プレスリリース 膵臓がんリスク疾患・早期膵臓がんの新検診法開発目指し新たなバイオマーカーでの実験的検診を北海道で実施

プレスリリース

国立研究開発法人国立がん研究センター
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜斉、所在地:東京都中央区)研究所(所長:間野博行)早期診断バイオマーカー開発部門の本田一文ユニット長らの研究チームは、膵臓がん(以下、膵がん)を引き起こす可能性の高い疾患(慢性膵炎・膵管内乳頭粘液性腫瘍など)および早期の膵がんを効率的に発見する検診法の開発を目指し、新しい血液バイオマーカーを用いた試験的膵がん検診の検証を行う臨床研究を 2019年4月より、北海道対がん協会が行うがん検診や健康診断で実施します。この研究は2017年度にスタートし、同年度と2018年度は鹿児島県と神戸市で実施してきましたが、2019年度は北海道で実施することになりました(2019年度は鹿児島県、神戸市では新規で血液検査による検診は行いません)。

このバイオマーカーは、血液中の「アポリポプロテインA2(apoA2)アイソフォーム*1」というタンパク質で、国立がん研究センター研究所や米国国立がん研究所(National Cancer Institute:NCI)、ドイツがん研究センター(DKFZ)、国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer, IARC)などの共同研究において、膵がんを引き起こす可能性の高い疾患や早期の膵がんを検出することの有効性が評価され、検査キットも開発されています。

この研究成果を踏まえ、2015年から神戸大学などと共同で膵がん検診研究を試行し、バイオマーカーの異常があった方から、膵がんのリスク疾患や膵がんを発見できることを確認しています。しかし、先行研究では血液バイオマーカー検査で陽性反応がみられても、被験者のご希望でその後の精密検査を実施していたこともあり、精密検査を受けられる方が少ないなど、バイオマーカーの有用性を科学的に証明するのに必要なデータを確保できませんでした。

そのため今回の研究では、ご参加いただく被験者の方には、血液によるバイオマーカー検査と、バイオマーカー陽性者にはその後の画像検査(原則として造影CT検査)による精密検査をセットで受けていただきます。2019年度の登録の目標は約5,000人です。2017年度、2018年度に実施した分と合わせて約15,000人を目指します。

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)革新的がん医療実用化研究事業「血液バイオマーカーを用いた効率的な膵がん検診の実用化(研究代表者 本田一文)」の支援を受け、2017年度より、国立がん研究センターと日本対がん協会、鹿児島県民総合保健センター、鹿児島大学、鹿児島市立病院、出水総合医療センター、横浜市立大学、神戸大学、金沢大学、滋賀医科大学がチームを組んで実施しました。2019年度は北海道対がん協会札幌がん検診センター、北海道大学のみで行います。

膵がんは、早期発見が難しい難治がんです。検診での採血による効率的な検診法を確立できれば、膵がんによる死亡率の低下が期待できます。国立がん研究センターでは、膵がんのリスク疾患や膵がんを早期発見するための血液を用いた指標(バイオマーカー)の開発に挑戦しています。

概要図 充足されていない医療ニーズ ①膵がんは、固形がんで最悪な5・10年生存率(死亡率4位)。低侵襲早期診断法の開発が必須。②膵がんは低頻度罹患率のため、医療経済性に見合った検診プログラムの開発が必要。詳細は本文中に掲載。

2019年度の試験的膵がん検診の概要

検診実施場所
北海道対がん協会札幌がん検診センターが実施するがん検診や地域健康診断、人間ドック
目標参加者数(北海道での参加者目標)
約5,000人(50歳以上の札幌市民)
検診実施期間
2019年4月から11月まで(目標登録数に到達次第終了)
臨床研究の実施方法
  1. 検診での採血7mLを用い、1次ふるいわけ検査(1次スクリーニング検査)として血液中のアポリポプロテインA2アイソフォームの濃度バランスを計測します。
  2. 血液検査結果は被験者にお知らせして、異常値がみられた方には北海道大学病院で、精密検査(2次検査)として造影CT検査(原則)を受けていただきます。
  3. 血液検査陽性者(1次スクリーニング検査陽性者)の中から、どれくらいの頻度で膵がんのリスク疾患や早期膵がんが見つかるのか、その検出率(陽性反応適中率)を調べます。
注意点
  1. 本臨床研究には該当検診機関が定める検診を受けていただいた50歳以上の方のみ参加いただけます。バイオマーカー検査のみをご希望の方はご参加いただけません。
  2. 本検査は、試験的に行う検査ですので、「病気がないのに、誤って陽性になること(偽陽性)」や「病気があるのに、誤って陰性になること(偽陰性)」の可能性があります。そのため、陽性と判定されても必ずしもがんがあるわけではありませんし、陰性と判定されても、がんが否定されたわけではありません。
北海道で実施する理由
北海道は膵がんの罹患率が高いこと(このほど公表された全国がん登録によりますと、膵がんの罹患率<男女>で44.4と、全国で最も高かった)、北海道対がん協会(日本対がん協会北海道支部)は、精密検査受診率が高いなど、検診体制が整っていることから、今回の臨床研究実施場所に選ばれました。

用語説明

*1 アイソフォーム:
タンパク質の構造や機能が似通った分子の総称。ApoA2 アイソフォームの場合、apoA2タンパク質が2量体を形成して、血液中を循環しており、C末端のアミノ酸構造がそれぞれ異なる 5種類のタンパク質を指す。

研究費

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)革新的がん医療実用化研究事業 領域2 がん予防や新たな検診手法の実用化を目指した大規模疫学研究
「血液バイオマーカーを用いた効率的な膵がん検診の実用化」 研究代表 本田一文

参考資料

  1. Honda K, Katzke VA, et al. CA19-9 and apolipoprotein-A2 isoforms as detection markers for pancreatic cancer: a prospective evaluation. Int J Cancer. 2019 Apr 15;144(8):1877-1887.
  2. Honda K, Srivastava S. Potential usefulness of apolipoprotein A2 isoforms for screening and risk stratification of pancreatic cancer. Biomark Med. 2016 Nov;10(11):1197-1207.
  3. Honda K, Kobayashi M, et al. Plasma biomarker for detection of early stage pancreatic cancer and risk factors for pancreatic malignancy using antibodies for apolipoprotein-AII isoforms. Sci Rep. 2015 Nov 9;5:15921. doi: 10.1038/srep15921.

お問い合わせ先

検診に関する一般の方からのお問い合わせ先

検診実施場所・日時情報のお問い合わせなど
公益財団法人北海道対がん協会札幌がん検診センター
札幌市東区北26条東14丁目1-15
TEL:011-748-5522

報道関係のお問い合わせ先

研究について
国立研究開発法人国立がん研究センター企画戦略局 広報企画室
〒104-0045 東京都中央区築地 5-1-1
TEL:03-3542-2511 FAX:03-3542-2545
E-mail:ncc-admin“AT”ncc.go.jp

検診実施について
公益財団法人日本対がん協会(研究事務局)
がん検診研究グループ 小西 宏
東京都中央区銀座7-16-12 G7ビル9階
TEL:03-3541-4771
E-mail:konishi“AT”jcancer.jp

革新的がん医療実用化研究事業に関するお問い合わせ

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) 戦略推進部 がん研究課
〒100-0004 東京都千代田区大手町一丁目7番1号
TEL:03-6870-2221
E-mail:cancer“AT”amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

掲載日 平成31年3月25日

最終更新日 平成31年3月25日