プレスリリース エボラ出血熱の重症化メカニズムの解明ならびに予後を予測するためのバイオマーカーを同定

平成29年11月17日プレスリリース

東京大学 医科学研究所
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

発表者

河岡 義裕(東京大学医科学研究所 感染・免疫部門ウイルス感染分野 教授)

発表のポイント

  • エボラ出血熱の重症化メカニズムを解明するため、2013~2016年の西アフリカの流行の際にエボラ患者から採取した末梢血を用いてマルチオミックス解析を行った。
  • エボラ重症患者の体内で起こる組織障害には、膵酵素分泌や、好中球によって誘起された免疫系の異常反応が関与する可能性が示された。
  • エボラ出血熱の重症化を予測するバイオマーカーが同定された。今後のエボラ対策に大きく貢献することが期待される。

発表概要

東京大学医科学研究所感染・免疫部門ウイルス感染分野の河岡義裕教授らの研究グループは、エボラ出血熱の重症化メカニズムの一端を解明し、さらに重症化を予測しうるバイオマーカーを同定しました。

エボラ出血熱(注1)は、エボラウイルス感染によって起こる全身感染症です。致死率が非常に高く、効果的な治療薬やワクチンがないため、公衆衛生上非常に深刻な問題となっています。2013年に西アフリカ諸国で発生したエボラ出血熱は、過去最大の流行を引き起こしました。欧米諸国でも、流行地から帰国した医療関係者を中心に、十数名の感染者が出ました。したがって、今後のエボラ出血熱の流行に備え、本感染症の病原性発現機構を詳細に解析し治療・予防法を確立することは、喫緊の課題です。

本研究グループは、西アフリカのシエラレオネ共和国において、エボラ患者から採取した血液サンプルを用いて、トランスクリプトーム、メタボロミクス、リピドミクス、プロテオミクスなどのマルチオミックス(各種網羅的)解析(注2)を行いました。エボラウイルス感染後に、死亡した患者と回復した患者における宿主応答を比較解析したところ、エボラ重症患者(死亡者)の体内で起こる組織障害には、膵酵素や、好中球によって誘起された免疫系の異常反応が関与することが示され、エボラ出血熱の重症化メカニズムの一端が明らかとなりました。さらに重症患者において特異的な発現パターンを示す宿主因子が同定され、これらの因子は病気の帰結を評価しうるバイオマーカー(注3)として有望であることが分かりました。本研究成果は、エボラ出血熱の制圧に向けた大きな一歩となることが期待されます。

本研究成果は、2017年11月16日(米国東部時間 午後12時)、米国科学雑誌「Cell Host & Microbe」のオンライン速報版で公開されます。

なお本研究は、東京大学、米国ウィスコンシン大学、シエラレオネ大学、米国パシフィック・ノースウェスト国立研究所、米国マウントサイナイ大学が共同で行ったものです。本研究成果は、日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業、文部科学省新学術領域研究などの一環として得られました。

発表内容

①研究の背景・先行研究における問題点

エボラ出血熱は、エボラウイルスに感染することによって起きる感染症です(図1)。致死率が非常に高く、効果的な治療薬やワクチンがないため、公衆衛生上非常に深刻な問題となっています。2013年12月にギニアで発生したエボラ出血熱は、2014年3月のギニアでの集団発生が引き金となり、住民の国境を越える移動により近隣諸国へと拡がり、都市部を巻き込んだ大規模な流行を引き起こしました。2016年6月10日現在の世界保健機関(WHO)の報告によると、エボラ出血熱の患者数は28,616人を超えており、そのうち11,310人が死亡しました。欧米諸国でも、流行地から帰国した医療関係者を中心に、数名の感染者が出ました。各国間での人と物の往来が頻繁になっている現代社会においては、日本を含む諸外国にもエボラ出血熱が侵入する可能性は大いにあります。したがって、今後のエボラ出血熱の流行に備え、本感染症の病原性発現機構を詳細に解析し、治療・予防法を確立することは、国際的にも最重要課題となっています。 エボラ出血熱の一般的な症状は、突然の発熱、筋肉痛、頭痛、喉の痛み等からはじまり、その後、嘔吐、下痢、発疹、肝機能および腎機能の異常(多臓器不全)などの症状を呈し、さらに病気が悪化すると出血症状を出すこともあります(出血症状を伴わない感染例も多く報告されていることから、最近ではエボラ出血熱を「エボラウイルス病」と呼ぶことも多いです)。これまでに、動物モデルを用いた研究によって、エボラウイルスに感染した個体の体内では、ウイルスが大量に増殖することによって異常な免疫反応が誘起され、著しい組織障害や血液凝固異常などが起こり、重症化につながることが示唆されています。しかしながら、エボラウイルスに感染したヒトの体内において、実際にどのような宿主応答が起こり、重症化が引き起こされているのかについては、未だに明らかではありません。

②研究内容

本研究グループは、エボラ出血熱の重症化メカニズムを明らかにするために、2013~2016年の西アフリカにおけるエボラ出血熱の流行で、最も多くの感染者を出したシエラレオネ共和国において、エボラ感染者から採取した血液サンプルを用いて、宿主応答解析を行いました。具体的には、シエラレオネ大学および関連医療機関と連携して、感染の様々なステージ(感染初期・中期、死亡前、あるいは回復後)において、エボラ患者群から血液サンプルを採取しました。サンプルを採取した患者の総数は20名であり、そのうち生存者は11名であり、死亡者は9名でした。またコントロール群として、10名の非感染者からも血液サンプルを採取しました(図2)。11名の生存者からは、1)発症時、2)第一回目の採血から5~7日後、3)第二回目の採血から5~11日後、というように合計3回の経時的サンプリングを行いました。採取した血液サンプルから分離した血漿と末梢血単核球を用いて、プロテオーム(蛋白質)・メタボローム(代謝物)・リピドーム(脂質)・トランスクリプトーム(遺伝子)を包括的に調べるマルチオミックス解析を行いました。

プロテオーム解析の結果から、死亡者において、血漿中の膵分泌に関わる蛋白質(膵トリプシン、膵リパーゼなどの膵酵素)の発現量が多いことが分かり、エボラウイルス感染が膵臓障害を引き起こし、大量の膵酵素が血中に放出されることによって、他臓器の障害や血液凝固不全などの全身症状につながる可能性が示唆されました。また、トランスクリプトーム解析の結果から、死亡者では、好中球のマーカー遺伝子や好中球の活性化や分化に関わる遺伝子の発現が著しく亢進していることが分かりました。また死亡者の血中には、正常な好中球よりも低い密度の好中球(Low density neutrophils; LDNs)が存在することが分かり、さらにLDNsがTリンパ球の機能異常や好中球による組織障害に関与する可能性が示されました。以上の結果から、エボラの重症化には、好中球が重要な役割を果たすことが判明しました。 さらに本研究グループは、メタボローム・リピドーム・プロテオーム解析の結果から、エボラウイルス感染後の生死と相関がある因子群を同定しました。これらの因子はエボラ出血熱が重症化するかどうかを予測するバイオマーカーとなることが期待されます。その中でも血漿中代謝物であるL-スレオニンと血漿中蛋白質のビタミンD結合蛋白質がバイオマーカーとして最も有望であることが明らかとなりました。

③社会的意義

本研究では、エボラ出血熱の重症化メカニズムを解明するため、2013~2016年の西アフリカの流行の際にエボラ患者から採取した血液サンプルを用いてマルチオミックス解析を行いました。その結果、1)エボラ重症患者の体内で起こる組織障害には、膵酵素分泌や、好中球によって誘起された免疫系の異常反応が関与する可能性が示され、エボラ出血熱の重症化メカニズムの一端が明らかとなりました。さらに、2)エボラウイルス感染後の患者の生死と相関する発現パターンを示す因子を同定しました。 これらの因子は、エボラ出血熱の重症化を予測しうる有望なバイオマーカーとなりうると考えられます。 本研究から得られる知見は、今後のエボラ出血熱の流行発生時における公衆衛生対策に大きく貢献することが期待されます。

発表雑誌

雑誌名:
Cell Host & Microbe(11月16日オンライン版)
論文タイトル:
Multi-Platform 'Omics Analysis of Human Ebola Virus Disease Pathogenesis
著者:
河岡義裕

問い合わせ先

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東京大学医科学研究所 感染・免疫部門ウイルス感染分野
教授 河岡 義裕(カワオカ ヨシヒロ)
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E-mail:kawaoka"AT"ims.u-tokyo.ac.jp

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戦略推進部 感染症研究課
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-7-1
Tel:03-6870-2225
E-mail:shinkou-saikou"AT"amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス"AT"の部分を@に変えてください。

用語解説

注1)エボラウイルス、エボラ出血熱
エボラ出血熱は、エボラウイルスに感染することによって起こる感染症で、感染したヒトまたは動物の血液などの体液と直接接触した場合に感染する危険がある。致死率が高く、さらに未だに確立された予防・治療法がないため、公衆衛生上深刻な問題となっている。
注2)マルチオミックス解析
マルチオミックス解析とは、生体の持つ分子情報を、ゲノム(遺伝子)、トランスクリプトーム(遺伝子発現)、プロテオーム(蛋白質)、メタボローム(代謝物)、リピドーム(脂質)など様々な階層で、網羅的に計測して分析する解析である。
注3)バイオマーカー
血液、尿、唾液などの体液や組織に含まれる、蛋白質や遺伝子などの生体内の物質で、疾患の状態や進行度、治癒の程度などと相関する生物指標化合物である。

添付資料

図1:エボラウイルスの電子顕微鏡写真
図1:エボラウイルスの電子顕微鏡写真
(左図)細胞に感染させた、エボラウイルスの形状を走査型顕微鏡にて観察しました。写真中のバーは2μm(マイクロメートル)の大きさを示します。(右図)透過型電子顕微鏡で撮影したエボラウイルス。

電子顕微鏡写真提供:京都大学ウイルス・再生医科学研究所 野田岳志 教授

図2:エボラ感染者における宿主応答解析
図2:エボラ感染者における宿主応答解析
シエラレオネにおいて、エボラ患者から採取した血液サンプルを用いて、トランスクリプトーム、メタボロミクス、リピドミクス、プロテオミクスなどのマルチオミックス解析を行いました。その結果、エボラウイルス感染後に死亡した患者において、膵酵素分泌や、好中球によって誘起された免疫系の異常反応が組織障害に関与することが示され、エボラ出血熱の重症化メカニズムの一端が明らかとなりました。さらに重症患者において特異的な発現パターンを示す宿主因子が同定され、これらの因子は病気の帰結を評価しうるバイオマーカーとして有望であることが分かりました。

 

最終更新日 平成29年11月17日