プレスリリース 複数のバイオバンクにまたがる利用申請がシンプルに―バイオバンク・ネットワークの共通の利用申請システムを開発―

プレスリリース

国立大学法人東北大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

発表のポイント

  • 日本の主要なバイオバンク間で、複数のバイオバンクをまたいで利用申請を行う際に、一度の記入で申請が可能な申請システムを開発し、分譲利用を対象にその試行的な運用を開始しました。
  • 本申請システムは、バイオバンク横断検索システム注1により検索された試料・情報について、その利用の窓口として機能し、スムーズな利用手続きを行うツールになることが期待されます。

概要

世界各国でゲノム医療・研究、創薬開発のためのインフラとして、バイオバンクの整備が進み、欧州ではそのネットワーク構築も行われています。日本でも日本医療研究開発機構(AMED)「ゲノム医療実現バイオバンク利活用プログラム(ゲノム医療実現推進プラットフォーム・ゲノム研究プラットフォーム利活用システム)」の研究プロジェクトで主要な14のバイオバンクが参画するバイオバンク・ネットワーク注2を構築し、バイオバンク横断検索システムの運用を行うなど利活用の促進に取り組んできました。

このたび、さらなる利活用の促進を図るため、バイオバンク・ネットワークに参画するバイオバンクの分譲申請を共通して行える利用申請システムを開発し、試行的な運用を開始しました。アカデミアや企業のゲノム医療研究、創薬開発の研究者などの利用者は、バイオバンク横断検索システムで検索した試料・情報について、共通の利用申請フォームに一度記入するだけで複数のバイオバンクの担当者にアクセスでき、分譲申請がスムーズに進むことを可能にしました。

バイオバンクが協力して構築した本申請システムを用いて、総計60万人を超える試料・情報が一つのバイオバンクであるかのようにスムーズに利活用できるようになるための一歩となり、よりよいゲノム医療研究、創薬開発が実現し、成果の創出につながると考えられます。

詳細な説明

背景

バイオバンクは、ゲノム医療研究、創薬開発等にとって重要な研究資源となっています。国内には数十ものバイオバンクが存在しているものの、疾患名や収集している試料・情報の種類、保管・品質管理方法、利用条件・手続き等が機関によって異なります。アカデミアや企業の研究者にとって、必要とする試料・情報にアクセスし難い状況にあり、有効に利活用できる環境が十分ではないのが実状でした。

そこで2018年度、AMED「ゲノム医療実現推進プラットフォーム事業」で、複数のバイオバンクが連携して取り組む新たな研究開発事業「ゲノム研究プラットフォーム利活用システム」が開始されました。その後連携は拡大し、現在までにバイオバンク・ジャパン(BBJ)や、東北メディカル・メガバンク計画(TMM)、ナショナルセンター・バイオバンクネットワーク (NCBN)の各バイオバンクをはじめ14のバイオバンクがバイオバンク・ネットワークに参画しています。

本事業では、日本の主要なバイオバンクの試料・情報を横断して検索できる 「バイオバンク横断検索システム」を開発し2019年10月に初版を公開しました。その後アップデートを重ね、その運用を通じて、各バイオバンクの多様性は生かしつつ、共通化を図り、利用者の求める試料・情報を迅速に提供することを目指して取り組んできました。

14バイオバンクのネットワークは大きく成長し、2024年2月時点で、総計約60万人の協力者の約163万個の試料、約32万件以上のゲノム解析情報等が利活用可能です。バイオバンク横断検索システムにより、日本の主要なバイオバンクの試料・情報の疾患名、試料・情報の種類、試料品質管理情報等を標準化し、疾患名のほか性別、年齢、既往歴、試料種類、解析情報種類、試料品質管理情報、疾患特異的臨床情報などにより横断検索できます。

一方、利用者からの要望に対しては、バイオバンク・ネットワークに参画するバイオバンクはそれぞれ独自の利用申請フローや申請書により、事前相談から試料・情報提供までの手続きを行ってきました。また、バイオバンクの試料・情報の利用にあたっては、利用者とバイオバンクの担当者との間で申請と提供に関わる様々な実務があり、その調整過程で膨大なメールのやりとりや、責任者の承認作業が必要になります。こうした背景から、試料・情報の利活用までの流れが煩雑化していることが課題となっていました。

そこで、2021年度からは、バイオバンク・ネットワーク事務局において、ワンストップでのバイオバンクの試料・情報を利用した研究支援を開始し、バイオバンク横断検索システムから、実際のバイオバンクの利用までに関するスムーズな手続きを可能とするシステムの構築に取り組んできました。

今回の取り組み

バイオバンク横断検索システムにより検索された試料・情報の分譲申請について、参画するバイオバンクの申請フローの共通部分を洗い出し、利用申請書を共通化しました。複数のバイオバンクにおける所要経費・時間の概算、事前相談、利用申請準備、共通の利用申請フォームによる利用申請書の作成までの手続きが可能です。バイオバンクはその目的、取り扱う試料・情報、組織の成り立ちが多様です。その多様性を生かしながら、システムの工夫によって、利用者の利便性の向上を実現しました。

本申請システムでは、利用者が共通の利用申請フォームに一度記入すると、参画するバイオバンクそれぞれの利用申請書が自動作成されます。さらに、利用者とバイオバンクの担当者が進捗を共有し見通しよく手続きを進められるよう、希望する試料・情報の入力から分譲申請までを課題管理ツールとして実装し、プロセスを「見える化」しました。

図1.バイオバンク・ネットワークのウェブページから利用申請システムへ
図2.利用申請システムの表示画面

利用方法

まず、利用者はバイオバンク横断検索システムを利用し試料・情報を検索します。そして利用申請システムにログインし、分譲を希望する試料・情報、研究課題名、研究概要等を入力すると、各バイオバンクへの利用希望について情報が共有されます。次に、各バイオバンクが所要費用・時間を概算し利用者に回答します。利用者は回答結果から、利活用を希望する試料・情報を検討・選択し各バイオバンクとの事前相談を行い、分譲申請の準備に進みます。両者合意のうえで、利用者はバイオバンク・ネットワークの共通の利用申請フォームに記入すると、利用申請書が自動作成されます。各バイオバンクはその利用申請書をもって、個別に分譲申請を受け付けて、手続きを行います。

バイオバンク・ネットワーク利用申請システム及びバイオバンク横断検索システムは、下記のバイオバンク・ネットワーク ウェブサイトからアクセスできます。

サイト名
バイオバンク・ネットワーク
言語
日本語
URL
https://www.biobank-network.jp/
※利用にはユーザー登録が必要です。

今後の展開

今回運用を開始したバイオバンク・ネットワークの利用申請システムは、バイオバンク横断検索システムに登録された試料・情報を研究者が迅速に入手できることを目指したツールです。これにより、広くバイオバンクを利活用する研究開発の促進につながることが期待されます。

また、日本の主要なバイオバンクの分譲申請が共通のシステム上で可能となることにより、ネットワークへ未参加のバイオバンクも含めて、利用申請書を共通化させていく流れができれば、利便性が飛躍的に高まると考えられます。

今後、申請書提出後のフローについても、バイオバンク間で共通化可能な要素の抽出などを通じて、手続きとその後の処理の一層の円滑化を検討していきます。

研究プロジェクトについて

本研究課題は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援により実施しています。(課題管理番号:JP23tm0424402)

研究開発代表者
荻島 創一(東北大学東北メディカル・メガバンク機構)
事業名
ゲノム医療実現バイオバンク利活用プログラム
プログラム名
ゲノム医療実現推進プラットフォーム・ゲノム研究プラットフォーム利活用システム
研究開発課題名
ゲノム医療実現推進のためのバイオバンク・ネットワーク構築とバイオバンク利活用促進に関する研究開発

本研究開発課題は、日本医療研究開発機構(AMED)による、ゲノム医療実現に向けた研究の推進のために、バイオバンク横断的な試料・情報の利活用促進環境を整備し、オールジャパンのプラットフォームを構築するもので、2018年に前プロジェクトが開始され、2023年から現プロジェクトが開始されました。3大バイオバンク(BBJ、東北メディカル・メガバンク計画(TMM)、NCBN)を中心に、それらを補完する特色を持った中核的な大学病院等の診療機関併設バイオバンクのネットワーク化を実現し、試料・情報の横断的な検索及び標準的かつ効率的な利用手続きを可能とすることにより、研究基盤としての利活用環境を整備します。これらの取組により、研究の性質や規模に合わせた適切な試料・情報の利活用を可能とし、ゲノム医療研究の推進加速に貢献しています。

用語解説

注1.バイオバンク横断検索システム
研究目的に合致する試料や情報が、どこのバイオバンクにどれだけ保管されているかについて簡単に無料で調べることができるウェブ上の検索システム。
2019年10月の初版公開以来、試料品質管理情報・同意情報の項目を追加した第2版(2020年11月)、疾患特異的臨床情報を追加した第3版(2021年9月)、前向き採取による試料を識別するための項目を追加した第4版(2023年3月)を公開、累次のアップデートを重ねながら運用を行っている。
URL:https://www.biobank-network.jp/cross-search
注2.バイオバンク・ネットワーク
日本医療研究開発機構(AMED)によるゲノム医療実現バイオバンク利活用プログラム(ゲノム医療実現推進プラットフォーム・ゲノム研究プラットフォーム利活用システム)の課題「ゲノム医療実現推進のためのバイオバンク利活用促進に向けたバイオバンク・ネットワーク構築とバイオバンク利活用促進利活用促進に関する研究開発」に参画する以下14のバイオバンクによるネットワーク。
<ネットワーク参画バイオバンク>(2024年2月現在)
  • バイオバンク・ジャパン (BBJ)
  • 東北メディカル・メガバンク計画(TMM)
  • ナショナルセンター・バイオバンクネットワーク (NCBN)
    • 国立がん研究センター(NCC)
    • 国立循環器病研究センター(NCVC)
    • 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
    • 国立国際医療研究センター(NCGM)
    • 国立成育医療研究センター(NCCHD)
    • 国立長寿医療研究センター(NCGG)
  • 京都大学医学部附属病院クリニカルバイオリソースセンター (KUB)
  • 東京医科歯科大学疾患バイオリソースセンター (TMD)
  • 筑波大学附属病院つくばヒト組織バイオバンクセンター (THB)
  • 岡山大学病院バイオバンク (OBB)
  • 神戸大学医学部附属病院バイオリソースセンター(KBR)
  • 信州大学医学部附属病院バイオバンク信州(BBS)

お問い合わせ先

研究に関すること

東北大学東北メディカル・メガバンク機構
統合データベース室
教授 荻島 創一(おぎしま そういち)
TEL:022-274-6038
Email:ogishima”AT”megabank.tohoku.ac.jp

報道担当

東北大学東北メディカル・メガバンク機構
広報戦略室
教授 長神 風二(ながみ ふうじ)
TEL:022-717-7908
Email:tommo-pr”AT”grp.tohoku.ac.jp

AMED事業に関すること

日本医療研究開発機構(AMED)
ゲノム・データ基盤事業部 ゲノム・データ研究開発課
ゲノム医療実現バイオバンク利活用プログラム
(ゲノム医療実現推進プラットフォーム・ゲノム研究プラットフォーム利活用システム)
TEL:03-6870-2228
Email:genome-support”AT”amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

掲載日 令和6年3月19日

最終更新日 令和6年3月19日