イベント 開催日:令和3年3月4日、5日開催 「AMRに関するアジア-大洋州ワークショップ」が開催されました
開催報告
薬剤耐性(Antimicrobial Resistance: AMR)は、世界的に喫緊の課題であり、かつアジア・大洋州でも深刻な問題です。本ワークショップは、厚生労働省が策定したAMRに関するアクション プランを受けて、AMED国際連携推進室が中心となって企画したイベントです。当初2020年2月の開催を予定していましたが、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から延期となり、2021年3月4日と5日の2日間にわたりオンライン形式で開催されました。
本ワークショップは、アジア-大洋州におけるAMR対策について、ワンヘルス(人と動物等の保健衛生の一体的な推進)の観点からの科学面、政策面での議論を深め、地域内連携の促進を目指すことを目的としました。東京AMRワンヘルス会議(2021年2月にオンライン開催)に参加された10か国からの専門家をお招きし、アジア-大洋州地域におけるAMR対策と研究動向等について情報交換し、将来的に優先すべきトピックについて発表および議論が行われました。日本、フィリピン、タイなど18カ国から239名(日本:119名、海外:120名)に事前登録いただき、製薬業界、アカデミア、行政機関を中心に、Day 1は140名、Day 2は116名に参加いただきました。
Day1:ワンヘルスアプローチに基づくAMR対策
- 初日は、AMED三島良直理事長、AMED国際戦略推進部の野田正彦部長からの開会挨拶から始まりました。
- 基調講演 I では、オーストラリア国立大学から Dr. Peter Collignon がワンヘルスの観点からのAMR対策について語られました。AMR問題は、医療、農業、環境など多くの要素が絡み合っているため複雑であり、問題解決は容易ではないが、医師、獣医師、環境保全活動家などの関係者が協力してワンヘルス・アプローチを行うことが最も重要であると述べられました。
- 基調講演 IIでは、アメリカ国立アレルギー・感染症研究所 (NIAID)のDr. Dennis DixonがTATFAR(薬剤耐性に関する大西洋横断タスクフォース)の活動を紹介されました。TATFARの目的は、参加国(米国、EU、カナダ、ノルウェー)間のAMR対策に関する情報交換と協力を促進することであり、人間や動物の医薬品における適切な治療目的での抗菌薬使用、薬剤耐性菌感染の予防、抗菌薬のパイプラインの改善が3つの重要分野と位置付けられていることを説明されました。
- タイのマヒドン大学のDr. Visanu Thamlikitkulは、タイにおけるAMR問題と講じられているワンヘルス・アプローチを紹介されました。タイでは、抗生物質消費量・使用量、院内感染状況等のエビデンスに基づいて、特定のコミュニティにおけるAMRの医療負担が明らかにされたことを示されました。また、健康な人、患者、食品、ペット・家畜、環境から採取された重要な耐性菌の分離株20,000以上の大規模なリポジトリが紹介され、これらの分離株を解析することで、ヒト・動物・環境間での耐性菌の伝播の実態が科学的に明らかになると説明されました。
- 中国農業大学のDr. Yang Wangは、中国におけるコリスチン耐性の状況について、すなわち、動物に大量のコリスチンを長期間使用した結果、コリスチン耐性株が発生し、耐性遺伝子MCRが動物から人や環境に伝播したことを紹介されました。2017年に飼料添加物としてコリスチン使用が禁止されてからは、動物や人から分離されるコリスチン耐性株の割合が明らかに減少したことを示し、ワンヘルスの視点での分析が重要であることを報告されました。
- 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の小林創太先生は、日本における家畜のAMRに関する研究プロジェクトを報告されました。テトラサイクリン(TC)の使用と豚から分離された耐性菌の関連を示し、TCの投与量が多いとTC耐性率も比例して高くなることを示すとともに、TCの投与量を減らしてもTC耐性率があまり低下しない場合があることを示し、TC以外の抗菌薬による共選択圧の存在を示唆されました。
- パネル・ディスカッションでは、シンガポール国立大学のDr. Li Yang Hsu、結核予防会結核研究所の御手洗 聡先生が加わり、コーディネータ一の渡邉治雄先生の進行で、ワンヘルスの視点からのAMR対策についてそれぞれの立場から情報提供や提言が行われました。
Day2:アジア地域のAMRと国際連携/抗菌薬開発に向けた戦略
- 二日目は、コーディネータ一の渡邉治雄先生とDr. Dixonによる一日目の振り返りから始まりました。
- ミャンマー保健・スポーツ省のDr. Wah Wah Aungとフィリピン科学技術省のDr. Jaime Montoyaは、それぞれの国におけるAMR対策に関する取り組みを紹介しました。アメリカ合衆国保健福祉省のDr. Lynn Filpiは、AMR対策に向けた米国の取組みのこれまでの歩みを紹介し、米国の行動計画において重要な柱の一つである「国際連携の推進」のための具体的なターゲットを示されました。
- スイスGARDPのDr. Seamus O'Brian は、非営利団体であるGARDPの取り組みとして、WHOの最優先病原菌や新生児敗血症、小児科分野、性病に関する新たな抗菌薬、治療法の開発が進められていることが紹介されました。
- オタゴ大学のDr. Matthew McNeilは、多剤耐性結核菌に対して新規の作用機序により有効な抗菌薬開発について最新の手法、すなわち、結核菌のゲノム編集による抗菌のターゲットとなる部位の同定、また、従来の化合物ライブラリーを用いたスクリーニングによる候補化合物探索に加えて、AIの深層学習を用いたインシリコ探索による創薬を紹介されました。
- 杏林製薬株式会社の平井敬二先生は、抗菌薬開発の歴史から、現在の課題までを概説され、日本における新たな抗菌薬開発のためには、官民パートナーシップの確立と共に、プッシュ型・プル型インセンティブのバランス良い施策が望まれることを説明されました。
- シドニー大学のDr. Ruth Zadoksは、世界最大の養殖サーモン生産国のノルウェーでワクチン使用により抗生物質使用を激減させつつ生産量増加が実現されたこと、家畜の適切な飼育が感染症予防につながることから農場労働者への教育に関する取り組みが大切であること等を示し、抗菌薬開発以外のAMR対策の重要性を力説されました。
- パネル・ディスカッションでは、シンガポール国立大学のDr. Li Yang Hsu、DNDi Japanの工月達郎先生が加わり、コーディネータ一の渡邉治雄先生の進行で、AMR対策に係る研究開発の今後の方向性についてそれぞれの立場から情報提供や提言がなされました。
掲載日 令和3年4月13日
最終更新日 令和3年4月13日