プレスリリース 東大開発のエボラワクチンの第Ⅰ相臨床試験を開始
プレスリリース
東京大学
日本医療研究開発機構
発表者
四柳 宏(東京大学医科学研究所附属病院 感染免疫内科 教授)
河岡 義裕(東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 ウイルス感染分野 教授
発表のポイント
- エボラワクチンの第Ⅰ相臨床試験を、東京大学医科学研究所附属病院にて実施する。
- 本ワクチンは、ウイルス遺伝子の一部を欠損した変異エボラウイルスをベースとしている不活化ワクチンのため、安全性が高いとされている。また、複数のウイルス蛋白を含むため効果が高いことが期待される。
- 本試験は、エボラウイルス感染症に対する効果的な治療法や予防法の確立に向けた大きな一歩となる。
発表概要
東京大学医科学研究所附属病院では、四柳宏教授らが、エボラ出血熱の予防が期待されるワクチン“iEvac-Z”について、2019年12月より、成人男性のボランティアの協力を得て、第Ⅰ相臨床試験(注1)を実施します。
2014~2016年に発生した西アフリカにおけるエボラ出血熱のアウトブレイク(注2)では、28,639名の感染者が報告され、そのうち11,316名が犠牲となりました。現在はコンゴ民主共和国でアウトブレイクが起きており、これまでに3,228名に感染者が報告され、そのうち2,157名が犠牲となっています。そのため、エボラ出血熱の予防および治療の方法を確立することは最重要課題となっています。
これまでに、東京大学医科学研究所の河岡義裕教授らは、ウイルス遺伝子の一部を欠損変異させたエボラウイルスを薬剤で不活化(注3)し、その不活化変異ウイルスをワクチンとして接種したサルが、野生型のエボラウイルスの感染を防御することを明らかにしました。本試験で使用する試験薬iEvac-Zは、この変異エボラウイルスをもとに、米国ウィスコンシン大学のWaisman Biomanufacturingにおいて、製造品質管理基準(GMP)に準拠して製造したものです。本ワクチンのヒトでの投与例は国内外ともになく、本試験がFirst in Humanの試験(注4)となります。
発表内容
研究の背景と経緯
エボラ出血熱は、エボラウイルスの感染によって引き起こされる急性熱性疾患であり、突然の発熱と共に疼痛、脱力感等のさまざまな症状が出現します。その病原性は極めて高く、致死率50~90%を示すウイルス種もあります。
1976年にスーダンとコンゴ民主共和国(旧ザイール)で初めて確認されて以来、アフリカで断続的に発生しており、アウトブレイクも何回か報告されています。2014~2016年に発生した西アフリカにおけるエボラ出血熱のアウトブレイクでは、28,639名の感染者が報告され、そのうち11,316名が犠牲となりました。また、その後も散発的な報告が続き、最近では2018年にコンゴ民主共和国において、エボラ出血熱のアウトブレイク宣言が出され、2019年10月現在も流行は続いています。これまでに3,228名の感染者が報告され、そのうち2,157名が犠牲となっています(2019年10月18日時点)。
今のところ、エボラ出血熱に対する効果的な治療法は無く、ワクチンも実用化に至っていませんが、海外ではさまざまなタイプのワクチンが開発されています。そのうち2種類は西アフリカでのアウトブレイク中にWHO主導のもと臨床試験が行われました。1種目のワクチンは500名に接種し効果が認められましたが、ワクチン製造に大量のウイルスを必要とするため、製造の効率化が大きな課題となっています。2種目のワクチンは約1万名に近い規模で臨床試験を実施し、効果が認められましたが、重篤な副作用が80名で認められ、そのうち2名はワクチンが原因と判断されています。そのため、今後も安全性については注意深い検証が必要です(注:後者のワクチンは、11月半ばに欧州連合で承認されました)。
以上のように、上記の2種類のワクチンについては、製造効率あるいは安全性が懸念されているため、より製造効率が高く安全な次世代のワクチン開発が期待されています。
研究の内容
東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 ウイルス感染分野 河岡義裕教授の研究室では、米国ウィスコンシン大学と連携して、安全で効果的なエボラワクチンを開発するために、エボラウイルスの増殖にとって必須のウイルス蛋白質VP30をコードする遺伝子を欠損させた変異エボラウイルス(エボラΔVP30ウイルス)を作製しました。本ウイルスは、通常の細胞では増殖しませんが、VP30蛋白質を発現する人工細胞で効率良く増殖します(図)。このエボラΔVP30ウイルスは、VP30蛋白質を発現する人工細胞でしか増殖できないため高い安全性が期待でき、さらにエボラウイルスのほぼ全てのウイルス蛋白質を有するため、他のワクチンよりも高い有効性が期待できます。不活化したエボラΔVP30ウイルスをワクチンとして接種したサルに、致死量の野生型エボラウイルスを感染させたところ、免疫群のサルは全て生き残りました(Marzi et al. Science 2015)。以上の結果から、不活化したエボラΔVP30ウイルスは、安全性が高く、効果的なエボラワクチンとして有望であることが示されました。
本臨床試験で使用する試験薬iEvac-Zは、上記のエボラΔVP30ウイルスを、VP30蛋白質を発現させた人工細胞で増殖させ、β‐プロピオラクトンという物質で不活化したものです。β‐プロピオラクトンはワクチンの製造過程で全て除去されており、最終的な試験薬には残っていないことが確認されています。また、β‐プロピオラクトン処理後のエボラΔVP30ウイルスは、完全に感染力を失っていることを実験的に証明しているため、本ワクチンの安全性は非常に高いと言えます。
iEvac-Zの製造は、米国ウィスコンシン大学のWaisman Biomanufacturingにおいて、製造品質管理基準(GMP)に準拠して行われました。同施設における本製剤の製造基準に関しては、城野コンサルティングの城野洋一郎博士(日本ワクチン学会理事)によって、日本の治験薬GMPの基準に適合していることが確認されています。
本製剤は、厚生労働省およびAMED(新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業)の支援を受けて、東京大学医科学研究所で開発したものです。河岡らは、米国ウィスコンシン大学においてGMPに準拠して製造したiEvac-Zワクチンについて、その有効性と安全性をサルモデルで検証しました(非臨床試験)。本製剤を用いて、東京大学医科学研究所附属病院において、TR・治験センター(センター長:長村文孝教授)と連携しつつ、ヒトにおける臨床試験を実施します(試験責任医師:附属病院感染免疫内科 四柳宏教授)。これまでにおいて本製剤のヒトでの投与例は国内外ともになく、本試験がFirst in Humanの試験となります。
今後の展開
本臨床試験は、健康成人の男性を対象として、iEvac-Zを4週間の間隔にて2回投与した際の安全性を評価します。またエボラウイルスに対する免疫の反応を調べることによって、ワクチン効果を評価します。本試験の成果は、エボラウイルス感染症の制圧に向けて大きな一歩となることが期待されます。
用語解説
- (注1)第Ⅰ相臨床試験:
- 少数の健常人を対象として、試験薬の安全性および体内動態を確認するための試験。
- (注2)アウトブレイク:
- 一定期間内に特定の地域や集団で、感染症が予想より多く発生すること。
- (注3)不活化:
- 活性を失わせること。ここでは、ウイルスの感染性を失わせること。
- (注4)First in Human試験:
- ヒトに初めて試験薬を投与する試験。
お問い合わせ先
臨床試験の詳細に関するお問い合わせ先
東京大学 医科学研究所 附属病院 感染免疫内科
教授 四柳 宏(ヨツヤナギ ヒロシ)
〒108-8639 東京都港区白金台4-6-1
Tel:03-5449-5250
E-mail:yotsudid “AT” ims.u-tokyo.ac.jp
当該ワクチンの詳細に関するお問い合わせ先
東京大学 医科学研究所 感染・免疫部門 ウイルス感染分野
教授 河岡 義裕(カワオカ ヨシヒロ)
〒108-8639 東京都港区白金台4-6-1
Tel:03-5449-5310 Fax:03-5449-5408
E-mail:kawaoka “AT” ims.u-tokyo.ac.jp
臨床試験に関するお問い合わせ先
東京大学医科学研究所附属病院TR・治験センター
Tel:03-5449-5462(直通)(平日午前9時~午後5時)
E-mail:dctsm “AT” ims.u-tokyo.ac.jp
AMEDの事業に関すること
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
戦略推進部 感染症研究課
Tel: 03-6870-2225
E-mail:shinkou-saikou “AT” amed.go.jp
※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。
掲載日 令和元年12月5日
最終更新日 令和元年12月5日