成果情報 赤痢アメーバ症治療薬の候補化合物を発見

令和元年10月4日成果情報

佐賀大学
日本医療研究開発機構

赤痢アメーバ(※1)は、ヒトの大腸に感染し、赤痢アメーバ症を引き起こす寄生原虫です。臨床薬が限られること、有効なワクチンがないことから新規薬剤開発、病原性の解明が危急の課題です。本研究では、赤痢アメーバ“含硫脂質代謝”の酵素(APSキナーゼ)を標的とする阻害剤探索を行った結果、赤痢アメーバのAPSキナーゼを選択的に阻害する化合物3種類を得ることに成功しました。

私たちは赤痢アメーバの硫酸代謝の研究を行っています。これまでに、

  • 赤痢アメーバの硫酸代謝は含硫脂質の合成・分解に特化していること
  • 含硫脂質代謝は赤痢アメーバの生活環の維持に必須であること
  • 赤痢アメーバは、新規含硫脂質fatty alcohol disulfates(※2)を合成、栄養体期の原虫の増殖に必須な分子であること
  • 赤痢アメーバのシスト形成時(※3)にはコレステロール硫酸(※4)が合成され、シスト形成制御に重要な分子であること
を明らかにしてきました(概略を図にまとめます)
(Mi-ichi et al. PNAS. 2009, PLOS NTD. 2011, PNAS. 2015, PLOS Pathogens. 2016,Mol Microbiol. 2017)。

つまり含硫脂質は赤痢アメーバにとって重要な代謝産物であることになります。

今回、含硫脂質合成に関わる酵素APSキナーゼを標的とする阻害剤のスクリーニングを行いました。その結果、図に示した3種類の化合物が赤痢アメーバのAPSキナーゼ活性を阻害すること、含硫脂質の合成を阻害すること、そして栄養体増殖およびシスト形成を停止させることを見出しました。さらにA-D-11, A-H-11の2種類については、ヒトの細胞増殖に影響を与えないことも見出しており、選択毒性に優れたリード化合物となることが期待されます。

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)感染症研究革新イニシアティブ(J-PRIDE)「赤痢アメーバ“含硫脂質代謝”を標的とする阻害剤探索 -全容解明と治療薬開発にむけて-」の研究支援を受け、本学、見市文香と吉田裕樹が、鹿児島大学(石川岳志博士)・長崎大学(濱野真二郎博士)と共同で行ったものです。

本研究成果は、2019年8月19日(月)に米国科学誌「PLOS Neglected Tropical Diseases」(オンライン)に掲載されました。

論文情報

タイトル:
Characterization of Entamoeba histolytica adenosine 5'-phosphosulfate (APS) kinase; validation as a target and provision of leads for the development of new drugs against amoebiasis. PLoS Negl Trop Dis. 2019 Aug 19;13(8):e0007633.
著者名:
Mi-Ichi F, Ishikawa T, Tam VK, Deloer S, Hamano S, Hamada T, Yoshida H.
URL
https://journals.plos.org/plosntds/article?id=10.1371/journal.pntd.0007633

用語説明

(※1) 赤痢アメーバと赤痢アメーバ症
赤痢アメーバは、アメーバ動物門に属する寄生性の原虫であり、寄生虫感染症の中の赤痢アメーバ症の病原体です。全世界で5000万人が感染、毎年4~7万人が死亡しており、わが国でも年間数百例の報告があり、その罹患率は年々増加の傾向にあります。
(※2) Fatty alcohol disulfates
直鎖状の炭素鎖の両端が硫酸化された、赤痢アメーバでのみ、その合成が報告されている含硫脂質です。この含硫脂質の合成を減少させると赤痢アメーバの栄養型期の細胞増殖が阻害されます(Mi-ichi et al. Mol Microbiol. 2017)。
(※3) シスト形成
赤痢アメーバの生活環は、ヒトの大腸内で細胞増殖を繰り返す栄養型期と、シスト期の2つに大別されます(図、右下)。ヒトへの感染経路はシストの経口摂取であり、シストの飲料水・食料への混入が、次の宿主であるヒトへの感染を拡大させます。したがって、シスト形成機構の研究の重要性の認識は非常に高いのですが、その分子機構は未解明なままでした。
(※4) コレステロール硫酸
コレステロールの水酸基が硫酸化された含硫脂質(硫酸基を含む脂質)です。シスト形成が始まると、赤痢アメーバがコレステロール硫酸を合成、シスト形成を促進します(Mi-ichi et al. PNAS. 2015)。

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最終更新日 令和元年10月4日