プレスリリース 低価格のiPS/ES細胞の培養方法の開発に成功―化合物を用いた合成培地―

プレスリリース

京都大学 高等研究院 物質-細胞統合システム拠点
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

京都大学 高等研究院 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)の長谷川光一(はせがわこういち)講師らの研究グループは、多能性幹細胞(iPS細胞やES細胞)を培養するための新たな合成培地(培養液)ならびにその培地を用いた培養方法の開発に成功しました。この合成培地は、人工的に合成した化合物を用いているため、材料費をこれまでの1/5から1/10に抑えることが可能となります。

これまで、多能性幹細胞の培養には「成長因子」とよばれるタンパク質が必須とされてきました。この成長因子は、培養細胞や大腸菌に作らせ精製した物で、培地の製造コストの大部分を占めていました。本研究では、化合物を用いることで、これらの成長因子を必要としない合成培地を開発し、この培地を用いた培養法の開発に成功しました。

多能性幹細胞の作製や利用には、大量の培地が必要です。これまで、多能性幹細胞の培地が高価なことが、iPS細胞を利用した再生医療や創薬、研究のコストの一因でした。この合成培地は、材料費が1/5から1/10で、これまでの他の培地と同様に多能性幹細胞を増やしたり、iPS細胞を作製したりすることができます。このため、この合成培地を用いることで、iPS細胞を利用した再生医療や創薬のコストを大きく下げることが可能となると期待できます。

本成果はグリニッジ標準時 2018年3月5日午後4時(日本時間6日午前1時)に、英出版社 Nature Publishing Group (NPG) の「Nature Biomedical Engineering」で公開されました。

背景

多能性幹細胞(iPS細胞やES細胞)の作製や利用には、大量の培地(培養液)が必要です。この培地は、研究用で1Lあたり5万円から7万円程度(材料を買い集めて研究室内で作製しても8万円を超えます)、臨床用で1Lあたり9万円から13万円程度と高価であり、このことはiPS細胞を利用した研究や創薬、臨床利用のコストを上げる一因となっています。

培地の成分の中で最も高価なものは、成長因子というタンパク質です。少なくとも2種の成長因子が必須となりますが、培養細胞や大腸菌に作らせ精製しなければならないためコストが上がります。成長因子を安価な低分子化合物で置き換える研究は世界中で行われていますが、 成功したという報告はこれまでされていません。iPS細胞を用いた研究や医療を更に広く発展させるため、成長因子を除いた安価な培地ならびに培養方法を開発することが求められています。

研究内容と成果

今回の研究では、これまで必須とされてきた成長因子を直接置き換えることを目指さず、そのかわりに多能性幹細胞を増殖させることができる化合物「1-Azakenpaullone」、分化を抑える化合物「ID-8」、増殖を加速させる化合物「Tacrolimus」を見つけ、これらを組み合わせることで成長因子を用いない合成培地の開発に成功しました。

また、この培地を用いた培養法によって複数の多能性幹細胞を長期に拡大培養させることができること、皮膚細胞や血液細胞からiPS細胞を作製可能なことが確認できました。このことから、この合成培地が、他の培地と同等の機能を持っていることが示されました。

この合成培地は、成長因子を用いないため、材料費は1Lあたり8000円程度であり、他の培地に比べて1/5から1/10のコストで作製できます。このため、iPS細胞を利用した研究や医療応用のコストを大きく削減可能だと期待されます。

今後の展開

安価な合成培地を用いた培養方法の開発に成功したことで、iPS細胞を利用した研究や創薬、医療応用のコストが削減され、これらが加速されることが期待されます。

今後の課題として、実用化を目指し、医療応用に向けての安全性の確認や、市販化に向けた耐久性の確認などを行っていく必要があります。

研究プロジェクトについて

本研究は、日本医療研究開発機構 再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業「ヒト多能性幹細胞由来の再生医療製品製造システムの開発(心筋・神経)」、日本学術振興会科学研究費補助金「若手研究A:24680052、基盤研究B:15H03022」、文部科学省 WPIプログラムの支援を受けて行われました。

論文タイトル・著者

“Chemically defined and growth-factor-free culture system for the expansion and derivation of human pluripotent stem cells”
(参考訳:ヒト多能性幹細胞の作製と拡大培養用の成長因子を含まない合成培養システム)

著者:
Shin-ya Yasuda, Tatsuhiko Ikeda, Hosein Shahsavarani, Noriko Yoshida, Bhavana Nayer, Motoki Hino, Neha Vartak-Sharma, Hirofumi Suemori, and Kouichi Hasegawa
Nature Biomedical Engineering
DOI:
10.1038/s41551-018-0200-7

iCeMSについて

京都大学 高等研究院 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)は、文部科学省「世界トップレベル研究拠点(WPI)プログラム」に平成19年度に採択され、平成29年にはその研究水準および運営が世界トップレベルであるとして、「WPIアカデミー拠点」に認定された研究拠点です。iCeMSでは、生物学、物理学、化学の分野を超えて新しい学問を作り、その学問を社会に還元することを目標に活動している日本で唯一の研究所です。その新しい学問からは、汚水や空気の浄化といった環境問題の解決、脳の若返りといった医療に役立つ可能性を秘めたとてつもないアイデアが次々と生まれています。

問い合わせ先

研究内容について

長谷川 光一(ハセガワ コウイチ)
京都大学 高等研究院 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)特定拠点講師
TEL:075-753-9858 FAX:075-753-9761
E-mail:khasegawa"AT"icems.kyoto-u.ac.jp

京都大学iCeMSについて

髙宮 泉水(タカミヤ イズミ)
京都大学 高等研究院 国際企画・広報掛
TEL:075-753-9755
E-mail:ias-oappr"AT"mail2.adm.kyoto-u.ac.jp

AMED事業について

国立研究開発法人日本医療研究開発機構 戦略推進部 再生医療研究課
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掲載日 平成30年3月6日

最終更新日 平成30年3月6日