プレスリリース インドネシアに流行するHIV-1(エイズウイルス)サブタイプB亜種の侵入経路を推定
プレスリリース
国立大学法人 神戸大学
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構
神戸大学大学院保健学研究科の亀岡正典教授、小瀧将裕助教、医学研究科感染症センターの上田修平 技術補佐員(兼 保健学研究科 大学院生)と、インドネシア・アイルランガ大学医学部のNasronudin教授、大阪健康安全基盤研究所の本村和嗣博士らの研究グループは、インドネシア各地で分離されたHIV-1サブタイプB亜種(HIV-1B)※1について分子系統解析※2行い、HIV-1Bがインドネシアに侵入した時期や経路の推定に成功しました。本研究成果によって、インドネシアへのHIV-1Bの伝播様式及び世界的な流行動態の一端が解明されました。
この研究成果は、9月27日に、国際学術雑誌「Scientific Reports」に掲載される予定です。
この研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の感染症研究国際展開戦略プログラム(J-GRID)による支援の下、アイルランガ大学熱帯病研究所内に設立したインドネシア神戸大学国際共同研究拠点で行いました。
ポイント
- インドネシアには3つのHIV-1サブタイプB亜種(HIV-1B)の系統群※3が存在すること、国内で独自に進化したと考えられるインドネシア系統群に加えて、中国系統群と米国系統群が存在することを明らかにしました。
- インドネシアで流行するHIV-1Bは、近隣国タイやヨーロッパ諸国、米国から1970-80年代に侵入したことが推測されました。また、その一部は近隣アジア諸国やヨーロッパ諸国に伝播していることが示唆されました。
研究の背景
世界第四位の人口を持つインドネシアでは、現在もHIV(エイズウイルス)の流行拡大が継続しています。また、インドネシアは東南アジアで最もHIVが流行している国であり、アジア地域でのHIV拡散に大きく関与している可能性があります。
HIV-1サブタイプB亜種(HIV-1B)の起源はアフリカのコンゴ民主共和国とされ、カリブ海の島国ハイチ、さらに米国を介して、ヨーロッパやアジア諸国を含む全世界に伝播して世界的な流行に至ったと考えられます。インドネシアには、東南アジア諸国で主に流行しているHIV-1亜種であるCRF01_AEに加えて、このHIV-1Bが流行しています。しかし、その起源や伝播動態、分子進化については不明な点が多くあります。
研究の内容
インドネシアは世界最多の島々を有する、島国としては世界最大面積の国家です。今回、ジャワ島、スマトラ島、パプア島、スラウェシ島など様々な島の医療機関においてHIV感染者の末梢血を採取して、32株のHIV-1Bの遺伝子を得ました。また、これらと近似のウイルス遺伝子をデータベースから検索して、種々の系統樹解析を行いました。その結果、インドネシアには、主なHIV-1Bの系統群としてインドネシア系統群が、また、それ以外にも中国系統群と米国系統群が存在することが明らかになりました。
これら3つの系統群について更に詳細な分子系統解析を行ったところ、インドネシア系統群は1980年代後半に米国からインドネシアに侵入したことが推測され、その後、国内で独自の進化を遂げている可能性が示唆されました。また、中国系統群は1980年代後半にタイから、米国系統群は1980年代中盤にヨーロッパ諸国から、インドネシアに侵入したことが推測されました(図1)。さらに、インドネシアのHIV-1Bがアジアやヨーロッパ諸国に伝播していることが示唆されました。
図1:世界的なHIV-1サブタイプB亜種(HIV-1B)の伝播推移
今後の展開
今後、インドネシアに流行している他のHIV-1亜種についても分子系統解析を行い、その起源や伝播推移を明らかにする予定です。また、インドネシアのHIV-1B分離株の検体数を更に増やして、分子系統解析の精度を更に上げることも重要と考えます。一連の解析により、インドネシアや日本を含むアジア諸国、世界規模でのHIV-1の流行推移や伝播様式の一端を解明することで、HIV感染の拡大を阻止するための情報を蓄積させます。
用語解説
- ※1 HIV-1亜種:
- エイズの原因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス(HIV)は遺伝子変異を起こしやすいウイルスです。HIVはまず1型(HIV-1)と2型(HIV-2)に分類され、HIV-1はさらに4つのグループ(M, N, OおよびP)に分類されます。このうち、世界中に蔓延するHIV-1グループM (major)はさらに多数の亜種(9種類のサブタイプや、サブタイプ間で組換えを起こして生じた約100種類の組換型流行株)に分類されます。これらのHIV-1亜種は地球上で流行する地域が異なりますが、欧米諸国や日本にはサブタイプB亜種が、東南アジア諸国にはCRF01_AE亜種が、アフリカや南アジアにはサブタイプC亜種が主な流行株として存在します。
- ※2 分子系統解析:
- 生物やウイルスの遺伝子塩基配列を用いて、生物やウイルス、その遺伝子が進化してきた道筋(系統)を推定して理解するための解析
- ※3 系統群:
- 共通の祖先から進化した生物群
謝辞
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の感染症研究国際展開戦略プログラムのサポートを得て研究を実施しました。
論文情報
- ・タイトル
- “Transmission dynamics of HIV-1 subtype B strains in Indonesia”
- ・著者
- Shuhei Ueda, Adiana Mutamsari Witaningrum, Siti Qamariyah Khairunisa, Tomohiro Kotaki, Kazushi Motomura, Nasronudin, Masanori Kameoka
- ・掲載誌
- Scientific Reports
お問い合わせ先
研究について
神戸大学大学院保健学研究科
教授 亀岡 正典
TEL:078-796-4594
E-mail:mkameoka“AT”port.kobe-u.ac.jp
報道担当
神戸大学総務部広報課
TEL:078-803-6678
E-mail:ppr-kouhoushitsu“AT”office.kobe-u.ac.jp
事業に関して
日本医療研究開発機構 戦略推進部感染症研究課
TEL:03-6870-2225
E-mail:jgrid“AT”amed.go.jp
※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。
関連リンク
掲載日 令和元年9月27日
最終更新日 令和元年9月27日