プレスリリース 世界初・日本発:超音波検査による乳がん検診のランダム化比較試験(J-START)―若い女性への乳がん検診の標準化と普及へ向けて―

プレスリリース

国立大学法人東北大学大学院医学系研究科
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

研究概要

東北大学大学院医学系研究科の大内 憲明(おおうち のりあき)教授らのグループは、40歳代女性を対象に乳がん検診における超音波検査の有効性を検証するための比較試験を実施し、本日主要評価項目(感度、特異度、がん発見率)に関するデータを公表します。

本研究は、若年女性における検診での乳房超音波検査の有効性を検証する目的で、科学的に最も質の高い研究デザインである「ランダム化比較試験(RCT)」を用い、日本全国から76,196人の女性たちの協力を得て行われ、マンモグラフィに超音波を加えることで早期乳がんの発見率が約1.5倍になるなどの結果が得られました。大規模な超音波検査を用いた乳がん検診に関するRCTは世界で初めての研究であり、この成果は日本および世界で増え続ける乳がん対策の重要な礎となることが期待されます。

本研究の結果は、2015年11月5日のthe Lancet誌(電子版)に掲載されます。本研究は、厚生労働科学研究費補助金および日本医療研究開発機構の支援を受けて行われました。

研究内容

近年、世界的に乳がんが増加し、わが国では乳がんによる死亡率が急増中です。乳がんのリスク因子には様々なものがありますが(図1)、早期に発見して治療を行うことが重要です。乳房をX線で撮影するマンモグラフィは、乳がんの早期発見に用いられており、死亡率減少効果が証明されている唯一の乳がん検診方法です(図2)。しかし、若年女性や高濃度乳房における有効性は、50歳以上の年齢層と比較して十分とは言えません。私たちはマンモグラフィ検診と比べた乳房超音波検査の利益・不利益を検証するため、「乳がん検診における超音波検査の有効性を検証するための比較試験(Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial:J-START)」として、40歳代の女性を対象とした大規模なランダム化比較試験(RCT)を計画し実施しました(図3)。

本調査は、2007年7月から2011年3月にかけて、全国42の研究参加団体を通じ、76,196人の女性に参加同意をいただき施行されました。参加者は参加同意後に1対1の割合でマンモグラフィに加えて超音波検査を実施するグループ(介入群)と通常のマンモグラフィ検診を実施するグループ(コントロール群)にランダムに割り振られました。割り振られた検査方法で初回とその2年後の検診を受診する研究デザインです。

本論文では、主要評価項目として感度・特異度・癌発見率、初回検診における発見乳がんのステージ分類を報告します。

介入群では感度91.1%(95% CI [87.2-95.0])、コントロール群では感度77.0% (95% CI [70.3-83.7])であり有意差を持って介入群で感度が上昇しました(p=0.0004)。乳がん発見数、発見率においても介入群で有意に高値でした(介入群:184(0.50%) vs コントロール群117(0.32%)(p=0.0003))。発見がんのステージ別評価では、ステージⅡまたはⅢ以上の発見がん数は、介入群、コントロール群で差は見られず、超音波検査はStage 0 or Ⅰのがんの発見に寄与していることが明らかとなりました。一方で、介入群では要精検率が有意に上昇(12.6% vs 8.8%)、侵襲的な追加検査(針生検等)の施行数も増加しており、検診の不利益も増加しています。今後、超音波検診導入による利益と不利益との相対バランスを厳密に検討することが不可欠です。

本研究は、厚生労働省科学研究費補助金および日本医療研究開発機構の支援により行われました。

用語説明

注 ランダム化比較試験:
最も質の高い科学的証拠が期待できる研究試験のデザインの1つ。既知の試験参加者の属性や影響を及ぼし得る未知の因子による偏りを2群間で少なくするために、手順に従い介入群と非介入群を無作為に割り付ける。新しい治療方法や予防を含めた医療の臨床試験で、科学的な証拠を検証するために用いられることが推奨されている。
乳がんの現状とリスクについて図1.乳がんのリスク因子
マンモグラフィと超音波検査の比較図2.マンモグラフィと超音波検査の比較
日本初・世界最大規模の臨床試験図3.本研究の目的と意義

研究の結果

背景
J-START研究実施施設
初回検診の研究参加者

2回目検診対象者データ入力状況

初回受信時の受診者特性

初回検診結果(非ランダム化群を除く)

検診方法別の感度

検診方法別の乳がん発見率

ステージ分類

要精検率と陽性反応的中度(PPV)

初回検診時の生検実施状況

 

論文題目

“Sensitivity and specificity of mammography and adjunctive ultrasonography to screen for breast cancer in the Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial (J-START): a randomised controlled trial”

Noriaki Ohuchi, Akihiko Suzuki, Tomotaka Sobue, Masaaki Kawai, Seiichiro Yamamoto, Ying-Fang Zheng, Yoko Narikawa Shiono, Hiroshi Saito, Shinichi Kuriyama, Eriko Tohno, Tokiko Endo, Akira Fukao, Ichiro Tsuji, Takuhiro Yamaguchi, Yasuo Ohashi, Mamoru Fukuda, Takanori Ishida, for the J-START investigator groups

邦題

「マンモグラフィと超音波による乳がん検診の感度、特異度 J-START結果報告」

大内憲明、鈴木昭彦、祖父江友孝、河合賢朗、山本精一郎、鄭迎芳、塩野成川洋子、齋藤博、栗山進一、東野英利子、遠藤登喜子、深尾彰、辻一郎、山口拓洋、大橋靖雄、福田護、石田孝宣、J-START研究班

2015年11月5日 the Lancet誌(電子版)

お問い合わせ先

研究に関すること

東北大学大学院医学系研究科
腫瘍外科学分野
教授 大内 憲明(准教授 石田 孝宣)
電話番号:022-272-3011(J-START事務局)
E-mail:noriaki-ohuchi”AT”med.tohoku.ac.jp

報道に関すること

東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
講師 稲田 仁(いなだ ひとし)
電話番号: 022-717-7891
FAX番号: 022-717-8187
E-mail:hinada”AT”med.tohoku.ac.jp

がん対策全般について

厚生労働省健康局 がん・疾病対策課
〒100-8916 東京都千代田区霞が関1-2-2
電話番号:03-5253-1111(内線4605)

革新的がん医療実用化研究事業に関すること

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
戦略推進部 がん研究課
〒100-0004 東京都千代田区大手町一丁目7番1号
電話番号:03-6870-2221
E-mail:cancer”AT”amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス”AT”の部分を@に変えてください

掲載日 平成27年11月5日

最終更新日 平成27年11月5日