成果情報 母体副腎腫瘍による胎児の男性化のメカニズムを解明―ヒト胎児の体内で作用する新たな男性ホルモンの同定―

成果情報

国立成育医療研究センター
新潟大学
日本医療研究開発機構

国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵 理事長:五十嵐隆)分子内分泌研究部の深見真紀、新潟大学(所在地(旭町地区):新潟県新潟市中央区旭町通一番町 学長:牛木辰男)医歯学総合病院小児科の長崎啓祐らのグループは、原因不明の男性化を示した女性新生児について、どのような物質が男性化に関係しているのかを調べる研究を行いました。

この研究では、男性化した女性新生児の母親に対するホルモン検査や画像検査、新生児に対する遺伝子検査やホルモン検査を行いました。その結果、母親に副腎腫瘍1)がみつかり、血中から高い値の「11-oxygenated C19ステロイド(11oxC19s)2)」という男性ホルモンが検出されました。一方、新生児には疾患原因となる異常が見られなかったため、この児の男性化の原因は「11oxC19s」であると考えられます。

今回の症例では、母体の副腎腫瘍で「11oxC19s」が大量に産生され、胎児の男性化を起こしていました。よく知られている「テストステロン」や「アンドロステンジオン」といった男性ホルモン以外に、ヒト胎児の体内で重要な作用を発揮する新たな男性ホルモンが存在することが示され、大きな成果と言えます。

背景

妊娠中の母体に副腎腫瘍が発生した場合、しばしば女性胎児の男性化が生じることが知られています。これは、副腎腫瘍で「テストステロン」と「アンドロステンジオン」というよく知られた男性ホルモンが作られるためと説明されていますが、これらはどちらも胎盤を通過する際に不活性化されるため、本当に女性胎児男性化の原因であるかどうか疑問とされていました。そのため、女性胎児の男性化について、真の原因が何であるのか解明が求められていました。

プレスリリースのポイント

本研究グループは、出生時に原因不明の男性化が認められた女性新生児の研究を行い、近年ヒトで発見された新たな男性ホルモンである「11-oxygenated C19ステロイド(11oxC19s)」が母体において高値であったことが、この症例が胎生期に男性化を起こした原因であることを発見しました。「11oxC19s」は、副腎で産生され、不活性化されずに胎盤を通過します。この児の母親は副腎腫瘍を有しており(図1)、血中「11oxC19s」が高値、一方「テストステロン」と「アンドロステンジオン」は正常範囲内でした。「11oxC19s」の値は腫瘍除去後に正常化しました。

図1:母親の副腎腫瘍画像

この研究によって、「11oxC19s」が男性ホルモンとしてヒト胎児の体内で重要な作用を発揮することがはじめて明らかとなりました。このホルモンは出生後の男女の体内でも一定量産生されており、ヒトの健康にさまざまな影響を及ぼしている可能性があります。

発表論文情報

著者
Keisuke Nagasaki, Kaoru Takase, Chikahiko Numakura, Keiko Homma, Tomonobu Hasegawa, Maki Fukami
題名
Foetal virilisation caused by overproduction of non-aromatisable 11-oxygenated C19 steroids in maternal adrenal tumour
掲載誌
Human Reproduction 2020
DOI
10.1093/humrep/deaa221 (in press)

注釈

1)副腎腫瘍
副腎は、左右の腎臓の上にある臓器で、人が生活する上で必要なホルモンを分泌しています。副腎腫瘍は、副腎内に腫瘍ができ、過剰なホルモン産生を引き起こす疾患です。
2)11-oxygenated C19ステロイド(11oxC19s)
11oxC19sは、従来魚類の男性ホルモンとして知られていましたが、2016年に今道力敬と矢澤隆志(旭川医科大学)らによって、ヒトにも11oxC19sが存在し、男性ホルモンとして作用することが見出されました(Imamichi et al J Clin Endocrine Metab 101:3582-3591,2016)(図2)。その後、副腎での11oxC19s過剰産生が、多嚢胞性卵巣症候群女性や先天性副腎酵素欠損症女性の男性化に関与する可能性があると報告されました。
図2:男性ホルモンの産生経路

特記事項

本研究は、日本医療研究開発機構における難治性疾患実用化研究事業と文科省新学術領域研究の一環として行われたものです。

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掲載日 令和2年12月7日

最終更新日 令和2年12月7日