プレスリリース ビッグデータの解析により日本人女性の月経周期と基礎体温に新知見―月経周期や高温期の基礎体温は年齢によって大きく変化―

プレスリリース

国立大学法人東京医科歯科大学
国立研究開発法人国立成育医療研究センター
株式会社エムティーアイ
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

ポイント

  • 世界的に前例のない規模の日本人女性31万人、600万月経周期のビッグデータを解析し、米国産婦人科学会(The American College of Obstetricians and Gynecologists: ACOG)の機関紙に論文が掲載されました。
  • 平均月経周期は23歳で最も長く、45歳にかけて徐々に短くなり、その後また長くなる年齢変化を示しました。また、基礎体温は低温期が年齢によらず一定である一方、高温期が年齢により変化し、30代で最も高いことがわかりました。
  • これらの成果は日本人の月経周期や基礎体温に関する基盤情報をアップデートするものであり、一人一人の女性が妊娠・出産・子育てのライフステージを考えていく際、自分自身の月経周期や基礎体温の状態をより正しく把握するために役立つと考えられます。

東京医科歯科大学(所在地:東京都文京区、学長:田中 雄二郎)周産・女性診療科 辰巳 嵩征 助教(茨城県小児周産期地域医療学講座)と 国立成育医療研究センター(東京都世田谷区、理事長:五十嵐 隆)の分子内分泌研究部 鳴海 覚志 室長、社会医学研究部 森崎 菜穂 室長、三瓶 舞紀子 研究員らと株式会社エムティーアイ(東京都新宿区、代表取締役社長:前多 俊宏)は共同研究として女性の健康情報サービス「ルナルナ(エムティーアイ)」を用いて日本人女性31万人、600万月経周期のビッグデータを解析し、月経周期や基礎体温が年齢により変化することを明らかにしました。研究成果は世界で最も権威ある産婦人科の国際医学雑誌の一つであるObstetrics & Gynecologyに2020年9月10日午後5時(米国東部夏時間)にオンライン版)にオンライン版で発表されます。2020年1月23日に国立成育医療研究センターと株式会社エムティーアイが概要を発表していますが、今回論文が掲載されましたので詳細をご報告いたします。

研究の背景・目的

ヒトの月経周期や基礎体温はホルモンによって制御されています。また、基礎体温は排卵が行われた後に分泌される女性ホルモンであるプロゲステロン※1の作用を受けて上昇するため、基礎体温を毎日測定することで排卵しているかどうかを推測できます。現在広く知られている月経周期や基礎体温の平均値や個人差、年齢変化に関する知識は1950年代の研究調査に基づいたものです。これらの知見が得られた時代の環境(食生活・生活習慣・教育水準)は現代とは大きく異なり、現代の日本人女性にとって基盤となるようなデータは今までにありませんでした。

今回、研究チームは、女性の健康情報サービス「ルナルナ」(株式会社エムティーアイ)を通じて記録された日本人女性31万人、600万月経周期のビッグデータを解析し、月経周期、基礎体温と年齢、季節の関係を調査しました。また、均一な人種背景・生活習慣・教育水準を持ちながら、国土が南北に長い日本の特徴を活かして、気候と月経周期、基礎体温の関係を検討しました。

研究成果の概要

1)月経周期と基礎体温の年齢変化

研究対象者の平均月経周期は10代から20代にかけ徐々に長くなり、23歳で平均30.7日と最も長くなりました。その後30代から40代前半にかけ徐々に短縮し、45歳で平均27.3日と最も短くなり、以降は再び長くなりました(図1)。基礎体温について、卵胞期※2の平均体温は年齢変化がなく36.4度でほぼ一定でした。一方、黄体期※3の平均体温は10代から20代後半にかけて徐々に上昇し、29歳で36.7度まで上昇した後30代では安定し、42歳を過ぎると下降することが分かりました。また地域ごとの気候が月経周期や基礎体温へ与える影響を加味した、より厳密な検討を一般化推定方程式と呼ばれる統計手法で行い、これらの年齢変化の妥当性を確認しました。

図1: 年齢による月経周期日数・卵胞期体温・黄体期体温の変化
月経周期・黄体期体温は年齢により大きな変化を示す。卵胞期体温は年齢によらず一定の値を示す。実線は5%trim平均、破線は標準偏差。

2)月経周期、基礎体温と季節の関係

月経周期は季節による変動はありませんでしたが、基礎体温は卵胞期・黄体期ともに季節変動を示し、夏に高く、冬に低くなることが明らかになりました(図2)。

図2:季節による月経周期日数・卵胞期体温・黄体期体温の変化
各々の暦月における月経周期日数・卵胞期・黄体期体温の人数分布を色で表現したヒートマップ。より赤いほど人数が多く、より青いほど人数が少ない。月経周期日数は季節によらず一定の人数分布を示す。卵胞期体温・黄体期体温は季節による変化を示し、夏には高く冬には低い傾向がみられる。

3)気温・降水量・日照時間と基礎体温

基礎体温の季節変動に関わる要素をより厳密に調べる目的で、北海道と沖縄の気温・降水量・日照時間と、それぞれに居住する女性の基礎体温との関連を重回帰分析で調べました。その結果、気温と基礎体温の間に相関関係があることがわかりました(図3)。

図3:暦月における平均外気温と卵胞期体温
北海道および沖縄の平均外気温と、それぞれに居住する女性の卵胞期体温の比較。両地域の平均外気温と相関するような卵胞期体温の季節性変化が示される。

研究成果の意義

現代の女性をとりまく環境やライフスタイルは1950年代と比べて大きく変化し、初婚年齢は29歳を超え、第一子を出産する年齢も上昇しています。本研究では、卵巣の中の卵子の個数が年齢とともに減っていくように、月経周期も変化していくことがわかりました。また、日本人女性の月経周期や基礎体温について、年齢を考慮した平均値と個人差の幅が初めて示されました。これらのデータは、各々の女性が自分の月経周期・基礎体温の状態が標準的なのか、あるいは標準から離れているのかを考える上で目安とすることができます。このことは、過剰な不安を取り除き、また月経不順や妊娠しにくさについての医療受診を適切なタイミングで行う上で役立つことが期待されます。

現在、研究チームは月経周期により詳しい個別データと生物学的データを結びつけた「ユーザー参加型研究」 を行っており、女性の社会経済的状況がこころやからだの健康を通して、月経不順や妊娠にどのような影響を与えるかを調べています。今後も、女性が活躍しやすく子どもを産みやすい社会を実現するために役立つ質の高いエビデンスの創出を目指します。

用語解説

※1 プロゲステロン
女性ホルモンの一つで、体内で産生される内因性のステロイドホルモンです。排卵後に形成された黄体から産生され、視床下部の体温中枢に作用することで基礎体温を0.3から0.5度上昇させるといわれています。このホルモンの作用で子宮内膜が着床準備状態になります。
※2 卵胞期
基礎体温の低温期にあたります。卵巣で排卵に向けて卵胞が発育していく時期です。
※3 黄体期
基礎体温の高温期にあたります。排卵後卵巣で黄体が形成され、プロゲステロンが分泌されます。黄体期がなく基礎体温が一相性の場合には、排卵していない可能性が高いと考えます。

論文情報

掲載雑誌:
Obstetrics & Gynecology
論文タイトル:
Age-dependent and seasonal changes in menstrual cycle length and body temperature based on big data
著者:
Takayuki Tatsumi *, Makiko Sampei, Kazuki Saito, Yuka Honda, Yuka Okazaki, Naoko Arata, Kanako Narumi, Naho Morisaki, Tomonori Ishikawa, and Satoshi Narumi.

謝辞

本研究は日本医療研究開発機構(AMED)の女性の健康の包括的支援実用化研究事業における研究開発課題「プレコンセプションの女性に着目した疾患予防に関する総合的ケア方法の確立」の一環として行われました。

お問い合わせ先

研究に関するお問い合わせ先

東京医科歯科大学 医学部附属病院 周産・女性診療科
大学院医歯学総合研究科 茨城県小児周産期地域医療学講座
助教 辰巳 嵩征(たつみ たかゆき)
TEL:03-5803-5833 FAX:03-5803-0272
E-mail:ttatcrm"AT"tmd.ac.jp

広報担当者連絡先

国立大学法人東京医科歯科大学
総務部 総務秘書課 広報係
TEL:03-5803-5833 FAX:03-5803-0272
E-mail:kouhou.adm"AT"tmd.ac.jp

国立研究開発法人国立成育医療研究センター
企画戦略局 広報企画室 近藤・村上
TEL:03-3416-0181
E-mail:koho"AT"ncchd.go.jp

株式会社エムティーアイ 広報室
TEL:03-5333-6755
E-mail:mtipr"AT"mti.co.jp

AMED事業に関する問い合わせ先

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
ゲノム・データ基盤事業部 医療技術研究開発課
TEL:03-6870-2221 
E-mail:wise-ask"AT"amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス"AT"の部分を@に変えてください。

掲載日 令和2年9月11日

最終更新日 令和2年9月11日