プレスリリース 脳卒中後てんかんの発作再発が臨床転帰に与える影響を解明

プレスリリース

国立循環器病研究センター
日本医療研究開発機構

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)脳神経内科部長猪原匡史が代表を務める国内多施設共同研究(PROgnosis of Post-Stroke Epilepsy:PROPOSE)において、神戸市立医療センター中央市民病院脳神経内科の吉村元医師、国循脳神経内科の田中智貴医長、福間一樹医師、猪原匡史部長らのグループが、脳卒中後てんかんにおけるてんかん発作の再発と発症1年後の臨床転帰の関連を解明しました。この研究成果は、American Academy of Neurology機関誌「Neurology」オンライン版に、日本時間2022年5月5日に掲載されました。

背景

脳卒中後てんかんは高齢者てんかんの原因の3分の1以上を占める重要な疾患で、超高齢社会に伴いさらに増加することが予測されています。また、てんかん発作の再発を認めると、多くの高齢者は入院を要し、機能障害が増悪する可能性が考えられました。しかし、脳卒中後てんかんの機能予後に関し前向きに検討した報告はこれまで殆どありませんでした。

研究手法

全国8施設(国立循環器病研究センター、神戸市立医療センター中央市民病院、済生会熊本病院、東京都健康長寿医療センター、中村記念病院、聖マリア病院、岡山医療センター、トヨタ記念病院)において2014年~2018年にかけて脳卒中後てんかんと初めて診断された症例において、前向きに1年間のてんかん発作再発、予後を観察しました(図1)。予後については死亡及びmodified Rankin scale (日常生活動作における機能障害の指標) を調査しました。

図1 研究のフローチャート

成果

初発の脳卒中後てんかんと診断された211症例のうち、1年間で50例(23.7%) にてんかん発作の再発を認めました。予後については、25例(11.8%)に機能障害の増悪を認め、20例(9.5%) が死亡しました。発作再発との関連をみると、機能障害は発作再発がある方で増悪しやすいことが分かり、年齢、性別、発症前ADL、抗てんかん薬服薬状況などで調整してもその関連は変わりませんでした(オッズ比3.26倍、p=0.01)。さらに、発作の再発回数が多い程、機能障害が増悪する症例が多いことも分かりました(傾向検定p=0.006、図2)。一方で、死亡と発作再発の間には有意な関連はありませんでした。

図2 脳卒中後てんかん発作再発と機能予後、死亡との関係

本研究から得られた知見

2021年、先行研究にて、脳卒中後てんかん治療に関して、新世代抗てんかん薬が旧世代抗てんかん薬と比較して、てんかん発作再発抑制、服薬継続率で有効性が高いことを報告(Tanaka T, Fukuma K, Ihara M et al. Brain and Behavior 2021)していますが、本研究は発作再発を予防することが機能予後を保つ上で重要である可能性を示した研究であります。

脳卒中とてんかんの専門診療を行う医療機関が参加した国内多施設共同試験である本研究は、実臨床を忠実に反映した結果であると考えられ、今後の脳卒中後てんかん治療戦略において重要な知見と考えられます。

発表論文情報

著者
Hajime Yoshimura, Tomotaka Tanaka, Kazuki Fukuma, Soichiro Matsubara, Rie Motoyama, Masahiro Mizobuchi, Takayuki Matsuki, Yasuhiro Manabe, Junichiro Suzuki, Katsuya Kobayashi, Akihiro Shimotake, Kunihiro Nishimura, Daisuke Onozuka, Michi Kawamoto, Masatoshi Koga, Kazunori Toyoda, Shigeo Murayama, Riki Matsumoto, Ryosuke Takahashi, Akio Ikeda, Masafumi Ihara, and the PROPOSE Study Investigators
題名
Impact of seizure recurrence on one-year functional outcome and mortality in patients with post-stroke epilepsy
掲載誌
Neurology

謝辞

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業「脳卒中後てんかんの急性期診断・予防・治療指針の策定」により支援されました。

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掲載日 令和4年5月9日

最終更新日 令和4年5月9日