プレスリリース 異なる2つの神経難病、筋萎縮性側索硬化症と脊髄小脳変性症に共通した全く新しい治療標的を発見
プレスリリース
国立大学法人東京医科歯科大学
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
国立大学法人大阪大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
発表のポイント
- 脊髄小脳変性症の1つであるSCA31は、異常なRNAくりかえし配列のRNA毒性によって起きることを見出しました。
- 全く別の神経難病、筋萎縮性側索硬化症の原因となるタンパク質「TDP-43」は、SCA31の異常なRNAに結合するRNA結合タンパク質であることを発見し、さらにTDP-43がSCA31のRNA毒性を緩和するという画期的な発見をしました。
- 一方、SCA31の短いRNAくりかえし配列は、逆に筋萎縮性側索硬化症においてTDP-43が凝集蓄積することによるタンパク質の毒性を緩和することを見出しました。
- 以上のことから、正常な神経細胞の維持に、「RNA」とそのRNAを結合する「タンパク質」のバランスが重要で、脊髄小脳変性症や筋萎縮性側索硬化症ではこのバランスが破綻しており、これを補正することで両疾患の治療が可能になるという全く新しい概念を発表します。
東京医科歯科大学医学部附属病院 長寿・健康人生推進センター 石川欽也教授と東京医科歯科大学 水澤英洋特命教授・兼 国立精神・神経医療研究センター総長、大学院医歯学総合研究科脳神経病態学分野 横田隆徳教授の研究グループは、国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第四部 永井義隆室長(現:大阪大学大学院医学系研究科 神経難病認知症探索治療学寄附講座 教授)、同 和田圭司部長(現:同トランスレーショナル・メディカルセンター長)、ストラスブール大学、トロント小児病院などとの共同研究で、日本人特有と言われる遺伝性脊髄小脳変性症「SCA31」を引き起こす長いRNAくりかえし配列の神経毒性が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因蛋白であるTDP-43やFUS, hnRNPA2/B1によって緩和されることをつきとめました。逆にALSの原因となるTDP-43やFUS, hnRNPA2/B1の毒性は、短く毒性のないRNAくりかえし配列で緩和され、SCA31やALSの治療法開発に向けた画期的な発見をしました。この研究は科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(CREST)からの受託研究課題「プルキンエ細胞変性の分子病態に基づく診断・治療の開発」を筆頭とし、日本医療研究開発機構受託研究費(脳科学研究戦略推進プログラム、難治性疾患実用化研究事業)、ならびに文部科学省科学研究費補助金などの支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Neuron(ニューロン)に、2017年3月23日正午(米国東部時間)にオンライン版で発表されます。
研究の背景
研究成果の概要
図1 SCA31モデルショウジョウバエの樹立
RNA fociおよびPPRの蓄積が減少した
変異TDP-43を発現するALSモデルショウジョウバエの複眼変性が改善した
研究成果の意義
今回の研究結果は、RNAとRNA結合タンパク質との相互作用によりRNA結合タンパク質がRNAの構造異常を抑制する一方、RNAはRNA結合タンパク質の凝集を抑制するという生体内でのバランス機構の存在が示唆されました(図4参照)。そしてこの“RNA/タンパク質のバランスの不均衡が、異常RNAの蓄積を認めるSCA31やRNA結合タンパク質の凝集を伴うALSを引き起こす”という新しい病態仮説を提唱するとともに、このバランスの不均衡を是正するという全く新しい治療手段の可能性を述べます。この成果は、各種RNAやRNA結合タンパク質が凝集蓄積する多様な神経変性疾患の創薬、治療戦略の足がかりとなることが期待されます。
図4 今回の研究の成果から生まれた概念図
―RNAとRNA結合タンパク質のバランスの不均衡により、SCA31やALSが発症する―
用語解説
- (注1)ショウジョウバエ:
- 体長2~3mmの小型のハエで、遺伝学のモデル生物として長年用いられており、神経変性疾患のみならず癌や先天性疾患など多様な疾患モデルが樹立されています。遺伝学的解析に優れた性質を有し、遺伝学的修飾因子(増悪および抑制)スクリーニングに適しています。
- (注2)原子間力顕微鏡:
- 微細な探針と試料とに作用する原子間力を検出する顕微鏡です。原子あるいは分子というナノスケールの空間分解能を持ち、凹凸形状を三次元的に計測する手法です。
- (注3)CD(円偏光二色性;Circular Dichroism)測定:
- 物質に直線光を当てた時に光が左右に偏る円偏光を測定する方法。遠紫外の波長領域のCDスペクトルから、核酸や蛋白質、ペプチドの二次構造、種類、含量などを予測する方法です。
- (注4)RNAシャペロン:
- RNAと結合してその構造を安定化させ、転写、翻訳、スプライシングなどに際しても重要な機能を果たすタンパク質のことです。
お問い合わせ先
研究に関すること
東京医科歯科大学 医学部附属病院 教授
長寿・健康人生推進センター・センター長
石川欽也(イシカワ キンヤ)
TEL:03-5803-4194 FAX:03-5803-0189
E-mail:pico.nuro“AT”tmd.ac.jp
大阪大学大学院医学系研究科 寄附講座教授
永井義隆(ナガイ ヨシタカ)
TEL:06-6879-3564 FAX:06-6879-3569
E-mail:nagai“AT”neurother.med.osaka-u.ac.jp
報道に関すること
東京医科歯科大学 広報部広報課
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
TEL:03-5803-5833 FAX:03-5803-0272
E-mail:kouhou.adm“AT”tmd.ac.jp
国立精神・神経医療研究センター 総務課広報係
〒187-8551 東京都小平市小川東町4-1-1
TEL:042-341-2711(代表) FAX:042-344-6745
E-mail:ncnp-kouhou“AT”ncnp.go.jp
大阪大学 大学院医学系研究科 広報室
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E-mail:kouhousitsu“AT”office.med.osaka-u.ac.jp
AMED事業に関すること
日本医療研究開発機構 戦略推進部 脳と心の研究課
TEL:03-6870-2222
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日本医療研究開発機構 戦略推進部 難病研究課
TEL:03-6870-2223
E-mail:nambyo-info“AT”amed.go.jp
※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。
掲載日 平成29年3月24日
最終更新日 平成29年3月24日