プレスリリース メタボ関連肝がんに特異的なバイオマーカーを発見―メタボ関連肝がんの新たな治療法・予防法開発への応用に期待―

プレスリリース

国立大学法人東京医科歯科大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

ポイント

  • 肥満・糖尿病・脂質異常症などメタボリック症候群が肝がん発症の危険因子として注目されていますが、このような「メタボ関連肝がん」の特異的バイオマーカーは明らかではありませんでした。
  • 本研究では、ヒトおよびマウスのメタボ関連肝がんで共通して高発現する遺伝子として脂肪酸結合蛋白FABP4*1同定し、FABP4を過剰発現している活性化肝星細胞ががん微小環境を調節している可能性が示唆されました。
  • 本研究の成果により、腫瘍内肝星細胞におけるFABP4発現が、メタボ関連肝がんの新たなバイオマーカーであることが明らかとなり、新たな治療標的としても期待されます。

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 分子腫瘍医学分野の田中真二教授、島田周助教、秋山好光講師、千代延記道大学院生の研究グループは、九州大学大学院医学研究院病態制御内科学分野の小川佳宏教授、名古屋大学環境医学研究所分子代謝医学分野の菅波孝祥教授、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科ウイルス制御学分野の山岡昇司教授、肝胆膵外科学分野の田邉稔教授との共同研究で、ヒトとマウスのメタボ関連肝がんを用いた異種間クラスタリング解析によって共通して高発現する遺伝子を同定し、メタボ関連肝がんにおける悪性化メカニズムの一端を世界で初めて明らかにしました。この研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)肝炎等克服緊急対策研究事業、次世代がん医療創生研究事業(P-CREATE)、文部科学省科学研究費補助金、高松宮妃がん研究基金研究助成金等のもとにおこなわれたもので、その研究成果は、米国病理学雑誌American Journal of Pathology(アメリカンジャーナルオブパソロジー)に2018年2月15日(米国時間)にオンライン版で発表されました。


図1.ヒト肝がんおよびメタボマウス肝がんのクラスタリング解析
ヒト肝がん手術検体とメタボマウス肝がんのクラスタリング解析によりメタボ関連肝がんで共通して高発現する遣伝子群を抽出した

図2.ヒト肝がん組織のFABP4発現
ヒト肝組織での発現部位を解析した結果、FABP4が腫瘍内活性化肝星細胞に特異的に過剰発現していた

研究の背景

ヒト肝がんとマウス肝がんの遺伝子発現比較は報告されていますが、メタボ関連肝がんに着目した解析は初めてです。本研究では、ヒト肝がん手術検体およびマウスメタボ関連肝がんの遺伝子発現についてクラスタリング解析を行い、メタボ関連肝がんサブタイプ*2を同定しました。さらに、そのサブタイプにおいてFABP4が発現上昇していることを発見したことから、FABP4のメタボ関連肝がんにおける特異的バイオマーカーとしての特徴と役割について解析しました。

研究成果の概要

本研究チームは、メタボ関連肝がん発症モデルとしてメラノコルチン4受容体*3欠損(MC4R-KO)マウスを報告しています。そこで、ヒト肝がん手術検体とMC4R-KOマウス肝がんのクラスタリング解析を行い、メタボ関連肝がんで共通して高発現する9遺伝子を抽出しました(図1)。肝組織での発現部位を解析した結果、候補遺伝子の中でもFABP4が腫瘍内活性化肝星細胞に特異的に過剰発現していることが示されました(図2)。次に、FABP4過剰発現肝星細胞を作製し、マイクロアレイを利用して網羅的遺伝子解析を行ったところ、炎症性サイトカインの発現上昇が認められ、特にNFκB経路の活性化とFABP4の発現量が相関することが示唆されました。NFκBの蛍光免疫染色の結果、FABP4過剰発現肝星細胞ではNFκB経路の活性化を示すNFκB核内移行が認められ、FABP4過剰発現肝星細胞がマクロファージを活性化させることが判りました(図3)。ヒト肝がん臨床症例を用いた解析では、肥満・糖尿病・脂質異常症などメタボリック因子の合併が増える程、腫瘍内活性化肝星細胞におけるFABP4発現も増えることを発見しました。

研究成果の意義

本研究は、ヒトと動物モデルであるマウスの異種間クラスタリング解析により、メタボ関連肝がんに共通する遺伝子FABP4を初めて同定しました。FABP4の発現上昇は肥満・糖尿病・脂肪肝炎などの発症と関連することが知られており、治療薬の開発も進められていますが、さらに卵巣がん、乳がんなど様々ながん種において重要な役割を持つことも報告されています。 今回の成果はメタボ関連肝がんにおける重要な発見であり、メタボ関連肝がんの新しいバイオマーカーとして臨床応用され、さらにFABP4を標的とした治療薬開発につながることが期待されます。


図3.メタボ関連肝がんにおける腫場宿主相互作用
脂肪酸、インスリンなどの刺激によって腫場内活性化肝星細胞のFABP4が過剰発現し、 NFκB活性化により分泌されたサイト力インがマクロファージ等を活性化させ、肝がんの悪性化進展を促す相互作用が示唆される

用語解説

*1:脂肪酸結合蛋白4(FABP4)
FABP4は脂肪細胞から同定された蛋白であり、生活習慣病の重要な調節因子であるとされています。
*2:サブタイプ
近年、肝がんの網羅的遺伝子解析によって、いくつかの亜型に分類されることが明らかになってきています。本研究では、メタボリック症候群を合併する肝がんに注目しました。
*3:メラノコルチン4受容体(MC4R)
視床下部に発現し、摂食や体重を調節するとされる遺伝子で、その遺伝子異常が遺伝性肥満症の原因となります。メラノコルチン4受容体欠損(MC4R-KO)マウスは高脂肪食を食べさせることで肥満・脂肪肝炎、そして肝がんを発症するため、メタボ関連肝がん実験モデルとして適していることが報告されています。

論文情報

掲載誌
American Journal of Pathology
論文タイトル
FABP4 overexpression in intratumoral hepatic stellate cells within hepatocellular carcinoma with metabolic risk factors

問い合わせ先

研究に関すること

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
分子腫瘍医学分野 田中 真二(タナカ シンジ)
TEL:03-5803-5184 FAX:03-5803-0125
E-mail:tanaka.monc”AT"tmd.ac.jp

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E-mail: cancer”AT"amed.go.jp

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掲載日 平成30年2月16日

最終更新日 平成30年2月16日