プレスリリース 10万人の全ゲノム解読を目指した、統合解析コンソーシアムの設立―産官学の連携による大規模解析の実現へ―

プレスリリース

東北大学東北メディカル・メガバンク機構
日本医療研究開発機構

発表のポイント

  • 東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)と製薬企業5社の参画による「全ゲノム情報と医療・健康情報の統合解析コンソーシアム」が2021年3月にスタートしました。
  • 本コンソーシアムを通じて、既解析分等とあわせ総計10万人分の全ゲノム解析データを構築することを目指すと共に、全ゲノム情報と東北メディカル・メガバンク計画による各種情報とあわせて統合的な解析を行い革新的な医薬品開発を推進します。

概要

現在、世界中で全ゲノム解析データの数十万~百万規模への大規模化に向けた取組が続けられていますが、我が国では総計で数万程度までにとどまっています。こうした中、製薬企業を中心に日本人を対象としたゲノム研究の基盤の拡充を求める声が高まっていました。

この度、ToMMoは、製薬企業であるエーザイ株式会社、小野薬品工業株式会社、武田薬品工業株式会社、第一三共株式会社およびヤンセンファーマ株式会社の5社と産学連携によるコンソーシアム「全ゲノム情報と医療・健康情報の統合解析コンソーシアム」を正式に発足させる運びとなりました。本コンソーシアムでは、既解析分等とあわせ総計10万人分の全ゲノム解析データを構築することを目指すと共に、全ゲノム情報と東北メディカル・メガバンク計画のコホート調査によりバイオバンク*1に蓄積されている各種情報とあわせて統合的な解析を行い革新的な医薬品開発を推進します。

本コンソーシアムの活動は、医薬品開発を中心に、我が国の幅広いゲノム研究を推し進め、個別化・精密化医療の実現に貢献する基盤となることが期待されます。

詳細

背景

現在、世界中で全ゲノム解析データの大規模化に向けた取組が続けられており、欧米では既に10万人規模の全ゲノム解析データの構築が実行されています。我が国ではこれまでに、東北メディカル・メガバンク計画による8,000人規模の解析などをはじめ総計で数万の全ゲノム解析が実施され、更にがん・難病の患者を対象とした大規模な解析計画などが立てられていますが、欧米からはやや取組が遅れてきました。こうした中、日本の産業界でも製薬企業を中心に日本人を対象としたゲノム研究の基盤を求める声が高まってきました。

経緯

我が国の研究開発志向型の製薬企業74社(2021年4月1日現在)が加盟する日本製薬工業協会(製薬協)は、2019年に発表した「製薬協 政策提言 2019」*2の中で、“東北メディカル・メガバンクの前向きゲノムコホート研究データの基盤整備・拡充と利活用推進”と言及しています。この提言を受けて、製薬協とToMMoは、広範な協力関係の構築を行い、2020年1月31日に連携協定書を締結しました。また、2021年に公開された「製薬協 政策提言2021」*3においても、「公的資金をベースにToMMoと製薬企業で共同して10万人規模の全ゲノム解析を実施」することの必要性について言及されています。

ToMMoは、武田薬品工業株式会社との間で、2020年4月から、我が国のゲノム医療の大規模な基盤構築を目指した共同研究を開始しました。本共同研究ではToMMoのコホート調査*4に参加した一般住民約1万人分の全ゲノム解析を進めています。

こうした大規模な全ゲノム解析の推進の重要性が認識され、令和2年度の補正予算において、「官民共同10万人全ゲノム解析の実現」として本コンソーシアムの成立を念頭にした大規模な予算措置も行われています。

なお、日本医療研究開発機構(AMED)は研究開発補助事業「東北メディカル・メガバンク計画」の実施を通して、ToMMoの取り組むゲノムコホート研究、ゲノム情報解析を支援してきました。

コンソーシアムの進捗と展望

本コンソーシアム参画企業は、ToMMoが実施しているコホート調査参加者のゲノム解析情報をはじめとした各種解析情報やアンケート調査・血液検査などに由来する多様な情報を統合的に解析して革新的な医薬品開発を推進します。参画各社は、それぞれの関心領域に応じて研究計画を立案し、倫理審査委員会等の審査を経てToMMoとの共同研究により多様なデータを利活用し、データ利活用の対価としてコンソーシアム費用をToMMoに支払います。現時点で、参画各社の過半数の研究計画が承認されて研究実施に至っています。また、ToMMoは既に解析済みの分などを含めて2021年度末までに6万人分のシークエンス解析(ウェット解析)を完了し、各社が研究計画に応じて利活用することが可能な全ゲノム解析情報は、解析の進捗によってその後段階的に増加していきます。本コンソーシアムでは、統合的な解析により革新的創薬を目指す企業からの更なる参加を募るなどして、解析を加速し、最終的には10万人規模の全ゲノム解析の実現を目指しています。

コンソーシアム参画企業のコンソーシアムに対する期待

エーザイ株式会社:執行役チーフデータオフィサー(兼)筑波研究所長の塚原克平は、「全ての生物がAGCTの4文字から成る設計図を持ち、その違いが人々の健康に大きな変化をもたらします。本コンソーシアムへの参画を通じて、ゲノム情報とヒューマンバイオロジーを深く理解し、認知症やがんに対する革新的な治療薬・診断法・予防ソリューションの提供につなげてまいります。」と述べています。

小野薬品工業株式会社:研究本部長の滝野十一は、「当社は、ToMMoの大規模な全ゲノム配列及び医療・健康情報の統合解析を、個別化・精密化医療の基盤として高く評価しています。ToMMoのデータと、当社が注力するがん、免疫、神経、スペシャリティー領域でのノウハウを活かし、革新的な薬剤を創製することにつなげてまいります。」と述べています。

武田薬品工業株式会社:Research Computational BiologyグローバルヘッドのSandor Szalmaは「長期的な健康状態の推移を遺伝的背景の多様性に基づいて理解することは、予防医療や個別化医療の実現に非常に重要です。本コンソーシアムはこの様な研究に必須な国内研究基盤を飛躍的に発展させるものと期待しています。当社は本コンソーシアムへの参画を通じて、革新的医薬品の創製を加速化させます。」と述べています。

第一三共株式会社:執行役員トランスレーショナルメディシン統括部長の熊倉誠一郎は「本コンソーシアムに参画できることを大変嬉しく感じています。創薬の成功確率の向上には、遺伝的背景情報と複数の表現型を統合的に解析することが有効であり、この活動を通じて、革新的な医薬品の創出を実現することで、世界中の人々の健康で豊かな生活に貢献していきたいと思います。」と述べています。

個別化医療・予防の実現に向けて

東北メディカル・メガバンク計画は東日本大震災を契機に、震災の被害からの復興と、個別化医療・予防の基盤の確立を掲げて進められてきました。15万人の一般住民の方々からの未来の医療へ貢献したいという意思のもと、多大な協力をいただき続けていることが、精緻な健康データを蓄積させ本コンソーシアムのような大規模な取組を可能にさせています。多数の製薬企業とToMMoとの協業による今回の取組は、未来型医療を東北の地から発信する、という東北メディカル・メガバンク計画の立ち上げ時から掲げてきた目標の達成に向けた大きな一歩となります。

健常者を中心とした追跡可能な一般住民の大規模な全ゲノム解析は、がんや難治性疾患、未診断疾患に対する遺伝情報解析に必須の対照配列(リファレンスゲノム)情報として利用され、各疾患の遺伝情報解析の飛躍的な性能向上が見込まれると共に、「層別化創薬」の促進支援への広範な活用が期待されます。我が国において、ゲノム情報に立脚した個別化創薬推進の基盤となり、多様な疾患の発症機序の解明をはじめ、創薬研究に多大な貢献が期待されます。

また大規模な解析基盤の創出は、我が国のアカデミアにおける広範な研究にも利活用され、更なる研究の発展を促進する相乗効果を生むことも期待されます。

コンソーシアムの概要

  • 名称:全ゲノム情報と医療・健康情報の統合解析コンソーシアム
  • 目的:総計10万人規模の全ゲノム解析情報と様々な医療情報・健康調査情報を統合的に解析し、革新的医薬品の創製や個別化・精密化医療の実現に活用すること
  • 参画企業(2021年7月時点):エーザイ株式会社、小野薬品工業株式会社、武田薬品工業株式会社、第一三共株式会社、ヤンセンファーマ株式会社
  • 設立日:2021年3月30日
  • コンソーシアムの期間:2021年3月31日~2026年3月31日

参考

東北メディカル・メガバンク計画について

東北メディカル・メガバンク計画は、東日本大震災からの復興事業として平成23年度から始められ、被災地の健康復興と、個別化医療・個別化予防の実現を目指しています。ToMMoと岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構を実施機関として、東日本大震災被災地の医療の創造的復興および被災者の健康増進に役立てるために、合計15万人規模の地域住民コホート調査および三世代コホート調査を平成25年より実施し、収集した試料・情報をもとにバイオバンクを整備しています。

AMEDは平成27年度より、東北メディカル・メガバンク計画の研究支援担当機関の役割を果たしています。令和2年度からは大規模な全ゲノム解析推進に新たに取り組み、成果のさらなる発展・展開、社会還元による個別化予防・医療の実現を求めています。

用語説明

*1 バイオバンク
生体試料を収集・保管し、研究利用のために提供を行う。東北メディカル・メガバンク計画のバイオバンクは、コホート調査の参加者から血液・尿などの生体試料を集める。
*2 製薬協 政策提言 2019
製薬協 政策提言2019
*3 製薬協 政策提言 2021
製薬協 政策提言 2021
*4 コホート調査
特定の集団を一定期間追跡することによって、環境要因や遺伝的要因と疾病発生の関連を調べる調査。ここでいうコホート調査は「東北メディカル・メガバンク計画」の長期健康調査のこと。

お問い合わせ先

コンソーシアムに関すること

東北大学東北メディカル・メガバンク機構
長神 風二(ながみ ふうじ)
電話番号:022-717-7908
ファクス:022-717-7923
Eメール:pr“AT”megabank.tohoku.ac.jp

AMED事業に関すること

日本医療研究開発機構(AMED)
ゲノム・データ基盤事業部 ゲノム医療基盤研究開発課
電話番号:03-6870-2228
Eメール:tohoku-mm“AT”amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

掲載日 令和3年7月7日

最終更新日 令和3年7月7日