの標的遺伝子の中で、GFRA3は乳がんの増悪化に関わる遺伝子であり、miR-34aの乳がん抑制機能において重要な標的遺伝子であることが分かりました。miRNAはがんだけでなく、様々な疾患に関与していることが明らかになりつつありますが、本手法を用いたmiRNAの標的遺伝子の同定により、がんやその他の疾患の病態解明に寄与することが期待されます。

文献

Ito, Y., et al., Identification of targets of tumor suppressor microRNA-34a using a reporter library system. Proc Natl Acad Sci U S A, 2017. xx(x): p - .

図2から4は文献より引用、一部改変。

お問い合わせ先

研究に関すること

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
システム発生・再生医学分野
淺原 弘嗣(アサハラ ヒロシ)
伊藤 義晃(イトウ ヨシアキ)
TEL:03-5803- 5015 FAX:03-5803- 5810
E-mail:asahara.syst“AT”tmd.ac.jp

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E-mail:kenkyuk-ask“AT”amed.go.jp

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掲載日 平成29年3月28日

最終更新日 平成29年3月28日