プレスリリース WHOが極めて重要な抗菌薬と位置付ける「コリスチン」に耐性となる遺伝子mcr-1が日本にも存在することを確認

プレスリリース

ポイント

  • 国立感染症研究所の鈴木室長、黒田センター長らは、グラム陰性桿菌に対する重要な抗菌薬として位置づけられる抗生物質「コリスチン」に耐性となる遺伝子mcr-1が日本にも存在することを、薬剤耐性菌のゲノムデータベース「GenEpid-J」を探索することにより突き止めました。
  • 薬剤耐性菌問題は、公衆衛生学上の重要な課題として世界的な取り組みが推進されています。今年5月に開催されるG7伊勢志摩サミットにおいても主要議題として取り上げられる予定です。
  • 今回、コリスチン耐性遺伝子mcr-1の日本国内における分布が迅速に確認されたことは、今後の感染症研究にも重要な指針を与えるものと言えます。

コリスチンは大腸菌や緑膿菌などのグラム陰性桿菌への殺菌作用を持つ抗生物質で、複数の抗菌薬に耐性を持つ多剤耐性菌に対する限られた治療薬の一つとして近年再び注目されています。

昨年(2015年)11月、この「コリスチン」に耐性となるプラスミド性の遺伝子「mcr-1」が中国で特定されて以降、ヨーロッパやアジア、アフリカ等でもその存在が報告され、世界における分布に注目が集まっています。

国立感染症研究所の鈴木室長、黒田センター長らは、今回、このmcr-1について、日本における分布を調べるため、薬剤耐性菌のゲノムデータベース「GenEpid-J」(※1)を探索したところ、国内の病気の家畜由来株がmcr-1を有するプラスミドを持ち、さらにそのプラスミドの配列が中国より報告されたプラスミドと極めて類似した配列であることまでも速やかに確認することができました。なお、患者由来株の中にはmcr-1は確認されませんでした。健康家畜由来の大腸菌9308株のうち、コリスチンの最小発育阻止濃度が8μg/mL以上であった株は90株(1.0%)であり、この90株のうち2株のみがmcr-1を保有していました(関連リンク参照)。

本報告は、2016年1月7日23時30分(英国時間)発行の「Lancet Infectious Disease」オンライン版に掲載されました。

薬剤耐性菌の出現と拡散に関する問題は、公衆衛生学上の重要な課題として世界的な対応が求められています。2015年5月のWHO総会では薬剤耐性(AMR;Antimicrobial Resistance)に対するグローバル行動計画が採択され、我が国においても、今年度末を目処にアクションプランが策定される予定です。また、今年5月に開催されるG7伊勢志摩サミットにおいても主要議題の一つとして取り上げられる予定です。

※1 GenEpid-J

日本医療研究開発機構(AMED)の「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業」の支援を受けて国立感染症研究所が農研機構動物衛生研究所や動物医薬品検査所等の機関と協力して構築中の、プラスミドゲノムも含む薬剤耐性菌のゲノムデータベースです。

これまで、国内の分離菌が特定の薬剤耐性遺伝子をどの程度保有しているのかを調査するためには新たに菌株を収集したり、解析したりする必要があり、多額の費用と時間を要していました。

GenEpid-Jは、One Health(ヒト・家畜・環境の衛生・保全に連携対応)の理念のもと、国内外で分離された患者・家畜・環境など様々な由来の菌株について、プラスミドゲノムと染色体ゲノムを分離したうえで解読・解析し、付随する疫学情報と共にデータベースとして蓄積します。これにより、新たな調査をしなくても特定の耐性遺伝子についてその分布状況を迅速に把握することができます。

今回、mcr-1の日本国内における分布を迅速に把握することができたことは、構築されたデータベース活用の成果です。

問題となる薬剤耐性遺伝子の分布を迅速に把握できるデータベースの構築は、薬剤耐性遺伝子の拡散経路の追跡を可能とします。これは、我が国のみならず、海外に対しても有用となる情報の提供につながります。GenEpid-Jは薬剤耐性菌対策における公衆衛生学上の有用なツールになりうると期待されます。

また今後、GenEpid-Jデータベースを拡充し、公共のゲノムデータベースと連携させることにより、薬剤耐性菌対策に必要な薬剤耐性遺伝子の分布や拡散経路といった情報をより迅速に提供できると期待されます。

※本成果は、厚生労働省よりAMEDに移管され「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業」で支援を行っている以下の研究開発課題において、研究開発代表者である黒田誠センター長(国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センター)、研究開発分担者である鈴木里和室長(国立感染症研究所細菌第二部第一室)、秋庭正人上席研究員(農研機構動物衛生研究所細菌・寄生虫研究領域)および研究協力者である川西路子主任研究官(動物医薬品検査所)らにより得られました。 

研究開発課題名:薬剤耐性菌サーベイランスとゲノムデータの集約・解析に関する研究
研究開発代表者:黒田誠(国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センター)

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国立感染症研究所
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Tel:03-5285-1111
E-mail:info“AT”nih.go.jp

日本医療研究開発機構 戦略推進部感染症研究課
中嶋建介
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-7-1
Tel:03-6870-2225
E-mail:kansen“AT”amed.go.jp

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E-mail:contact“AT”amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

掲載日 平成28年1月8日

最終更新日 平成28年1月8日