プレスリリース ぜんそくの重症化に有効な治療法の鍵を発見―重症アレルギー疾患を引き起こす組織線維化のメカニズムを解明―

平成30年6月27日プレスリリース

国立大学法人千葉大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

ポイント

  • 重症のぜんそくで起こる組織の線維化は、息切れ・呼吸困難を引き起こし、患者さんのQOLを著しく低下させるが、線維化が起こる分子メカニズムは不明であった。
  • われわれは、組織線維化を起こす「線維化誘導―病原性記憶T細胞」を新たに発見した。「線維化誘導―病原性記憶T細胞」が分泌する生理活性タンパク質のAmphiregulin(アンフィレグリン)は、白血球の一種でぜんそく発症に深く関わる好酸球を刺激する。刺激をうけた好酸球が、線維化の原因タンパク質、Osteopontin(オステオポンチン) を分泌し、直接組織の線維化を引き起こす。
  •  「線維化誘導―病原性記憶T細胞」から分泌されるアンフィレグリンを介した好酸球からのオステオポンチン産生は、新たな組織線維化の誘導メカニズムで、難治性アレルギー疾患の有効な治療の標的になることが期待される。

概要

日本医療研究開発機構(AMED)免疫アレルギー疾患等実用化研究事業「病原性Th2細胞制御による難治性アレルギー性気道炎症の治療法開発」「好酸球性アレルギー炎症において組織線維化を引き起こす線維化誘導―病原性ヘルパーT細胞を標的とした新規線維化治療法開発」、革新的先端研究開発支援事業(PRIME)「線維化誘導―病原性ヘルパーT細胞によるイムノエイジング病態形成機構の解析と病態制御」、同(AMED-CREST)「気道炎症の慢性化機構の解明と病態制御治療戦略の基盤構築」において、千葉大学大学院医学研究院の森本侑樹特任助教、平原潔准教授、中山俊憲 教授らのグループは、同大学医学研究院の耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍学岡本美孝教授のグループと共同で、重症アレルギー疾患における組織線維化を誘導する新たな細胞集団を同定し、組織線維化の新規メカニズムを明らかにしました。

ぜんそくなどのアレルギー疾患の治療には、現在吸入ステロイド(注1)による対症療法が一般的ですが、一度起きてしまった組織の線維化にはステロイドは無効であり新たな治療法が求められています。

本研究グループは、Amphiregulin(注2)というタンパク質を特異的に産生する病原性記憶T細胞(注3)を同定しました。病原性記憶T細胞がつくるAmphiregulinは、上皮成長因子(EGF)受容体を介して好酸球(注4)に作用し、炎症性好酸球を誘導することを発見しました。炎症性好酸球が、細胞外基質であるOsteopontin(注5)を多量に産生し組織の線維化を直接誘導することを見出しました(図1)。線維化を引き起こしたマウスへEGF受容体阻害薬(注6)を投与したところ、組織の線維化が改善することがわかりました。近年日本で増加しており、国の難病指定を受けている難治性炎症疾患の、好酸球性慢性副鼻腔炎(ECRS)(注7)患者の鼻ポリープ中にAmphiregulin産生病原性記憶T細胞およびOsteopontin産生好酸球が多数確認され、同記憶型病原性T細胞がヒト好酸球性疾患の線維化を誘導する可能性があることが示されました。以上のことから、Amphiregulin-Osteopontin経路は重症アレルギー疾患の組織線維化において画期的な治療薬のターゲットになると期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Immunity」オンライン版に、2018年6月26日午前11時(米国東部時間)掲載されます。

研究の背景と経緯

重症アレルギー疾患である気管支ぜんそくでは、長期間にわたる気道炎症によって、気道周囲の線維化が誘導されます。気道周囲の線維化によって、ぜんそく患者さんの呼吸機能は著しく低下し、場合によっては24時間の酸素吸入(在宅酸素療法)が必要になるなど、患者さんの生活の質(QOL)は著しく低下します。

社会の超高齢化に伴い慢性気道炎症の患者数は増加の一途をたどっていますが、既存の治療法であるステロイド治療は、慢性炎症時の組織線維化に対して効果が乏しく、根治的治療法の開発が望まれています。

これまでの研究から、ぜんそくなどの慢性化・重症化に、ハウスダストや花粉などの原因物質(アレルゲン)(注8)に反応し、免疫記憶(注9)能をもつ病原性T細胞が深く関わっていることがわかってきました。なかでも、気管支ぜんそくや食物アレルギーなど様々な慢性アレルギー性疾患において、好酸球を誘導するサイトカイン(注10)であるIL-5を多量に産生する病原性記憶T細胞が多く存在することが我々の研究室や海外の研究者から報告されており、IL-5産生-病原性記憶T細胞が好酸球浸潤を伴うアレルギー疾患の発症に関与していることがわかってきました。

一方、慢性炎症や老化の過程で起こる組織の線維化については、①様々な細胞が複雑に関与している、②解析に非常に長い時間がかかる、などの理由から研究は進んでおらず、長年詳細なメカニズムは不明のままでした。

本研究グループは、気管支ぜんそくの重症化に深く関わっている気道周囲の線維化がどのように起こるのか、その分子メカニズムを明らかにすることを目的に研究を行いました。

図1 Amphiregulin-Osteopontin経路を介した気道周囲の線維化誘導機構
図1 Amphiregulin-Osteopontin経路を介した気道周囲の線維化誘導機構

研究の内容

本研究グループは、気道周囲の線維化を解析する目的で、ヒトにおいて慢性気道炎症の原因として重要なアレルゲンであるハウスダストを用いて、線維化を伴った慢性気道アレルギー性炎症のマウスモデルを確立しました。このマウスモデルで起こる気道周囲の線維化は、炎症時に気道上皮から放出されるサイトカインであるIL-33からの刺激を受けたST2 (注11)陽性記憶T細胞(注12)に依存して起こりました。そこで、IL-33の刺激を加えた記憶T細胞を詳しく調べたところ、Amphiregulinという組織を修復する作用があるタンパク質の発現および分泌が著しく上昇していました。遺伝子改変技術を用いて、記憶型T細胞由来のAmphiregulinを無くした状態で、アレルゲンを投与すると肺に誘導される組織線維化が著明に減弱しました。記憶型T細胞由来のAmphiregulinを無くした状態では、炎症肺のAmphiregulin発現量は著減することから記憶型T細胞が、Amphiregulinの主要な産生細胞であることがわかりました。以上のことから、Amphiregulinを産生する記憶型T細胞が組織線維化の原因であることがわかりました。われわれは、この細胞集団を「線維化誘導-病原性記憶T細胞」と名付けました。

「線維化誘導-病原性記憶T細胞」からつくられるAmphiregulinはどのように気道周囲の線維化を誘導するのでしょうか?われわれは、線維化を起こした肺に浸潤する好酸球が、Amphiregulinの刺激を受けるために必要なEGF(上皮成長因子)受容体を発現することを見出しました。実際、Amphiregulin刺激を好酸球に加えると好酸球の性質が炎症性のものに変化し、Osteopontinという細胞外マトリックス(注13)を産生しました。抗原を投与した肺に浸潤した好酸球は、多量のOsteopontinを産生していました(図2)。

図2 気道周囲に線維化を誘導したマウス肺の免疫組染色解析
図2 気道周囲に線維化を誘導したマウス肺の免疫組染色解析

EGF受容体の阻害薬をマウスに投与すると、好酸球からのOsteopontinの産生が抑制される(図3)と同時に、気道周囲の線維化が抑制されました。最後に、マウスでわれわれが新しく同定した気道周囲の線維化の機構が、ヒトの線維化病態でどう働いているかを調べました。好酸球性副鼻腔炎は、副鼻腔内に著明な好酸球浸潤をともなった再発性のポリープが形成される難治性の慢性副鼻腔炎であり、難病指定されています。好酸球性副鼻腔炎の発症は、50~60歳代にピークがあります。われわれは、好酸球性副鼻腔炎のポリープでは、著明な線維化が誘導されていることを見出しました(図4)。

図3 気道周囲に線維化を誘導したマウスへEGF受容体阻害薬を投与した際の肺免疫組織染色解析
図3 気道周囲に線維化を誘導したマウスへEGF受容体阻害薬を投与した際の肺免疫組織染色解析

図4 好酸球性副鼻腔炎患者由来のポリープの免疫組織染色解析
図4 好酸球性副鼻腔炎患者由来の ポリープの免疫組織染色解析

さらに、細胞表面分子CD161およびCRTH2を高発現するCD161hiCRTH2hiの記憶型CD4 T細胞が、ヒト生体内で特異的にAmphiregulinを産生することを同定しました。また、好酸球性副鼻腔炎患者の鼻ポリープ中に浸潤している好酸球が、同一患者の末梢血中の好酸球と比較して、線維化を誘導する細胞外基質であるOsteopontinを高発現することを明らかにしました。以上の結果から、マウスにおいて同定した線維化誘導分子回路(Amphiregulin-EGFR-Osteopontin)が、ヒトの線維化病態形成においても重要な役割を果たしていることが示唆されました。

今後の展開

本研究結果から、Amphiregulinを産生する線維化誘導-病原性記憶T細胞が、好酸球に直接働くことで、好酸球から線維化を誘導するOsteopontinが産生され、アレルギー性気道炎症における組織線維化が引き起こされることが明らかになりました。我々が世界に先駆けて同定した”IL-5を高産生する病原性記憶T細胞”と今回新たに同定した”線維化誘導-病原性記憶T細胞”が、局所の炎症部位で協調して作用することによって、慢性好酸球性気道炎症の難治化が引き起こされていると考えられます(図1)。

組織の線維化は、慢性の炎症だけでなく、生体の老化に伴って、全身の様々な臓器で誘導され臓器不全の原因となります。現在の高齢化社会では、疾病構造が大きく変化し、組織の線維化によって「臓器の構造・機能変性を伴う疾患群」が死因の上位を占めています。しかし、肺線維症をはじめとするこれらの疾患群は根治的治療法がなく、医療現場ではアンメット・メディカルニーズが数多く存在します。そのため組織線維化の制御は、超高齢化社会において非常に重要な課題の一つです。今後は、線維化誘導-病原性記憶T細胞の分子生物学的な特徴をさらに詳細に解析することによって、アレルギー性炎症のみならず様々な原因で引き起こされる組織線維化の病態形成機構を解析していきます。さらに、今回の研究結果から、好酸球に発現するEGF受容体の働きを抑制することで、Amphiregulin-Osteopontin経路によって引き起こされる組織線維化が抑制されることが明らかになりました。この結果は、これまで根治的な治療方法のなかった難治性の呼吸器疾患に対する新たな治療法となる可能性があります。EGF受容体阻害薬は、既に肺がんの治療薬として一般に広く使用されており、ドラッグ・リポジショニングの可能性を検討します。肺線維化をはじめとする様々な難治性疾患に日々苦しむ患者さん、および現場で診療に携わる医療関係者へ有効な治療方法を届けるため、今後もさらなる研究開発を一生懸命行ってまいります。

論文タイトル

“Amphiregulin-producing pathogenic memory T helper-2 cells instruct eosinophils to secrete Osteopontin and facilitate airway fibrosis”
(Amphiregulinを産生する病原性記憶Th2細胞は、好酸球からのOsteopontin産生を誘導し、気道の線維化を促進する)

用語解説

注1)吸入ステロイド
ステロイドは、ヒトの副腎で作られる副腎皮質ホルモンで、体内の炎症反応を抑える働きをもつ。アレルギーや自己免疫疾患の治療薬でしばしば使用される。しかし、特に全身投与時には、糖尿病、骨粗鬆症、高血圧など副作用も多い。ぜんそくの治療には、吸入ステロイドが広く用いられる。
注2)Amphiregulin(アンフィレグリン)
上皮成長因子ファミリーに属するタンパク質の一種。これまで、アンフィレグリンが組織の修復に関わることが報告されてきた。
注3)T細胞
生体の免疫システムで司令塔の役割を果たす細胞である。個々のT細胞は生体内に侵入してくる細菌やウイルスを認識する決まった受容体を持ち、本来は病原菌をはじめとする異物を排除する働きをする。しかし、なんらかの原因により、食べ物や花粉を認識するようなT細胞が現れてしまうと、病原性T細胞と呼ばれる細胞集団となり、アレルギー反応など様々な病気を引き起こす原因となる。
注4)好酸球
白血球の一種で、寄生虫感染症から生体を守る役割を担っている。一方、ぜんそくをはじめとするアレルギー性疾患で炎症を誘導する原因ともなっている。
注5)Osteopontin(オステオポンチン)
オステオポンチンは、細胞外マトリックスを形成するタンパク質の一種。生体内の様々な細胞がオステオポンチンを作ることが知られている。近年では、老化との関連が注目され、研究が進められている。
注6)EGF受容体阻害薬
上皮成長因子受容体(EGF受容体)のチロシンキナーゼの活性を選択的に阻害する薬剤。この薬剤が働くことで、EGF受容体からの情報伝達が阻害される。現在、非小細胞肺がんなどの治療薬として広く用いられている。
注7)好酸球性慢性副鼻腔炎(ECRS)
ECRSは両側の鼻の中に鼻ポリープ(水ぶくれの様な袋)がいくつもできて鼻の中を充満してしまう疾患であり、近年患者数は増加傾向にある。好酸球という細胞が鼻の粘膜に多数集まるため、好酸球性副鼻腔炎と名前が付いている。この副鼻腔炎は手術をしても再発しやすく、ステロイドの長期服用に頼らざるを得ないのが現状である。ECRS患者さんの多くは、気管支ぜんそくを合併しており、難治性の重症アレルギー疾患の一つであり、国の難病指定がされている。
注8)アレルゲン
生体において、アレルギー反応を引き起こしてしまう物質をアレルゲンと呼ぶ。花粉、ハウスダスト、ダニなどの他に、蕎麦や蜂毒などが知られている。
注9)免疫記憶
一度免疫反応を起こした抗原を長期間記憶し、二回目の抗原が侵入する際には、迅速かつ強力な免疫反応を誘導することが出来る機能のことである。予防接種は免疫が持つこの機能を利用したもの。T細胞等の獲得免疫細胞といわれる集団が担当する、最も特徴的な機能のひとつとされる。
注10)サイトカイン
細胞が分泌する生理活性物質の一つ。細胞間の情報伝達を行い、細胞の増殖、成熟、機能発現など様々な作用をもたらすことが知られている。
注11)ST2
気道上皮から放出されるサイトカインのIL-33に対する受容体。ST2を細胞表面に発現した細胞が、IL-33からの刺激を受けて反応することが可能である。
注12)記憶T細胞
生体内で、抗原と遭遇し多量に増殖したT細胞の一部が、体内で長期間生存し記憶T細胞となる。記憶T細胞は、以前に遭遇した抗原に対して、迅速に応答する。
注13)細胞外マトリックス
生物において、細胞の外に存在する構造体を細胞外マトリックスという。細胞の外の空間を満たして、細胞の足場として働くと同時に組織の骨格としての役割を果たす。

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千葉大学 大学院医学研究院 免疫発生学(H3) 教授
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最終更新日 平成30年6月27日